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イノベーションのキーワードは、「すげぇチームとホットスポット」!?

いまの時代に求められる「新しい教養」とは何かを探し求め、国内外の賢人たちに予防医学研究者の石川善樹がインタビューを行う本企画。今回登場するのは、「組織のクリエイティビティと価値創造」を研究テーマに据える、法政大学准教授の永山晋。この先、持続的にイノベーションを起こしていくため不可欠なチームビルディングと思考法とは?

TEXT BY TOMONARI COTANI
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI

永山さんは、僕にとってのドラえもん

石川 僕は、このところずっとネットワーク科学に興味を持っていて、先日もパリの学会に行ってきたばかりです。以前、(経営戦略の専門家である)入山章栄さんにお会いした際に、「ネットワークのことなら永山くんだよ」と教えていただき、それ以来、永山さんは僕にとってドラえもんのような存在です。とりあえず困ったら、いや、困らなくてもまずは永山さんに訊いてみる、という。

永山 いえいえ(笑)。おそらく、石川さんが知りたいことをたまたま知っていただけです。

石川 今日は、クリエイティビティとイノベーションのことだったり、いろいろお訊きしたいのですが、まずは読者の方々への自己紹介も兼ねて、永山さんのご経歴を教えていただけますか?

永山 僕は広島県の出身なのですが、「家から一番近い」という理由だけで、広島市立大学に入りました。でも、このまま卒業して就職して……というベルトコンベアに乗っているような道に違和感を感じてしまい、大学を休学して、ずっとやりたかった音楽関連の仕事をするために上京したんです。

石川 音楽関連の仕事というと?

永山 音楽制作会社に入りました。ミュージシャンがスタジオに来た時に、ミキシングやアレンジをしたり、社長が歌っている鼻歌をキーボードで弾いて曲にしてみたり、ということをやっていましたね。でも、すごい激務だったこともあって2年で会社を辞めることになりました。その時点では大学も中退していたので、東京で適当なところに就職したのですが、適当に選んだだけあって会社が潰れかけ(笑)、クビになるんです。「会社はキチンと選ばなきゃいけないな」ということで、いろいろ応募してみたのですが、大学中退だとどうしても書類で落ちてしまい……。「やっぱり大学くらいは卒業しておこう」ということで、早稲田大学に編入しました。

石川 研究者として順調なキャリアを歩んできたのかと思っていましたが、なかなか波乱に満ちた出だしだったんですね。研究者の道に入ったきっかけは?

永山 最初から目指していたわけではないんです。普通に就活していましたから。そういえば僕、就活で森ビルを受けて落とされました(笑)。

石川 就職できないのは、中退のせいじゃなかったと(笑)。

永山 はい(笑)、最初の方のグループインタビューで落ちました。まあでも、やりたいことの軸もそんなに定まっていなかったので、僕が面接官でも落としただろうなって思います。その後、内定はもらったのですが、会社員として働くイメージがどうもしっくりこなくて……。

そうこうしているうちに、「大学の先生もおもしろそうだな」っていう意識が芽生えたんです。僕は、井上達彦先生という経営戦略を学ぶゼミに入っていたのですが、井上先生と接しているうちに、大学の先生という職業も選択肢としておもしろそうだってことに気がつきました。それで修士へ進み、そのままこうなっちゃった、といったところでしょうか。

石川 そんなバックグラウンドがあったんですね。永山さんがエンターテインメントの研究をされている理由がよくわかりました。オリコンチャートの研究をしているんでしたっけ?

永山 はい。オリコンチャートのデータを40年分くらい集めて、どのプロジェクトがヒットするかということを、クリエイターの経験やネットワークを使ってどこまで説明できるか、という研究をしています。

石川 そんな永山さんに、まずは、科学の世界でイノベーションやクリエイティビティがどのように研究されているのか、という話を語っていただきたいなと思っています。

石川と永山の対談は、六本木ヒルズ森タワー14階にある、森ビルの会議室にて行われた。

クリエイティビティとイノベーションの違い

永山 まず、クリエイティビティの研究は心理学から始まっています。

石川 1960年代にJ・ギルフォードというアメリカの心理学者が始めたんですよね。

永山 はい。クリエイティビティの研究が一番蓄積しているのは、おそらく心理学だと思います。僕のメインフィールドは経営学なのですが、経営学にクリエイティビティという発想が入ってきたのは1990年代で、ハーバード大学のテレサ・アマビールによってメジャーになったと言っていいと思います。

