ファッションのご意見番ことスタイリスト地曳いく子さんが、独自の視点で切り込むオトナ女史のためのスタイル術「IKUKO’S METHOD」。今回は秋冬トレンド第3弾として「この冬買いたいコート」にまつわるお話です。
STYLING BY IKUKO JIBIKI
PHOTO BY SHIN KIMURA
EDIT BY AKANE MAEKAWA
求められるのは防寒着を超えた役割
このところ冬の防寒着といえばダウンジャケットで済ませてきた私。ところが、今年は久々にコートを買ってみようかなという気持ちになりました。今季はノーカラーやチェスターなど、「これ、私持っているじゃない」シリーズのものが多かったのですが、実際に手に取り羽織ってみると、丈の長さやボリュームが全く違うんです。ハンガー面(づら)だけでは見抜けない予測不能なものばかり。これまでも「定番アイテムの罠」として昔のものをひっぱり出して着て済まそうと思うと痛い目にあうとお伝えしてきましたが、今季は改めて流行とはこういう事なんだと再認識しました。コートは一番外の殻。そのたった一枚だけで今の気分になれるかどうかが変わってきます。防寒着ではなく、今年の顔になれるかどうかの役割を担っているのが今の時代のコート。そんな理由で冬のコートを考えてもいいのかなと思いました。
地曳いく子が考える
コートを買いたくなったいくつかの事柄
❶ 流行は巡るがラインは変わる
「これにそっくりのものを持っているわ」というエレガントでクラシカルなタイプのコートに今季は多く出合います(おそらくオトナ女史の皆さまには頷いていただけると思うのですが)。でも実際に昔のコートを引っ張り出してみてください。おそらく丈は長くても膝が隠れる程度ではないでしょうか。でも、今年の気分ならミッドカーフかマキシ丈。しかも、最近は袖にボリュームのあるオーバーサイズがトレンド。以前のものは意外とアームホールが狭いので、ニットやトップスがコートの袖の中で気持ちの悪いことになるはずです。オーバーサイズのトレンドを無理なく着るためにも、今の気分に合ったラインのコートを一枚手にしてはいかがでしょうか。
❷ シルエットは予測不能
少し前までは、自分のサイズやキャラで大体似合う形が予測できたものです。しかし、ハンガー面だけでは判断がつかない時代。ぶかっとしていると思っても、着てみると意外とすっきりとしていたりします。以前はきれいに見える標準の人体サイズのパターンに合わせ、標準をアレンジしていかにフォルムを崩さず個性を足していくかがデザインでしたが、今はパターン自体が変わってきています。今年はマッチングが難しいですが、羽織ってみるだけならタダ。エラーして当然ぐらいの気持ちで何着か試着してみると、運命の一着に出会えるかも。
❸ 違和感の意味を知る
必ず流行のはしりには違和感が付きまといます。なぜなら見慣れないから。それが逆に新しいということになります。試着したとき何か違和感を感じたら、それが自分に似合わない違和感なのか、これまでになかったものへの違和感なのかを見極めることが大切。まずは直感に従ってください。ただ、微妙だと感じたものは、着こなすのに気力がいるので買わない勇気も必要です。
❹ ノーカラーの進化が止まらない
いろいろと書いてきましたがトレンドの話に移すと、ノーカラーのコートが今年の顔の筆頭格。ノーカラーならマキシ丈&オーバーサイズのトレンドもすっきりとして見えます。素材も技術が進歩し軽くしなやかなダブルフェイス(昔のロングコートはたとえカシミヤのダブルフェイスでも重かった!)で、これまでのコンサバノーカラーとはひと味違います。ノーカラーだと意外と色や柄物も着やすいので、気分があげる一枚を選ぶのもおすすめです。
❺ フェミニンになったチェスター
チェスターコートといえば、かっちりと細身のマスキュリンなタイプが主流でしたが、今年はボリューム感のあるものや、Aラインが旬。今までとはちょっと違う変形チェスターが気になります。
❻ 部分的にパフパフ&モコモコ
ノーカラーやチェスターのクラシカルなタイプのほかに、部分的にダウンやモコモコとした素材を取り入れた、機能性ありデザイン性ありのコートも要チェック。そんなスポーティーなコートも、昨年より全体的に丈が長めになっているような気が。カジュアル志向から少しエレガンスへと意識が移り変わっているようにも感じます。
地曳いく子|Ikuko Jibiki
スタイリスト/1959年東京生まれ。数々のファッション誌で活躍し、そのキャリアは30年超え。女優や著名人のスタイリングも数多く手がけ、大人の女性を美しくみせる的確な理論に基づくスタイリング術に定評あり。現在は、ファッションアイテムのプロデュースほか、テレビやラジオに出演するなど多方面で活躍。著書に『服を買うなら、捨てなさい』、『着かた、生きかた』(ともに宝島社)、『おしゃれも人生も映画から』(中央公論新社)、黒田知永子との共著『おしゃれ自由宣言』(ダイヤモンド社)、『買う幸福』(小学館)など多数。9月には最新刊『おしゃれは7、8割でいい』(光文社)を上梓。
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