ノンアルコールドリンクのスマートさや美味しさが改めて見直されつつある昨今。中でも、料理とお茶のマリアージュを楽しむ“ティーペアリング”に注目が集まっている。料理との相乗効果を狙うべく、茶葉の選定、その抽出方法や提供スタイルにまで趣向を凝らした、腕利きソムリエたちの知識と技を、今こそ存分に楽しみたい。
TEXT BY TAKASHI TSUCHIDA
PHOTO BY FUMIAKI ISHIWATA (NDPP.)
EDIT BY TM EVOLUTION.INC
❶ スパイスや柑橘を組み合わせた、料理の迫力と余韻に負けないティースタイル
——Réglisse(レグリス)
オリジナルモクテルとお茶ベースのアレンジドリンクを組み合わせた新感覚ノンアルコールペアリングを提供するのがここ、『レグリス』だ。中でも波多野猛シェフらしいジビエ肉の迫力と余韻に負けないようにと、ソムリエが工夫を施したティースタイルは、まるで芳しい香水のような存在感を放ちつつも、料理にぴったりと寄り添っている。
夏の名残りを感じさせる冷前菜「カッペリーニ」に合わせるのは、カリフォルニア・マイティリーフ社の「ホワイトオーチャード」。これは、緑茶にメロンや白桃の甘やかな香りを加えたフレーバーティーだが、独自にシナモンスティック、スターアニス、カルダモン、コリアンダーシードを3日間じっくりと漬け込む凝りようだ。ソムリエ曰く「夏に提供したいグリューナー・ヴェルトリーナー品種の白ワインに見立てました。爽やかさと余韻のスパイス感がお料理を引き立てます」。
また温前菜「鹿と猪のタン 炭火焼き」に合わせるのは、エルダーベリーとハイビスカスのノンカフェインフレーバーティー。こちらは規定時間よりも敢えて抽出時間を長くして、ベリーの果実味を濃厚に引き出す工夫を施している。ジビエ肉の特徴である鉄分がベリーの風味と調和し、料理のバランスがよりエレガントに昇華するからだ。
しかもこのお茶は、“清見オレンジ”をグラスの底に沈めたカクテル仕立てで提供される。茶葉だけではもの足りない要素をプラスして、強いアロマによるドラマティックな感動を導いているのだ。コース料理の隣でもうひとつのストーリーを奏でるこのユニークなペアリングを『レグリス』では積極的に楽しみたい。
❷ 茶葉のポテンシャルに徹底して向き合える、ストロングスタイルのペアリング
——NéMo(ネモ)
2021年6月に開業、既に美食家の話題をさらっている青山の『NéMo』だが、この店ではオープン当初からティーペアリングに力を入れている。
それは、お酒がそれほど得意ではないという根本憲一シェフたっての願い。「さっぱりとしながらアロマが際立つお茶は、ワインの代替品以上の可能性を秘めている」という視点から生み出されたものだ。魚介を得意とする根本シェフの繊細な料理に対して、抽出温度はもちろん、提供時の液温やテクスチャーにまでこだわり抜いたソムリエの技が、まるで点を射抜くような精度で存在感を発揮する。
「穴子のベニエ マカダミアナッツ」に合わせるのは、静岡茶「おおいわせ」。敢えて80℃の高温で茶葉の旨味の過度な抽出を抑え、グリーンなニュアンス、フレッシュ感を強く引き出している。かぶせ茶ならではのヨード香は、穴子との相性も良く、テアニンが穴子の旨味を引き立たせ、カテキンの渋みが揚げ油を中和する。
静岡・下田から直送される「梅色のポワレ」には、台湾茶「東方美人」をペアリング。14℃前後という液温は、ボリュームのあるワインの提供温度に等しく、ポワレの火入れとも温度感を合わせたものだ。「東方美人」とは、ウンカが茶葉を噛むことで酵素を引き出し、ほかの茶葉にはない独特の香りと甘みを生み出した高級茶。人工的には作れない希少なお茶であることはもちろんだが、この魚料理との組み合わせがパーフェクトなマリアージュを奏でる。
『NéMo』では昼夜共におまかせコース料理のみ。その理由は、産地から直送される魚介の仕入れによるから。当然、料理に合わせてペアリングするお茶も変わってくるが、例えどんなメニューとなっても「ティーペアリングを選んで良かった」と、必ずや満足するクオリティーだ。
※ 2021年10月現在の情報となります。
※ 表示価格は全て税抜き価格です。
※ 六本木ヒルズ等各施設では、新型コロナウイルスの感染拡大防止の予防対策を徹底し営業しております。また一部の店舗では営業時間を短縮しております。ご来店の際には事前に各施設HPをご覧ください。
SHARE