WEEKEND TRAVELER

台北弾丸日帰り出張は「旅」なのか?——豊田啓介(建築家)

クリエイティブな人たちは、得てして時間の使い方がうまい。なかでも、1日や2日という短期間で、驚くほど効率的に旅をする人は、セルフマネージメントの達人と言えるだろう。そうした賢人たちの行動例から、週末小旅行のアイデアを学ぶシリーズ。BIMといわれる建築モデリングなど、技術的な革新を業界にもたらしている建築家・豊田啓介さんが今回のゲスト。台北にも自身の拠点を構え、移動が日常となった豊田さんが「旅」とは何かを考えます。

TEXT BY SHINYA YASHIRO
PHOTO BY KEISUKE TOYODA

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——豊田さんが共同主宰されている建築事務所「noiz」は、台北と東京にそれぞれ拠点を設けられていますよね。普段から、台湾と日本を行き来されることが多いのでしょうか。

豊田 最近は日帰りすることも多いですね。そうなると、ほとんど旅の要素はゼロ……。むしろ東京にいたほうがゆっくりできることを考えると、マイナスぐらいの感覚です(笑)。

台北 日帰り出張

05:15
都内の自宅から羽田空港へ向かう。
06:40
台湾・台北行きの飛行機に搭乗する。
09:30 
台北松山空港に到着し、1つめの打ち合せ場所へ。
10:00 
台湾での打ち合せ開始。連続で設定されているため、ランチやメールはタクシーの中で。
17:00
タクシーに飛び乗り、空港に向かう。
17:45
台北松山空港から、羽田行きの飛行機に搭乗。
20:30
羽田空港に到着。
23:00
帰宅する。

——これは、お忙しそうですね……。

豊田 だから最近は「違う場所に行くことが旅である」という定義自体を問い直して、日常のなかに「旅」を感じるようにしています。もちろん長距離の移動は旅の重要な要素ですが、普段いる東京でも気分転換できたら、それもまた旅だと呼べるのではないかと。

たとえば、街並みのなかに不思議な曲がり角があったりしますよね。変な角度で道が曲がっているので、向こう側に行くと自分が知らない世界に繋がれることがサジェストされるような……。打ち合わせの合間に、そういう道をあえて進んでみるということです。建築家としてどういう要素がそういった感覚を作り出すのか、それを分析してデザインすることに興味があるんです。

——日常のなかにも、非日常は存在しうるということでしょうか。となると、旅の定義そのものが曖昧になってきますね。

豊田 たとえば、徐々に場所と情報の関係が変わりつつあるという気がします。テクノロジーが発展していなかったころは、移動しなければ別の場所にある情報なり感覚なりを手に入れることはできなかった訳です。

最近の国際会議では、iPadの装着された小型の自動二輪走行車が動き回っている様子を見ることが多くなりました。参加者がデバイスをリモートにハックすることで、現地に行かなくとも会議に参加でき、何ならスピーチもできる。あれは、移動しなくても「旅ができる」ことの一つの形かなと。「温泉の素」を風呂に入れるのも、香りという旅の一部を切り取るという意味で同じ原理ですよね。旅って分解できるんです。

事務所の近くで行われた、ドローン飛行実験。人間と違う視点から、誰も知らない「街角」が見えてくる(編註:noizが実験を行ったのは、航空法でドローンが規制される前の2015年4月。さらに、安全には何重にも配慮したという)。

——ですが、実際に移動しなければ分からないこともあるはずですよね。

豊田 イタロ・カルヴィーノというイタリア人作家が書いた『見えない都市』という幻想小説が好きなのですが、これを読むと、鼻腔の奥に中東辺りの乾燥した大地の空気感が拡がってきます。こういう抽象的な「空気感」って、たしかに旅をすることでしか得られないことなのかなと。

旅の価値を否定したいわけではありません。これまで漠然と常識的に「旅」とパッケージで呼んでいたものを、次の段階に進化させるために、一度無味乾燥でロジカルな要素に分解してみて、それぞれがどう絡まり合っているかを確認したいという思いがあります。ぼくが建築に対して行っていることと同じなのですが、分解してから元に戻すことで、新しい在り方がないか確認をしてみたいのです。

——そんな豊田さんにとって、理想の旅に欠かせないことはなんでしょう?

豊田 不安になれないと、旅は面白くないですよね。自分の周りに起きている現象の因果関係や、根底にある価値観が見えなくなるような、孤独が大事なんだと思うんです。自分を保護してくれていた空気の層が極限まで薄くなるような感覚に陥って、全ての毛穴がブワっと開きます。そんな、ありとあらゆるものに対する感度が全身で上がる瞬間が、旅の価値なのかなと。これは、空気感を知ることの意味でもあるはずです。

10年以上前、モロッコの砂漠の真ん中でレンタカーがスタックしたことがありました。そのとき、現地人のガイドが助けを呼んでくると言って、歩いて2時間かけて地平線の向こうに消えていったんです。周りには絵に描いたようにキレイな動物の白骨があったりして……。10時間経ってから、蜃気楼の向こう側に小さなクルマの影が見えて、ホントに助けに来てくれたんだと、脱力しました。こういう経験は、都市では不可能ですからね。

profile

豊田啓介|Keisuke Toyoda
東京大学工学部建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学建築学部修士課程終了。アメリカのSHoP Architectsを経て、2007年より東京と台北をベースに「noiz」を蔡佳萱、酒井康介と共同主宰。近年ではSHIBUYA CASTのファサードとランドスケープのデザインを手がけた。

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