premium dining floor #3

犬養裕美子のオススメのひと皿! 鳥おかの「ぼんじり」

レストランジャーナリストの犬養裕美子さんが東京の新たなグルメスポット、六本木ヒルズ ウェストウォーク5F「プレミアムダイニングフロア」を訪ね、注目のお店のイチオシの一品を紹介します。

TEXT BY Mariko Uramoto
Food Photo by Kiichi Fukuda

したたる肉汁、弾力のある身、良質な脂をこの一本に凝縮

席は連日予約で満員。2カ月前の予約開始日に店の電話がなかなかつながらず、「行きたくても行けない」と肩を落とす人が大勢いる。そんな「日本一、予約が取れない焼き鳥屋」としてあまりにも有名な目黒の名店「鳥しき」が分店の「鳥おか」をオープンさせた。焼き場には、本店で研鑽を積んだ黒崎法行さんが立つ。

大きなのれんをくぐった先には、ほの暗い空間が広がる。その中央にはスポットを浴びる焼き場。それをコの字型の無垢のカウンターがぐるりと囲む。

「二人の焼き手が向き合って、一心に串を焼いている。その姿に客たちが熱い視線を注ぐ。まるで空間全体が劇場のようです。個室もありますが、ライブ感を味わうなら断然カウンター席」と犬養さん。

黒崎法行さんは串の一本ずつと対峙して、個性を見極めながら焼く。

黒崎さんは「鳥しき」の主人、池川義輝さんが編み出した、串をできる限り炭に近づけて焼く「近火の強火」を継承している。

「最近、焼きを弱める傾向にありますが、やはり肉は焼いてこそ。強火に限りなく近づけながら、焦がさないよう素早く肉を返し、全体をムラなく焼く。その動きは見事です。肉汁を外に逃さず、香ばしさを維持した焼き鳥はジューシーで、インパクトがあります」

「鳥しき」では、ストップというまでおまかせで串が出てくるが、六本木ヒルズ店では人気の串を11本食べられるコースを用意。もも、皮、レバー、うずらの黄身がとろ〜りあふれる白玉、旬の銀杏など鶏以外のメニューも楽しめる内容だ。終盤には明太子や栗、もろみの味噌など、お供がついた土鍋ご飯が登場し、定番人気のぼんじりとつくねで〆る。

犬養さんにもっとも印象に残った一本を聞くと「やはり、『ぼんじり』です」と一言。

「とろけるような口あたり、ジューシーな身、香ばしい脂。この一本に、鳥おかの要素がすべて詰まっていると感じました。ご飯ではなく、串で〆るというのもユニーク。さっぱりとしたももから始まり、レアに近いレバー、噛みごたえのある砂肝、どんどん焼きを強くしてフィナーレに向かう。きれいな流れを汲んだ構成だなと。コース全体が考えられていて、かといってマニアックになりすぎない。いろんな部位を味わって、鶏の旨味を丸ごと楽しむことができる店です」

profile

犬養裕美子|Yumiko Inukai
レストランジャーナリスト。東京を中心に、世界の食文化やレストラン事情を取材。「VOGUE JAPAN」「DISCOVER JAPAN」などの雑誌やWEBで執筆。独自の視点によるレストラン紹介は幅広い世代に支持されている。農林水産省顕彰制度「料理マスターズ」審査委員。