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「つながり」が、アイデアを加速する #1 長野泰和|KLab Venture Partners

アークヒルズを拠点とする会員制オープンアクセス型DIY工房TechShop Tokyo。その運営企業「TechShop Japan」の代表取締役社長・有坂庄一がホスト役を務める、異業種対談シリーズが今回よりスタート。さまざまな思想を持つビジネスパーソンとのつながりから、どのような知見が生まれていくのだろうか?

TEXT BY MASAYUKI SAWADA
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI

TechShop Japanの代表取締役社長・有坂庄一。

TechShop Japanの代表取締役社長・有坂庄一は、「TechShopは工房であり、ハードウェアを作る場所」という一般的な認識を、徐々にほどいていきたいと考えているという。「アイデアをカタチにする」とき、必要なのは、工具よりも仲間だったりするからだ。

そこで有坂は、まずは「ヒルズ」を拠点とするさまざまな企業のトップを招いたり、ときには出かけていくことで、「見たこともない未来」のアイデアの萌芽を一緒に育てていきたいと考えた。

まず最初に招いたのは、旧知の仲であるKLab Venture Partnersの代表取締役社長/パートナーの長野泰和。対話はまず、長野の最近の活動についてから始まった。

IoT系のベンチャーが盛り上がっている!?

有坂 記念すべき1回目のゲストは、久しぶりにお会いしたいなと思って、長野さんにご登場いただきました。

長野 光栄です。ありがとうございます。

有坂 実際にTechShop Tokyoをご覧になっていただいてどうでしたか?

長野 僕は「ベンチャーキャピタル」をやっているということもあって、どうしてもVC目線になってしまうのですが…(笑)。ウチはこれまで、IoT系への投資は行っていませんでした。

ただ、この前はじめてある会社に投資をしたんです。個人の体調に合わせて最適なサプリメントをサーバーサイドで調合して抽出してくれる、というヘルスサーバー事業を展開する国内ベンチャーの「ドリコス」で、デバイスのプロトタイプを作るために、VCから資金を集めてビジネスをスタートしました。

最初は投資対象なのかなという疑問が若干ありましたが、その会社を見ていくうちに、ビジネスとして勝機があることも分かり、今後は、このジャンルからベンチャーがたくさん生まれるんだろうなと思い直しました。

実際、今年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト。SXSW社がアメリカ合衆国テキサス州オースティンで開催している、世界最大のマルチメディアの祭典)では、ウェブサービスより、ハードウェアのベンチャーが目立っていたという報告も耳にしています。

有坂 投資対象のジャンルが変わってきているということですね。

長野 アメリカに関して言えば、その流れは間違いなくありますね。VCの投資のポートフォリオを見ていても、IoTがすごく増えていて、特にホーム関連ではすごくいい会社が出ています。日本はまだその流れが来ていない印象でしたが、最近になってようやく増えてきましたね。

有坂 アメリカに比べると、日本はIoT系の人材が少ないですよね。「製造業からベンチャーに行きました」という若い人はけっこういるんですけど、「開発責任者をやっていました」とか、「事業計画を作っていました」みたいな人が会社を飛び出し、ベンチャーをやるケースは本当に少ない。

長野 いないですね。ものづくりが分かるVCも少ないです。

有坂 たとえばバリバリ技術職でやっていた人がVCに入ってくるといった流動性が高まってくると、ちょっと変わるんだろうなという気はします。

長野 なんだかんだ言っても、大企業のエース級の人がどんどんスタートアップしないと、やっぱり盛り上がらないと思います。

KLab Venture Partnersの代表取締役社長/パートナーの長野泰和。

起業というのはRPGしているみたいなもの

有坂 投資を決める際の基準ってなんですか?

長野 本当にいろいろな要素があって、何十個もある要素の中からいろいろデューデリ(Due diligence=投資・M&A前の企業の資産価値評価)して投資しているのですが、一番重要なのは、その人自身にストーリーがあるかどうかという点なんです。取って付けたようなビジネスモデルで、「なぜあなたがこれをやっているのか?」という部分がいまいち分からない会社は、往々にして失敗しがちです。

有坂 結局は人に投資しているみたいなことをよく言いますが、要するに、そういうことでしょうか?

長野 そうですね。ベンチャーキャピタルにはフェーズがあって、シリーズBとかDとか、そういうある程度レイターの、「上場の手前です」みたいなところに投資するVCだと、ロジカルに財務諸表を見ながら…といった話もあるのですが、サービスもない、ユーザーもいないみたいなシードの状態だと、どうしても人への投資という部分がメインになりますね。

有坂 長野さんのところはシードが多いんですか?

