開発途上国の人々が感染症による苦難を乗り越え、先進国と同様に繁栄と長寿社会を享受できる世界をいかに実現するか? ヒルズから未来を切り拓く企業のいまに触れる連載の20回目は、アークヒルズ 仙石山森タワーにオフィスを構え、日本と世界を繋いで感染症の新薬開発を推進する国際的な官民ファンド「GHIT Fund」のCEO・専務理事、大浦 佳世理氏にうかがいます。
TEXT BY Kazuko Takahashi
PHOTO BY Koutarou Washizaki
マラリアや結核、「顧みられない熱帯病」など、世界に多くの患者がいる感染症に対する治療薬、ワクチン、診断薬の研究開発を支援するGHIT Fund(グローバルヘルス技術振興基金)。設立は2013年。日本政府が50%を出資、残りの50%を日本の製薬企業等とビル&メリンダ・ゲイツ財団及びウェルカムトラストが出資する。これまでに累計170億円、80件の新薬開発プロジェクトに投資し、目下22件の探索研究と14件の非臨床試験、アフリカ・南米で7件の臨床試験が進んでいる。
「開発途上国ではマラリアや結核で多くの命が失われています。世界保健機関が『人類の中で制圧しなければならない熱帯病』と定義する、20 種類の顧みられない熱帯病の患者は約10億人。顧みられない熱帯病は、死亡率は低いものの、就学・就労の困難や偏見を生み、それが社会活動の低下、貧困、劣悪な衛生環境、感染症への罹患、そして就学・就労の困難と、負のサイクルを引き起こします」
しかし、新薬開発への投資額は極めて低い。企業経営の観点からすれば、がんの医薬品などに比べて薬価が低く、新薬開発の投資対効果が低いからだ。GHIT Fund はこの課題解決を目指す。
日本発のイノベーションで世界を変える
「グローバルヘルスの新薬開発に政府と民間企業・財団が共同で出資をするモデルは世界各国から注目されています。日本には製品開発力という誇れる強みもあります。例えば、結核の迅速診断キット『TBLAM』は、富士フイルムが現像の技術を用いて作ったインフルエンザの診断キットを応用して開発されました。『日本発のイノベーションで世界を変える』をモットーとするGHIT Fund の象徴的な事例です」
ANA、Yahoo! JAPAN、森ビルなど製薬会社以外の企業もスポンサーとして参画。自社のサービスなどを提供している。
「SDGs(持続可能な開発目標)への貢献にもなると、国内外の企業から関心を寄せていただいています」
新薬の臨床試験においては患者の多い途上国の現地機関との連携が必須で、薬事申請、品質管理、流通の面でも先進国とは異なるノウハウが必要となる。
「新薬が開発されたとしても患者に届かなければ意味がありません。円滑な製品供給のために国内外の機関が協働できるプラットフォーム作りも進めています」
大浦さんは、米国デンバー大学を卒業後、日系製薬企業、次いで米系製薬企業に勤務。薬剤の開発における進捗管理、予算管理、人員管理を統括するプロジェクト・マネジメントの仕事に携わった。
「様々な人やグループをつなげてゴールに向かうプロジェクト・マネジメントは私の天職。GHIT Fund では、一つでも多くの新薬開発を実現し、患者を救うというゴールにまい進していきます」
GFIT Fund|公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金
大浦 佳世理|Catherine OhuraGHIT FundCEO兼専務理事。日系製薬企業、ブリストル・マイヤーズスクイブ米本社及び日本法人を経て今年4月から現職。テンプル大で修士号(薬事・品質保証)、カペラ大で博士課程単位(プロジェクトマネージメント)取得。
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