GREAT HOLIDAY IS COMING !

「オルタナティブを超えてタブーでありたい」——菊地成孔、フェスの開催に向けて語る

HILLS LIFE DAILYでの連載「次の東京オリンピックが来てしまう前に」が好評を博している、音楽家/文筆家の菊地成孔。その菊地が主宰する「TABOO LABEL」が、設立5周年を記念してレーベルフェスティバルを開催するという。菊地にとって、この5年はどのような時間だったのだろうか。なぜいま、音楽産業に「タブー」が必要なのか?

TEXT BY TOMONARI COTANI
PHOTO BY KAORI NISHIDA

潔癖な正義がはびこる社会にタブーをまき散らす!

——菊地さんが主宰するTABOO LABELでは、「HOLIDAY」と題したショウケースライブを定期的におこなっていらっしゃいますが、5月13日(日)に開催される「TABOO LABEL Presents GREAT HOLIDAY」は、その集大成だと思えばよろしいでしょうか?

菊地 そうですね。レーベルを立ち上げてからの5年間で10タイトル以上出してきたので、そろそろ総決算ライブをやろうと。その結果、「DC/PRG」「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」が、結成以来初めて同じフェスに出るということになりました。

——それはレアすぎる! というか事件ですね。

菊地 あとは「JAZZ DOMMUNISTERS」も出るので、レーベルプロデューサーでありながら出すぎな感はあるのですが(笑)。

まあ、僕なんかはどうでもよくて、うちの若い衆である「ものんくる」「けもの」(そんなに若くないですけど・笑)、「市川愛」、「オーニソロジー」の演奏を、楽しみにしてもらえればと思います。ちなみにオーニソロジーは、辻村泰彦くんという奈良で活動していたジャズベーシスト&シンガーの一人ユニットで、僕が初めて手がける男性アーティストになります。2018年のイチオシですよ。

あっ、あと肝心なことを忘れていました。SPANK HAPPYが、新メンバーを迎えて再結成をします。

——なんと!

菊地 僕も55歳になり、あんなことをやるのも最後だと思いますので、「最終SPANK HAPPY」ということにしています。相方のボーカルはまだ秘密というか、当日来てのお楽しみということで。GREAT HOLIDAYでは数曲歌って、何もしゃべらずにサッと消えると思います。

——SPANK HAPPY再結成はインパクトがありますね! パートナーがどなたなのか、楽しみです。さて、レーベルを立ち上げてから5年が経ったわけですが、振り返ってみていかがですか? そもそも、どのような経緯でTABOO LABELは立ち上がったのでしょうか?

菊地 僕自身は、「時代の先を読んで先手を打っていく」というタイプではまったくありません。直感的に動いてはいるのですが、実際のところは、ただ流されているだけっていう(笑)。今回のTABOO LABEL設立にしても、能動的に「そろそろステージ立つのもしんどくなってきたし、プロデューサーとしてのキャリアを積んでいくと決めた」とかではなく、いろいろな要因が重なり、そう転がっていったというのが正直なところです。

最初はとにかく、ペペ・トルメント・アスカラールをどこから出そうか、ということから始まりました。それまでお世話になっていたイーストワークスエンターテインメント(EWE)がなくなってしまったので、「行き先をどうするか」という問題が浮上したんです。

そんなときに、ソニーミュージックさんが手を挙げてくださりました。僕の活動が多岐にわたっており、プロデュースワークもやっている、ということをソニーさんがお知りになって、「いっそ、ペペ・トルメント・アスカラールのワンショットじゃなくて、レーベルを持ちませんか?」というデッカイ話になったんです。まあ、願ったり叶ったりというか、たじろいだというか(笑)。レーベル立ち上げの経緯は、そんなところです。

——ソニーミュージック側からは、どのような条件が提示されたのでしょう?