アマビールは、「クリエイティビティとはアイデアであって、イノベーションとは、みんなが使えるように実装されたもの。つまりイノベーションの前にクリエイティビティがあるんだ」といったことを言っています。アイデア(=クリエイティビティ)をみんなが使えるようにしたり、商業ベースにすることをイノベーションと呼ぶんだ、ということです。そういう区分けが、経営学では共有されていると思います。

2000年代に入ると、物理をはじめとする自然科学の人たちがクリエイティビティに着目し始めます。今までクリエイティビティは社会科学でしたが、自然科学の人たちが、ソーシャルサイエンスのデータ、たとえばTwitterのデータなどを使い出し、その中のひとつとしてクリエイティビティを扱い出したんです。たとえばサイエンス・オブ・サイエンス、要は科学者を科学するという領域が立ち上がりました。

経営学では、「クリエイティビティとはアイデアで、イノベーションとは、そのアイデアをみんなが使えるように実装すること」だとされていると、永山は語る。

石川 研究は「どれだけ引用されたか」が成果指標になるので、クリエイティビティやイノベーションを測りやすいんですよね。そういえば永山さんは以前、自然科学の人たちは、目先の成果と中長期的な成果に関してどういうアプローチを取っているかについて教えてくれましたよね。

永山 まず大前提として、イノベーションを起こしていくにはどうすればいいかというと、そのひとつが、既存の要素の新しい組み合わせによって「新しいもの」を生み出すことだとされています。たとえるなら、「いちご」と「大福」を組み合わせたら、「いちご大福」という新しい商品が生まれた、といった感じでしょうか。だったら新しい組み合わせをたくさん作ることで、継続的にイノベーションを起こしていけるのではないか、ということになりますよね。

では、組み合わせによって生まれる成果の「数」の面での目先の成果と中長期的な成果について話を戻します。

どういう「素材の選択」をすると、たくさんの組み合わせができるのか。自然科学の分野では、たとえば「アルファベットを使って単語を作る」、「食材を使ってレシピを作る」、「IT技術を使ってITサービスを作る」というシミュレーションを通じて、この命題を調査した研究があります。「5つのアルファベットを使ってなるべく多くの単語を作るためには、どのアルファベットから選びますか?」という時、選び方は2つあります。ひとつはEやRやAといった、たくさん単語を作りやすいアルファベット、つまりは短期的に成果が出そうな素材を選ぶ方法。もうひとつはNとかTといった、持ち手の素材が少ない今は使いづらいけれど、扱える素材が増えた将来にたくさん単語が作れそうな素材を選ぶ方法です。

この2択ですが、実は長期的視点に立って素材を選択した方が、使える素材の数を増やしていくにつれよりたくさんの組み合わせを作れることがシミュレーション上証明されています。アルファベットだと26個しかありませんが、これが料理の素材であったり、IT系のサービスであったりと、どんどん素材のバリエーションが多くなっていくほど、ロングタームで選んだ方が、ショートタームをすぐに追い越すこともわかっています。つまり、短期的に使いやすい素材を差し置いて、先々に必要な素材を常に選び続けるのが最適な戦略というわけです。

石川 人は流行に弱いから、ディープラーニングとかブロックチェーンとかに飛びつくけれど、イノベーションを起こし続けるという観点からは、今は流行っていない、もしくは今は見えていないけれど、どこかにあるものとくっつけた方がいい、ということですよね。


すげぇヤツより、すげぇチームが強い

石川 ロングタームの戦略について、ブライアン・ウッツィというノースウェスタン大学の先生が、示唆的な論文を書いています。それによると、科学の世界や特許を見ると、昔はひとりで作っていたけれど、最近になればなるほどチームで作っている方がイノベーティブであるそうです。すげぇヤツより、すげぇチームの方がイノベーション度は高い。では、すげぇチームってどういうチームなのかが気になるわけですが、そこに出てくるのが「ホットスポット」というキーワードなんです。

永山 はい。

石川 何かを組み合わせる時に、ホットスポットというものがあると。ブライアン・ウッツィという人はすごい人で、複雑なことはあまりしないんです。シンプルなアイデアで、華麗に問題を解く。僕がメチャクチャ憧れるタイプです(笑)。彼のアイデアを図にしてみると……。

