BORNELUND STORY #8

子どもも大人も健やかに生きる“あそび場”を目指して|「ボーネルンドの取り組み」❽

1981年の創立以来、子どもの健やかな成長にあそびを通して貢献することを目指し、教育玩具・遊具の輸入販売とあそび場環境の開発事業を行ってきた「ボーネルンド」。40年余にわたって「あそび」の大切さを訴えてきた企業の理念と取り組みが、自治体や行政をも惹きつけて、さらなる広がりを見せています。その現状とこれからの展望について副社長の中西みのりさんにお聞きしました。

PHOTO BY YU INOHARA(PORTRAIT)
TEXT & EDIT BY MARI MATSUBARA

玩具販売だけでなく、子育てに関わるすべての人の交点に

——「ボーネルンド」は幼稚園・保育園の園庭や公園に置く、デンマークの大型遊具の提供からスタートし、その後、世界中の教育玩具を扱う販売店舗を開き、全国に展開しています。「ボーネルンド」のショップが、他の玩具店と違うところとはどんなところでしょうか?

中西 子どもは赤ちゃんから幼稚園児、小学生と、年齢に応じてやりたいこと、できることが異なります。「ボーネルンド」のショップは、子どもの発達段階に応じたあそびの種類を揃えており、一人一人違う子どものニーズに合わせて世界のあそび道具を提供しています。大半が輸入玩具なので、説明書だけでは使い方が分からないことも多く、ショップには必ず「インストラクター」と呼ばれるスタッフがおります。インストラクターは、単におもちゃの使い方を説明したり、お勧めしたりするだけではなく、子どもへの関わり方や、今のお子様の興味や欲求に合ったあそび道具を提案したり、玩具がどのような面で子どもの成長に寄与するのか、という観点で親御さんの様々な相談にのってくれます。また、店内で子どもと一緒にあそび道具で遊ぶこともあります。すると、親御さんが毎日の生活では見えなかった子どもの成長に気づくこともあるんです。ショップで遊ぶ子どもの姿から「あら、こんなことができるのね」という発見も得られます。

ボーネルンドのショップでは、経験豊富なインストラクターが親身になって子育ての不安を解消するアドバイスをしてくれる。

ショップの中に玩具を使って遊べるコーナーが設けられている

子どもの発育段階に応じた優れたあそび道具を世界中から豊富に選び抜いている。

中西 私自身、6歳になる子どもがおりまして、出産直後は子育てに不安だらけでした。「ボーネルンド」に入社して20年以上、玩具のバイヤーやあそび場の開発に従事してきましたので、子どもの成長や教育に関しては豊富な知識を蓄えたはずなのに、いざ自分の子どもの話になると、途端に「どうしよう!」と心配になってしまって。そんな時、「ボーネルンド」のショップに行くと、経験豊富なインストラクターがいろいろな相談ごとを親身になって聞いてくれたり、「大丈夫よ」と言葉をかけてくれたり、本当に安心できました。

こうした個人的な経験を通じて、あらためて我が社のことながら「ボーネルンド」のショップの素晴らしさを実感しましたね。特に、家の中ではお母さんと子どもだけの時間が流れ、それはそれで貴重な時間なのですが、あまりにも社会と断絶してしまい、孤立感を感じるお母さんも少なくないはずです。「ボーネルンド」のショップは、そういうお母さんたちが悩みや課題を共有できる、心のオアシス的存在でありたいと考えています。特にお買い物の予定がなくても、ふらっとお立ち寄りいただいて、他のお母さまたちやインストラクターとお話をされるだけでもいい。街の中の公園のように、いつでも遊びにきていただきたいと思っています。ショップは子育てに関わる人たちのコミュニティーである、そのように考えています。

身体を動かして親子で遊ぶ、屋内あそび場「キドキド」

——「ボーネルンド」の取り組みの中の大きな特徴として、屋内のあそび場「KID-O-KID(キドキド)」が挙げられると思いますが、このプロジェクトはどのような考えのもとでスタートしたのですか?

