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「インキュベイトファンド」は起業家の最初で最大の応援団 連載|未来への挑戦者たち19

志ある起業家の挑戦を創業初期から支え抜くことをミッションとして掲げるベンチャーキャピタル、インキュベイトファンド。その取り組みの根底を支えるビジョンをめぐって、アークヒルズのオフィスにて和田圭祐ゼネラルパートナーに聞いた。

TEXT BY KAZUKO TAKAHASHI
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI

インキュベイトファンドは、創業期の起業家への投資や育成に特化したベンチャーキャピタル(VC)。総額337億円の資金を運用、関連ファンドを通じた投資社数は250社を超える。

「起業家に資金を提供し、株式差益などのリターンを得るというのが一般的な投資家のイメージですが、私たちはスタートアップ企業の創業期から経営に参画し、リスクや苦労をともに背負う覚悟でその挑戦を支えています。起業家の最初で最大の応援団でありたいと思っています」

インキュベイトファンドのオフィスがあるアークヒルズ3F「KaleidoWorks」には独立系VCが多く入居する。同社のラウンジスペースには社員の息抜き用に卓球台も。

同社は4人のゼネラルパートナーがけん引するベンチャーキャピタリスト集団で、和田圭祐さんは4人のうちの1人。

「4人ともに長くVC一筋。多くの起業家と苦楽をともにし、リーマンショックのような氷河期も乗り越えてきました。そうした経験や知見が大きな強みです」

投資先はいずれも未来的なチャレンジを形にしている。例えば民間発の月面探査チーム「HAKUTO」を運営し、月面資源開発の事業化を目指すispace社。あるいは、情報技術による電力供給の効率化に取り組み、巨大な電気事業に新たな価値をもたらしているパネイル社。

「常識にとらわれない視点を持ち、行動で示し、困難に直面してもトライし続ける、『Think Different』『Just Do It』『Never Give UP』の精神を兼ね備えた起業家に可能性を感じます。逆に、現実と照らして目標を小さくしたり、易きに流れたりしている起業家には厳しく指摘します。大事にしているのは、本音で言い合える関係づくりです」

また同社は、起業家と投資家が資金調達や投資の機会を互いに探る経営合宿「Incubate Camp」を展開。過去10回の開催で約190名の起業家が参加し、90社超のスタートアップ企業が生まれた。

「近年、国内におけるベンチャーの“エコシステム(多様なプレーヤーが補完的に収益構造を高める事業生態系)”は大きく発展しましたが、投資家の数はアメリカに比べるとまだ少ない。起業家と投資家がタッグを組んで事業創造に向かう流れを作っていきたいと考えています」

和田さんがVCに興味を持ったのは大学3年生の時。日本のVCの先駆者・堀義人氏の著書を読み、起業家の成功を享受できる仕事内容に惹かれたという。

「私にとっての成功の享受というのは、株式のキャピタル・ゲインなどよりも、起業家のアイデアが下馬評を覆して世の中に認められたり、市場に大きなインパクトを与えたりすること。個人的に注目しているのは、ロボティクスやサイバーセキュリティーの分野ですが、社会的な必然性や経済的な合理性があり、不可逆的な潮流と合致していれば、どんな事業でも評価はついてくると思っています。今後の目標は、社会インフラになり得る企業や、海外市場を獲得できる企業を多く輩出し、ベンチャー・エコシステムへの人材流入を促すこと。より良い未来への転換点を多く創っていきたいですね」

インキュベイトファンド

profile

和田圭祐|Keisuke Wada
インキュベイトファンド ゼネラルパートナー。2004年フューチャーベンチャーキャピタル入社、ベンチャー投資などに従事。06年サイバーエージェント入社、国内外の投資業務に従事。07年セレネベンチャーパートナーズ開業。10年インキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。