石川の指摘を元に、永山が記した図。横軸が「アイデアの年齢」(Age)で、左が新しく右が古い。縦軸は「アイデアの年齢の多様性」(Diversity of Ideas)。上に行くほど多様性が増す。左上(アイデアの年齢が若い×アイデア年齢の多様性がある)がホットスポットだとされる。

石川 横軸が、そのアイデアの年齢(Age)。左が新しくて、右に行くほど古くなる。縦軸が、アイデアの多様性(Diversity)。多様性というのは、アイデアの「年齢」の多様性です。下は多様性が少なく、上に行くほど多様性がある。

で、目先の戦略というのは左下なんです。新しいものをとにかくくっつけるわけです。右下は、いわゆるオリジンを大事にするタイプ。「原点はここなんですよ」みたいな職人気質と言えます。右上が、昔のアイデアをとにかくいっぱい持っている、言うなれば松岡正剛さんのようなタイプ。そして左上、つまりは新しくて多様性のあるものがホットスポットです。

10個アイデアがあったとして、7個は新しくてもいいけれど、3つは古いアイデアで、その分野に関連していなくてもいい。平均的には新しいけれど、アイデアの年齢に多様性がある。逆に言うと、何か事業や企画を考える時に、その企画に入っているアイデアとか事例が新しいものばかりだと、大してイノベーティブではないし、そこに古いアイデアが含まれていたら、ロングターム戦略になっているということになります。これまでは、新しいもの好きと古いもの好きがいて、お互いが正しいと主張していたわけですが、それをアウフヘーベン(矛盾するものを更に高い段階で統一し解決すること)したんです。組み合わせた方がいいんじゃないの?って。

永山 ウッツィとは別の研究者が、同じことを言っていました。新しいものができるとき、2つのメカニズムがあると。ひとつはテンションビュー。今までくっついていなかった全く違う要素をくっつけるから、新しいものができるんだという流派。もうひとつはファウンデーショナルビュー。要は、深い知識があって、型があるからこそ、それを破って新しいことができるんだということ。古いことをディープに知っていないと新しいものが生まれないという見方なのですが、実際は、両者のアウフヘーベンなわけですよね。

チームということで言うと、メンバー数の問題もありますよね。ビッグヒットを生み出すのは少ないメンバーからなるチームなのか、たくさんのメンバーからなるチームなのか、どっちがいいの? という話があって、正解は求める性質によって異なってくると言われています。ビッグチームは、これまでの延長線上のものを作る傾向があって、それでもヒットはするのですが、スモールチームは、これまでとまったく違うアプローチをしてくると。すぐにヒットは生まれないけれど、後々ヒットになる傾向が強い、ということを調べた論文がありました。どちらも併存することで、科学は発展するのではないかと。

石川 ここまでの話をまとめると、イノベーションとかクリエイティビティというのは、個人からチームへと移っているし、目的によってスモールチームで行くのか、ラージチームで行くのかが変わってくる。たとえばディープラーニングを推し進めようと思うと、ラージチームの方がいいし、ディープラーニングに変わる次の何かを作ろうとするのだったらスモールチームの方がいい。で、スモールであれラージであれ、どちらしてもイノベーションなり、リノベーションなりをしなければいけなくて、それにはホットスポットがキーワードとなる。といったところでしょうか。

ロングテールのイノベーションを起こすには、古いアイデアと新しいアイデアが混ざったプロジェクトをスモールチームで進めていくことが最適と、石川は考える。

クリエイティブであるためには「移動」せよ

石川 イノベーションを起こし続ける、あるいはクリエイティブであり続けるためには……という問いから考えると、いつもやっているなじみの人と新しい人たちが、適度に組み合わさっているのがいいという論文を目にしました。

そこで思い返すと、日本企業では当たり前にあった人事異動というのが、意外とその機能を果たしていたのではないかということです。なかば暴力的に素人がやってきて、古い人たちとワーワーやる。ドラッカーはそれを、「強みに基づく経営」と見なして賞賛しましたよね。

人は、思考のクセとか、人と出会う時のクセとか、移動のクセといったものがあると思うんです。そうしたクセを自覚して変える、というのがわかりやすいと思います。一番変えやすいのが移動のクセで、一番変えにくいのが思考のクセですよね。移動が変われば出会う人も変わると思うので、一石二鳥だなって思います。