中西みのり|Minori Nakanishi 1974年生まれ。92年から5年間、ロンドンの大学でマーケティング、インテリア・建築デザインを学ぶ。99年ボーネルンド入社。バイヤーや新規事業開発担当として世界中の作り手やあそび場を訪問、研究。世界中にネットワークを持つ。店舗デザイン・設計、あそび場の企画開発、商品開発などを経て現在副社長。東日本大震災の際には、一時的に外で遊べなくなった郡山市の子どもたちのために、1,700㎡のあそび場を、自治体、小児科医、地元企業と協働して3カ月間でつくりあげた。

中西 「キドキド」は、あらゆる運動能力の土台となる“走る”、“跳ぶ”、“転がる”など36の身体の基本の動きを、あそびの中で自然に体験できるよう設計したアクティブエリアと、創造あそびに集中して取り組むエリアが一体となった施設です。2002年に「キドキド」の前身となる「あそびのせかい」を北九州市に作りました。市側から、小倉駅前のAIMビルで急遽空いた7,000㎡ものスペースで子育てに関するプロジェクトを協働したいという打診があり、2001年から計画を進めていた矢先に、ニューヨークの同時多発テロが起きました。

当時、私の両親である社長の中西弘子、会長の中西将之はワシントンに出張中で、アメリカでジャーナリストをしていた姉が合流し同行していました。両親はシカゴ、姉はニューヨーク行の飛行機に搭乗し、離陸直前にテロが発生、避難しました。大混乱の中、鉄道でニューヨーク入りした時、あまりの惨状に言葉を失ったそうです。なんの罪もない子どもたちの平穏な毎日が、一瞬にして壊される現状を目の当たりにし、私たちに何か子どもたちのためにできることはないか、と皆で考えました。そして、とにかく子どもたちが遊べる環境を作ろう、という思いを強くし、それまで取引していた世界中の玩具メーカー一軒一軒に連絡して遊具などの開発に協力を仰ぎ、「地球は子どものあそび場だ」をコンセプトとして、「あそびのせかい」のプロジェクトを進めました。この経験がきっかけとなり、2004年に「キドキド」第1号店を横浜みなとみらいにオープンしました。現在、「キドキド」は全国に17カ所、コロナ前には年間約200万人の利用者を迎えました。

屋内で思い切り身体を使って遊べるあそび場「キドキド」

——子どもにとって「あそび」は重要な要素であるという「ボーネルンド」の理念は、世間にどのように受け止められてきたのでしょうか?

中西 「あそび」とは何でしょう?という根源的な問いにもつながるのですが、ボーネルンドを創立した40年前は、あそびと言うとエンターテインメントだとか、余暇の退屈しのぎであると捉えられたり、あるいは勤勉の反対にある“サボり”だと思われたり。また子どもにとっては勉強の対極にあるものが「あそび」だとされがちでした。しかし、子どもはあそんでいるときに一番ものごとを吸収するんです。勉強でもスポーツでも、あそびながら習得すると著しい効果が得られることがデータでもわかってきました。教育関係者や行政もその「あそびの重要性」に着目するようになり、長年、わたしたちが提唱し続けてきたことをようやく理解していただけるようになりました。

——「キドキド」の利用者からは、どんな反響がありますか?

中西 子どもたちはここに来ると、無我夢中で全身を動かして遊び、「帰りたくない、ここに住む!」と言う子もいるほど楽しんでくれます! 親御さんからは、子どもがご飯をよく食べるようになった、疲れ果ててぐっすり眠るようになった、その結果、毎日の生活が規則正しくなり、楽しく学校へ行くようになったとか、モチベーションが上がった、集中して勉強に取り組むようになった、などの声をたくさんいただき、手応えを感じています。あそびながら身体だけでなく頭も心も使いますし、新しい友達にも出会えます。

