タベアルキストのマッキー牧元さんが東京の新たなグルメスポット、六本木ヒルズ ウェストウォーク5F「プレミアムダイニングフロア」を訪ね、注目のお店のイチオシの一品を紹介します。
TEXT BY Mariko Uramoto
Food Photo by Kiichi Fukuda
研ぎ澄まされた「澄まし麺」がしみじみ体に染み渡る
俗世間を離れ、無為自然を重んじる思想を説いた中国の思想家、荘子。彼はこう唱えている。「余計なものをそぎ落としてこそ、本来の状態に戻る」と。その「彫琢復朴」の哲学を料理で表現しているのが、「澄まし処 お料理 ふくぼく」だ。
技術や工夫を磨いた先にたどり着いた、普通で飾らない素朴な味わい。味付けでごまかさず、素材を生かしてまとめた日本料理の数々で客をもてなす。
ここで、マッキー牧元さんが「究極の一皿」として選んだのが看板商品でもある「澄まし麺」である。透き通ったスープに極細麺が錦の糸のように輝き、そこに柚子の皮ひとかけらが浮かぶ。肉や野菜など、具材は一切ない。驚くほどシンプルである。
「これはなんといっても麺がいい。極細の麺がつるつるっと唇を心地よく通り過ぎて、軽快な歯切れがあって、噛むごとにしこしこっとした食感が口の中で弾む。そして、あとから甘い麦の香りが広がっていくんです」
スープは丁寧に昆布で出汁をとったもの。スーッと口に広がり、体全体に染み渡るような深みがある。
「得てしてこういう汁っていうのは、必要以上に旨味を主張して作ってしまいがちなんです。最初の一口、二口はたしかにうまいんだけど、食べ進めるうちに重くなってくる。でも、ここは汁が主張しすぎてなくて、品がいい。食べ終わった時に“しみじみおいしかった”という思いが膨らむ味ですね」
マッキーさんおすすめの食べ方は、最初はそのままストレートで。汁と麺のハーモニーを心ゆくまで味わう。それから、薄切りのネギをパッと散らす。すると汁の中でネギの香りが開き、シャキシャキ食感が加わる。次に八丈島の海苔を。潮の香りが漂って、ほどよい塩気がアクセントに。ゴマ油を垂らすとさらに香ばしさがアップ。最後に手に取るのは昆布酢だ。
「昆布の旨味と酢の酸味が加わって、最後の一口まで飽きることなく食べられる。こういう味の重なりを楽しめるのは、やはり基本のスープがいいからですね」
店内は、木を基調とした静かで心落ち着く空間。一人客も入りやすいカウンター席もある。
「個人的には、二日酔いの午前中に来るのがいいですね(笑)。疲れた胃も癒されるでしょう」
マッキー牧元|Mackey Makimoto
タベアルキスト。(株)味の手帖 取締役編集顧問。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで年間600回外食をし、雑誌やテレビ、ラジオなどで料理評論を行う。「味の手帖」「料理王国」ほか連載多数。著書に『超一流のサッポロ一番塩ラーメンの作り方』(ぴあ)など。
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