永山 そういえば、Twitterのデータを使って、どうやったらエコーチェンバー現象が起きるのか、どうやったら避けられるのかを研究しているチームがいました。当然、放っておくとエコーチェンバー現象が起こるんですが、「自分と違うな」って思った時に、アンフォローしないってことが大事らしいです。それによって、少なくとも情報のダイバーシティは確保できると。

石川 確かに入ってくる情報を変えた方が、思考パターンを変えるより早いですよね。思考パターンを変えるのは、相当難しい。でも一流と言われている人たちは、大体自分なりの思考パターンを持っている気がしますけどね。「このパターンにどんな情報でもいいから放り込む」と。このパターンで行けばいいものが出る、みたいなものを、みんな持っている気がします。

パリの学会に出席した帰りの飛行機で、ピクサーの『リメンバー・ミー』を観たんです。ピクサーって、ストーリーのパターンが毎回一緒じゃないですか。序盤で大事なものが失われて、その後葛藤——『リメンバー・ミー』だと、家族を取るか音楽を取るかみたいな葛藤があり、それによって展開が生まれて、最後は両方取るみたいな(笑)。同じパターンだけど、毎回おもしろい。ストーリーとしては一緒だけれど、キャラクターなり世界観を変えることで、ピクサーという会社はイノベーションをし続けていますよね。

永山 同じものを違う人に売る、という手もありますよね。学問の世界では常套手段というか。そもそも経営学がそのカタマリみたいなもので(笑)、経済学で仕入れた知識を経営学で売ったり、心理学で得た知識を売ったりしているところがあります。クリエイティブ・アービトラージって名付けた人がいましたけれど。

石川 サヤ抜きしているんですね。

永山 オーディエンスを変えるっていうことでもあります。

石川 ある種の出口戦略ですね。でも、本人的には翻訳しただけで、クリエイティブなことはしていないわけだけれど。

永山 でも、結構侮れないなと思っていて、わりと日本には必要な要素ではないかと思っているんです。たとえば1980年代の音楽産業では、アイドルがメチャクチャ売れていた時代があったと思うのですが、実はそのアイドルの曲を作っていた人たちって、松本隆とか大瀧詠一とか山下達郎とか、70年代にロックやニューミュージックといった、日本で新しいとされていた音楽をやっていた人たちです。彼らが80年代にこぞって裏方にまわり、アイドルの曲を作ってヒットさせたわけです。それまでは阿久悠的な歌謡曲の世界だったわけですが、そこから一気にモダンになりました。それを支えたのが、70年代に不遇の時代を過ごしたミュージシャンたちなんです。

ある特定の性質やスキルを持った人たちが連続的に大移動することで、新しいスタイルが定着する。それって、シリコンバレーでプログラミングをやっていたギークが、どんどん産業に入っていって、新しいITスタートアップを作っていったという流れと似ているなと思っています。どこかで培われたものが大移動していくというのは、大きなムーブメントを生むのではないかと思うんです。

石川 それでいうと、リーマンショックで職を失った金融工学の天才たちが、その後Web広告の世界に入り、ターゲティング広告のようなアドテクを開発したらしいですよね。

スキルは一緒だけれど、業界を変えるっていうやり方は確かにありますよね。ただ、「どのスキルを手に入れたら、自分は安泰だろうか」っていう感じで、スキルにすがってばかりいると、イノベーティブなことを起こしづらいと思います。自分がもし、クリエイティブなりイノベーティブなことをしたいのであれば、スキルという発想を1回捨てて、単純に遠くへ移動してしまえと言いたいですね。

永山 海外に行くとクリエイティビティが高まるという研究は、いろいろありますね。


横軸が「業界」、縦軸が「スキル」。人事異動では違うスキルが求められ、転職では同じスキルが求められるが、石川は人事異動の方がクリエイティビティを発揮できると考え、さらには業界もスキルも変える「右斜め上」へのスライドが、一番クリエイティビティを呼び起こすと唱える。