「キドキド」には、なりきり遊びのコーナーも充実。子どもたちはなりきり遊びを通して、社会性や自信を身につける。

子どもが健やかに成長し、大人が生涯元気な人生を送るために

——近年では「キドキド」のノウハウを生かし、自治体や行政と連携した取り組みが多いそうですが。

中西 以前から、多くの自治体で少子高齢化や町の過疎化にどう対処するかという問題があり、子育て支援をして若い世代の移住を促進したいとか、街に人を集めて活性化するにはどうしたらいいか、など頭を悩ませているようです。そうした問題を解決するべく、ボーネルンドはこれまで「キドキド」開発・運営のノウハウを活かして、様々な地方自治体と協働し、全国に60カ所以上のあそび場を開発してきました。最近の例としては、2021年4月に京都府亀岡市に子育て支援拠点「あおぞらひろば」を協業開発しました。道の駅「ガレリアかめおか」に、2020年から室内あそび場「かめまるランド」を協働開発していましたが、その屋上庭園にできた屋外のあそび場が「あおぞらひろば」です。

2021年4月29日に京都府亀岡市「ガレリアかめおか」の屋上にオープンした「あおぞらひろば」。土や砂、植物、香り、自然の陽光に触れながら身体を使ってあそべる大型遊具が揃っている。

幼児が安心して遊べるコーナーも設けられている。

中西 また、BOATRACE振興会との協業も近年取り組んでいます。全国各地で開催されるボートレースは公営で、その収益金を地域に還元していますが、舟券のオンライン販売が進んで以来、レース場まで足を運ぶ人が減少傾向にありました。そこで、2019年から「BOAT KIDS PARK モーヴィ」の開発・運営に取り組み、これまで埼玉県戸田市、山口県下関市、静岡県湖西市、福岡県芦屋町、愛知県常滑市、佐賀県唐津市を経て、2022年4月10日に兵庫県尼崎市に7カ所目を開業しました。2021年11月にオープンした「BOAT KIDS PARK モーヴィとこなめ」は、「BORTRACE とこなめ」場内に屋内外のあそび場を開設し、0歳の赤ちゃんから、身体を活発に動かせる3歳〜12歳ごろまで、様々な年齢に合わせたあそびの種類でゾーンが分けられています。

また、隣接する「コミュニティパーク グルーンとこなめ」という無料の公園施設では、大人が健康増進に利用できるアウトドアフィットネスやヨガスタジオ、またティーンの子どもたちが球技をして遊べるコートなどが設けられ、多世代の方の交流の場となっています。日本は高齢化が進み、100年人生をいかに健康的かつ社会性を持って生きていけるか、ということが重要な課題になっています。子どもだけでなく、大人もお年寄りも、健やかに生きるための環境づくりを「ボーネルンド」は目指しています。

「ボートレース常滑」場内の広大なスペースに、大型遊具で遊べる「BOAT KIDS PARK モーヴィとこなめ」がオープンした。

高さ9mの遊具の上からは、疾走するボートが一望できる。

屋内のあそび場も充実。走ったり跳んだり、登ったりできるアクティブゾーンと、よちよち歩きの赤ちゃんのためのベビーゾーンに分かれている。

「モーヴィとこなめ」に隣接する屋外無料公園「コミュニティパーク グルーンとこなめ」。ティーンからお年寄りまでみんながアウトドアフィットネスを利用でき、幅広い世代が交流する場所になっている。

——今後のプロジェクトをお聞かせいただけますか?

中西 2023年、北海道に開業する新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」の敷地内と周辺で、当社では過去最大規模となる屋内・屋外あそび場を設計・開発・運営する予定です。ここには野球観戦に来る方も、そうでない方も、誰でも遊ぶことができます。単に球界を盛り上げようという発想ではなく、街づくりや地域住民の健康促進、子どもの発育促進、スポーツ振興、野球選手のセカンドキャリアなどを含めたもっと大きな構想に基づいて開発が進められています。あそび道具をのせたラッピングカーで地元の公園や幼稚圏や小学校を巡り、あそびを届ける計画もあるんですよ。

2023年に開業予定の球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」予想図。ボーネルンドはファイターズと提携し、その他の自治体も協働して、子どもが「あそび」を通じて健やかに成長する社会づくりや、スポーツを通して地域の人々が交流を深めるコミュニティーづくりを目指す。

エスコンフィールド内にできる屋内のあそび場の予定図。乳幼児から小学校高学年まで幅広い年代の子どもたちの興味や発達に応じてゾーン分けされる。

——こうした「ボーネルンド」が開発・運営する屋内外のあそび場には必ず「プレイリーダー」がいるそうですね。どんな役割なのですか?

