WEEKEND TRAVELLER

大都会と山小屋の二拠点生活がくれる「自覚」——佐久間裕美子(NY在住ライター)

クリエイティブな人たちは、得てして時間の使い方がうまい。なかでも、1日や2日という短期間で、驚くほど効率的に旅をする人は、セルフマネージメントの達人と言えるだろう。そうした賢人たちの行動例から、週末小旅行のアイデアを学ぶシリーズ。今回のゲストは、さまざまな雑誌で活躍し、いま米国で起きる生き方の変化を追ったロングセラー本『ヒップな生活革命』の執筆でも知られる、ニューヨーク在住のライター、佐久間裕美子さん。週末を山小屋で過ごすという彼女と、都会と健康的につき合うために必要な二拠点生活について考えます。

TEXT BY SHINYA YASHIRO
PHOTO BY YUMIKO SAKUMA

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1/5佐久間が、ニューヨーク郊外のアップステートに借りている山小屋。
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2/5部屋の窓からは、自然しか見えない。「庭」ともいえる林には、季節によってハンターの姿を見ることも。
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3/5最初に訪れてから7年以上が経つけれどまだまだワークイン・プログレス。
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4/5大家さんでもある友人宅の近くにある家庭菜園。野菜類のおすそわけを受ける。
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5/5雪が降れば、木が折れて道を塞ぐこともある。

——日々を大都会ニューヨークで過ごされていると思っていた佐久間さんが、週末は山小屋にいると聞いて、驚きました。

佐久間 ニューヨーク市を背に北上したニューヨーク州の広域を「アップステート」と呼ぶのですが、1時間半くらい行ったところに使われていない古い山小屋のついた土地を持っている友人夫妻がいて、2010年から、それを直す手伝いをしながら、週末をここで過ごすようになりました。仕事が忙しかったり、ニューヨークにいなかったりで、足が遠のいたこともあったのですが、最近は、ここで過ごす時間の重要さを実感して、ニューヨークにいる時は週末できるだけ予定を入れずに、アップステートで過ごすようにしています。

都会からの脱出と帰還

——二拠点生活に近いですね。山小屋に行くキッカケは、何かあったんですか?

佐久間 金融危機がおきた2008、2009年あたりからニューヨークの閉塞感を身にしみて感じるようになっていました。ハリケーンで橋やトンネルが封鎖されてしまったり。閉じこめられている感じがイヤになったんですよ。

あと、ニューヨークで生活するストレスは、ひとりになる時間がないことでした。もちろん、ブルックリンの自分の部屋にいれば「ひとり」にはなれますが、完全に他人を感じないことは難しい。上の階に住む人の足音とか、周りから聞こえてくるクルマの音とか……。

この山小屋がいいのは、林のなかに家がポツンとあること。入り口は道に面しているけれど、窓からは自然しか見えないんです。だから、ここだと本当にひとりになれる。

——週末を山小屋に過ごすときは、何曜日に移動されるんですか?

佐久間 理想をいえば、金曜の14時くらいには、ブルックリンを出たいですね。夕方の渋滞に巻き込まれたくないので。夕食後に出発することもあるし、土曜の朝出ることもあります。

1日目(金曜日)

14:00
ブルックリンの自宅から、クルマでアップステートの山小屋へ出発。
16:00
山小屋に到着し、少し昼寝などをしながら、チルする。
17:00 
起きて、晩ご飯をつくって食べる。本を読みながら、就寝。

2日目(土曜日)

07:00
起床。コーヒーを入れて、本を読む。
09:00
ファーマーズストアに行って、焼き立てのドーナツで朝ご飯。野菜などの食材 を購入。
11:00 
山小屋に戻り、本を読む。
17:00
夕食をつくり、お酒を飲みながら映画を観る。
22:00 
就寝。

3日目(日曜日)

07:00
起床。コーヒーを飲んで、一仕事。
15:00
日が暮れる前に、山小屋を出発。
17:00 
ブルックリンの自宅に戻る。

佐久間 都会に帰還するタイミングも結構大事ですよ。自分の心が洗われた状態を、渋滞で汚したくない(笑)。「何だったんだろう、この2日間は……」という気持ちになってしまうので。

「自覚」を取り戻すために

——週末を山小屋に過ごすことで、月曜日からの都会に備えるイメージですね。

佐久間 私はつくづくストレスに弱くって、都会から離れて、「非日常性」がある時間を過ごせるおかげで、健康な気持ちで生きられているという感覚がありますね。山小屋以外にも、ぱっと短い旅行に行くことはよくあります。ネィティヴインディアンの儀式を見せてもらうためにアリゾナに、テキサスにあるアートの聖地、マーファで遊んだり……。ストレスマネージメントの一環ともいえるかもしれません。

——山小屋での生活と、都会でのそれとは大きく違いそうですが、そこにはストレスはないんでしょうか。

佐久間 たとえばですが、雪で木が倒れて停電するというようなことが1年に1度くらいは起きる。冬のある金曜日、雪が降ってるなと思いつつ、大丈夫だろうと思って向かっていたら、山小屋の近くのガソリンスタンドの電灯がチカチカしていて、マズそうだな……と。ニューヨーク周辺の雪のすごさを忘れてしまってたんです。

案の定、家に着くと電気が落ちていました。近くにフルタイムで住んでいる人たちは、緊急用の発電機を持っていますが、うちにはないんです。でもせっかくの週末だし、ガスはあるから、2泊くらいなら電気なしで大丈夫かなと思って頑張ってみました。あったのは電池ギリギリのiPhoneと、Blueteethスピーカーだけですが何とかなりました。トイレの水を流すのにも、少しは電気を使っているので、3日目の終わりには流れなくなりましたけど。

——電気がないと、トイレって流れないんですね。

佐久間 場所によりますけど、今はほとんどがそうじゃないでしょうかね。こういうことも、普段の生活ではほとんど考えないですよね。便利になれちゃっている。ここでは木が折れるだけで、停電しますから。このあたりでは、ゴミの集荷もお金を払ってきてもらわないといけない。ゴミを出したくないからペーパータオルを使わずに台布巾でテーブルを拭くようになる、そうやって、少しずつ長い間の習慣が変わってきたというか。

——ただ、都会の便利さから抜け出すのも、難しいですよね。

佐久間 山小屋での生活は、ある種の戒めなのかもしれません。自分たちの都会生活が何に依存しているのか、どんなコストを環境にかけているのかを教えてもらえるというか。そういう自覚のようなものが、都会で暮らす自分の精神的なバランスをとるのを助けてくれるというか、つくづく自分はダメな都会人なのだと思います。

profile

佐久間裕美子|Yumiko Sakuma
1973年東京生まれ。ライター。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。著書に『ヒップな生活革命』(朝日出版社)『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、翻訳書に『テロリストの息子』(朝日出版社)がある。