石川 みんな同じ業界、同じスキルのところにいるわけですよね。それで飽きる。人事異動って、この図で言うと上に行くことなんです。同じ業界で違うスキル。でも今の人って、同じスキルで、違う業界に移動したがりますよね。スキルにしがみついているんです。その点クリエイティブなのは、違うスキル、違う業界にぽーんと行けるかどうかなのではないかと思います。とはいえ、やっぱり行きにくいんです。採用する方も、「どうしたの?」みたいなことになりますし(笑)。ただ、業界とスキルという視点で考えた時に、両方とも変えないとクリエイティブなことはできない気がするんです。僕自身、ネットワーク科学の学会に行くなんて、昨年までは思いもしませんでしたから。

永山 僕と入山先生がやっている研究はそれに近いかもしれません。クリエイターがこれまで経験してきたこと、つまりは作詞とか作曲の「スキル」と、ポップスとかロックといったジャンルを「業界」と捉えると、いまのところ得ている結果としては、「同じ業界で違うスキル」、つまり「人事異動」が一番ビッグヒットにつながりやすくて、逆に「転職」は、ビッグヒットを減らすという結果が得られています。右斜め上は、ちょっとわからないです(笑)。

石川 自分がどの業界にいて、どんなスキルがあるかを客観視して、じゃあ、違うものってなんなのかってことを考える。延長上にはない、違う方向性っていっぱいあり得るから、その中で「どこに行ったらおもしろそうかな」って考えてみるといいのかもしれません。

永山 考えてみると、僕はそれこそ右斜め上に行った例ですよね。音楽から経営学の研究者っていう。すごくつらかったというか、大変でした。移動は、おそらく痛みを伴うんです(笑)。

石川 右斜めに移動しても変わっていない本質って、何か感じますか?

永山 僕の例で話していいのかわかりませんが、音楽と、学問って、似ている部分もあるんです。まず構成が、イントロ→Aメロ→Bメロ→サビってあるじゃないですか。論文も、イントロを書いて、仮説を書いて……という定番の構成があるのですが、音楽も論文も、イントロがとても重要なんです。それがしっかりしていないと、誰も見ないし聴かない。そこが似ているなと思ったのと、新しいモノを創り出すというので、特に学問の場合は、これまでのパターンとかやられてきたことを全部見ないといけないのですが、音楽もそれが多くて、既存の曲を聴いてエッセンスを取り出して、新しいものに入れていく、っていう部分があるわけです。モノを作るということは、本質的に似ているのかなって改めて思います。

石川 業界が変わると、プリンシプルが変わるという部分もありますよね。たとえば予防医学にいたときは、何がプリンシプルだったかというと「エビデンス」なんです。エビデンスが大事で、エビデンスからものごとを考える。スタート地点はそこなのですが、たとえばネットワーク科学とか、ナチュラルサイエンスに近づくと、エビデンスよりも、「それがヤバいかどうか」の方が大事なんです。マーケティングにしても、エビデンスは関係ないんです。人がどう思っているかという「インサイト」が重要ですから。

でも、プリンシプルが変わることに戸惑う人がいると思うんです。なぜ戸惑うかというと、考え始めるスタート地点が全然違うからです。違う業界同士がうまくいかないのは、大事にしていることが違うから、という部分があるのかなと思います。

永山 確かに論文を書いていても、マーケットのナレッジを新たに入手するのは意外と難しいんです。どうしても、今までの考え方、今までのプリンシプルで新しいモノをみてしまうので……。新しい思考は、身につけにくいですよね。結局個人のクリエイティビティを伸ばすという意味では、石川さんがおっしゃったように、移動をするのが一番の方法なのかもしれません。あとは好奇心。好奇心が高くないと、情報は入ってこないですよね。日々の些事によってフィルタリングされてしまっている好奇心をどうやって磨き、その好奇心に従って移動を厭わないというのが、クリエイティビティを伸ばす方法なのかもしれないと、今日は改めて思いました。

profile

永山晋 | Susumu Nagayama
1982年広島県生まれ。法政大学経営学部准教授。2002年広島市立大学情報科学部休学後、音楽制作会社で働く(同大学退学)。2007年に早稲田大学商学部に編入学し、2009年に卒業。2011年に同大学院商学研究科博士後期課程に進学し、2017年に早稲田大学より博士号(商学)を取得。早稲田大学商学学術院助教を経て、2017年に法政大学経営学部に専任講師として着任。2018年より現職。

profile

石川善樹|Yoshiki Ishikawa
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。近著に『仕事はうかつに始めるな』(プレジデント)、『ノーリバウンド・ダイエット』(法研社)など。