中西 プレイリーダーは、子どもとあそびについて学び、当社の考え方やあそびの価値を理解したあそびのプロです。全国のボーネルンドのあそび場に常駐し、あそびの指導をするのではなく、あそびが生まれるきっかけを作る存在です。子どもの「おもしろそう」「やってみたい」という気持ちを引き出すのがとても上手ですし、あそび場ごとに驚くほどたくさんのプログラムを開発、蓄積しています。

プレイリーダーがほんのちょっとアドバイスするだけで、子どもは俄然興味を持ち、あそびにのめり込み、徐々に自立して遊べるようになります。ちょっとだけ背中を押して寄り添い、あとはスッと身を引く。その匙加減が絶妙です。行政と協業してつくった全国のあそび場にもプレイリーダーを派遣したり育成したりしています。私も母親なのでよく分かるのですが、子どもは同じあそびを延々と繰り返すので、正直、親はそれに付き合っていられないと感じることがありますよね。あそび自体もマンネリ化しますし。そういう時にプレイリーダーの存在は、本当にありがたいんですよ。

ほんの少し背中を押して、子どもの能動的なあそびの手助けをするプレイリーダー。ボーネルンドの理念と価値観を体現する「あそび創出」のプロだ。

プレイリーダーの少しの手助けやアドバイスで、「あそび」が数倍面白くなる。

——最後に、コロナ禍が想像以上に長引き、今後もウィズコロナの生活が予想されるなか、「ボーネルンド」は子どものあそび環境についてどのように向き合っていかれますか?

中西 生物としての人間は本来、生きたいという欲求があります。子どもであれば、食べたい、寝たい、あそびたいと自然に思うものですし、その欲求は子どもの成長のための欠くことのできない重要な要素なのです。「遊んじゃダメ」「外へ出てはダメ」と頭ごなしに言うのは、そういう人間としての欲求や権利を奪うことにつながります。ですので、感染対策を徹底しながら、可能なかぎり、子どもたちがのびのび遊び、健康でいられる環境を提供し続けていかなければ、と考えています。

コロナ後の新しい取り組みとしては、家庭の中で、短時間で、親子でできるあそびをプレイリーダーがやってみせる動画を配信しています。これまでに数十種類の動画を作り、YouTubeなどで見られるようになっていまして、おかげさまで好評をいただいています。子どもたちが遠くへ行けないのであれば、我々の方から出向く、つまりプレイリーダーが出張してあそびをお届けすることもできます。大変な世の中になってしまいましたが、その時々でアイデアを出して、少しでも子どもたちにあそびの機会を提供していきたいと思っています。

ボーネルンドの「PLAY! PLAY! WEEK 2022」5月8日(日)まで

全国のボーネルンドショップとあそび場では、「感じるままに、あそび出そう」をテーマに、Unpluggedな、全身や手を動かすあそび体験を提案します。体を動かす、水で遊ぶ、手作りを楽しむ。たくさんのイベントプログラムを用意。また、1万1千円以上お買い上げの方にはボーネルンドオリジナル収納ボックスをプレゼントします。

明治とのコラボプロジェクトもスタート!

「あそび」と「食べる」で子育てを応援します。7月1日、2日にはヒルズカフェ/スペースでワークショップも開催予定。

ボーネルンドショップ 六本木ヒルズ店
店内にあるあそび道具の多くを、実際に手に取って試すことが可能。専門のインストラクターが常駐し、あそび方の説明や、あそび道具選びのお手伝いもしてくれる。同フロアの親子休憩室もボーネルンドがプロデュースした。 住所 東京都港区六本木6-10-2 六本木ヒルズ ヒルサイドB2F 電話 03-5770-3390 営業時間 11:00~19:00 ※無休 問合せ先 ボーネルンド