長野 シードばかりです。だいたい月に1社ぐらい投資先を増やしているのですが、ほとんどシードですね。いろいろインタビューをして、「この人いいな」と思う方を選んでいる感じです。

有坂 アクセラレータープログラムみたいな話を聞くと、最初のアイデアと最終のアウトプットが全然違うものになっている、という話を聞きますが、そんなものなんですか?

長野 見える部分のサービスがピボット(軸足を中心に回転すること)して、ちょっと変わっているというのは確かによくある話です。でも、根底にある部分はあまり変わっていないと思います。

有坂 だからこそ、ストーリーが大事というわけですね。

長野 そうです。Googleも結局、検索エンジンというものは変わらないじゃないですか。でも、最初にやっていたサービスって、もともと広告モデルではなかったのに、リスティングというAdビジネスを取り入れて、それでうまくビジネスとして成立したみたいなことですよね。検索エンジンは変わらないけれど、広告事業にピボットしたみたいな。そういうことはよくありますし、実際すごく大事なことかなと思います。

この話で思い出すのが、1年くらい前かな、有坂さんと食事をしていたときに、有坂さんが「起業というのはRPGしているみたいなもの」とおっしゃったんですよ。たとえば『ドラクエ』で、村人にちょっと話しかけたらすごくヒントになったとかあるじゃないですか。そういう感覚に近いみたいなことをおっしゃっていて、本当にその通りだなと、感心したことを覚えています。

有坂 次から次に強敵キャラが現れたりするところもね(笑)。

長野 人との出会いだったりとか、実際にやってから気付くことがたくさんあるという点では、起業もまさにそうなんです。だから、多くのスタートアップが一度はピボットを経験するのだと思います。

フライス盤、旋盤、マシニングセンター(金属用・樹脂用)、ボール盤、バンドソー、ワイヤーカットなどを扱える金属加工はTechShop Tokyoでも人気のエリア。

表現方法はなんでもいい

有坂 実は我々もピボットしたいんですよ(笑)。ウチはこういう設備なので、「工房でハードを作る場所」と認識されることが多いのですが、僕としては、ハードに完全に寄せたくないんです。極端な話、映像を作ってもいいのではないかと。

やっぱり根っこにあるのは、アイデアをどう形にするかというところであって、それによってどういうコミュニケーションが生まれるかというところが肝であり、TechShop Tokyoではぜひそこを誘発していきたい。だから、表現方法はなんでもいいなと思っているんです。

長野 なるほど。こういう設備を作ったからといって、引きずられる必要はないってことですね。

有坂 そこはすごく柔軟にしたいから、いろいろな人に来て欲しい。さっきの『ドラクエ』ではありませんが、人に会うと気付きってすごくあったりするので。「こういうやり方あるんだ」みたいな気付きは、人に会って生まれることが多い。

そういう場として、今後ここがどういうふうに定着していくのか。今はまだ試行錯誤の段階だと思っています。我々としては、今までものづくりをして来なかった人たちが、より気軽に何かのアイデアを形にできるようにしてみたい。しかも、けっこうなものが作れるようなサービスにしていきたいですし、最近のプレミアムフライデーや副業といった流れに対しても、なにか活動できないかなと考えています。

長野 空いた時間にここに来て、ちょっとものづくりするという流れが定着したら、確かに面白そうですね。

有坂 今後より寿命が伸びていくと、自分でやっていかなければならない時間が増えるわけじゃないですか。そういう意味でも、決まった働き方ではなくて、ライフスタイルに応じて、キャリアの積み方を見直さなければいけないと思うんです。そこに、僕たちがコミットできたらいいですよね。

長野 「クラウドワークス」しかり、「Makuake」しかり、会社勤めしている人でもフリーランサーっぽい働き方をするというのは、トレンドになっていますからね。

有坂 あまり言えないかもしれないですけど、うちも法人で会員になっている会社さんで、日中に仕事と関係ないことをやりに来る人がけっこういるんですよ(笑)。

長野 あまり言えないですね(笑)。

有坂 場合によっては、真面目に打ち合わせでやって来た自社の人間と鉢合わせて、「なんでいるんだ」みたいな話になるんですけど、そうやって「なんでいるんだ」と言われる人の方がいろいろ手に職もあるから、おそらくこれからの人生、勝ち組になるのかもなって思うんです。

profile

有坂庄一|SHOICHI ARISAKA
TechShop Japan 代表取締役社長。1998年富士通に入社。長らくマーケティング部門に在籍し、2015年10月より現職。サンフランシスコにて本場TechShopのノウハウを学ぶ。

profile

長野泰和|HIROKAZU NAGANO
KLab Venture Partners代表取締役社長/パートナー。KLab入社後、BtoBソリューション企画営業、新規事業企画リーダーを経て、2011年12月に設立したKLab Venturesの立ち上げに携わり、取締役に就任。12年4月に同社の代表取締役社長に就任。15年10月にKVPを設立、同社代表取締役社長に就任。