菊地 年間にどれだけリリースしていくかとか、お金のこととか、アーティストを公募しようかしまいかとか、いろいろなことも含めて後から段々決まっていきました。なんとか5年やってきましたが、ルーティンワークができるような盤石な体制とはまだ言えませんね。

——そもそもTABOOというレーベル名は、どういった経緯で付けられたのでしょうか?

菊地 1940年代、パリのサン・ジェルマン・デ・プレにあった有名な地下バーの名前から拝借した、というのがまずひとつ。あとは、5年前からの予感とは言わないですが、おそらくこれからの世の中、「放送で言っちゃいけないこと」とか「音楽とはこういうことをやるもんじゃない」といった感じでタブーがどんどん増えていき、堅苦しくなるだろうな、という予想が当時からあった、ということが挙げられます。

音楽産業だけではなく、インターネットやカルチャー全体を含めて、人々の世界把握が非常に堅苦しくなってきて、まあ、余談もいいところですが、やれ八百長だ不倫だ暴力だっていう、昔だっらた「闇から闇」だった不祥事が、ほじくり返されて袋だたきに遭うような、潔癖な正義がはびこる社会になっていくだろうな、というなかでタブーをまき散らすというね(笑)。

そう言うとノイズのレーベルみたいに聞こえますけど、ノイズをまき散らしたところで今はタブーにはならないし、「うん、それはノイズだね」って言われるだけなので(笑)。自制心でがんじがらめになっている人々を解放するということが音楽家の仕事だと思いますし、そのためには、「○○系」って言われちゃう音楽を作ってマーケットの中にキレイに収まるということではなく、大きなリスクを伴うのですが、完全なオルタナティブでありたい、オルタナティブを超えてタブーでありたい、というレヴェルのものを作るという意志の現れでもあるんです。

実際、TABOO LABELから出ているアーティストは、売れ線専用とか、知り合いだから仕方なく……といったものはなくて、演奏力や歌唱力、あとは音楽の創造性といったものを高く保っているつもりです。僕はそれを管理しているだけで、僕がオーバープロデュースをして、誰かをこっちへ持っていくということはあまりしないで、素材のうま味を引き出すようにしています。

ただ、彼らは一様にクセが強くて、たとえば「女性ボーカルのロックバンド」に収めようと思っても収まらなかったりだとか、クラブっぽいHIP-HOPクルーに収めようと思っても収まらなかったりするわけです。そうした、ある種過剰なハミダシもの、あるいは病的な偏りというものを持ったクオリティの高いものだけを扱うようにしてきたので、「最初からタガが外れていますよ」「何でもアリですよ」「バズればいいでしょ」といった、イタズラに刺激的なことをやる一部の地下アイドル的なものではなく、「耳あたりは気持ちいいけれど、よく聴くとクセが強いよね」という音楽を、じっくり浸透させようという考えがこのレーベルにはあると思います。

TABOO LABELのアーティストは、演奏力や歌唱力、あるいは音楽の創造性を高く保っているつもりだと、レーベルプロデューサーの菊地は語る。

「ガンダム」がなかったら、今ごろTABOOは潰れている!?

——その素材たる「ものんくる」や「けもの」だったりとは、どのようにして出会ったのでしょうか?

菊地 「ものんくる」と「けもの」に関しては、TABOOより前に、僕が出張プロデューサーとして1枚ずつ別のインディーレーベルでアルバムを作っているんです。その後、急にふっとTABOO LABELが立ち上がったので、「これからメジャー、というかソニーさんの軒先を借りてレーベルをやるんだけど、こっち来る?」っていう一種のインフォームドコンセントというか事前確認を、集まってやったんです。

ちなみにJAZZ DOMMUNISTERSは、一瞬だけビュロー菊地レーベルといううちの事務所がレーベル化したときに、アルバムを1枚出していました。一緒にやっている大谷(能生)くんは、すごくボヘミアン的なところがあって、メジャーでやることに、よくも悪くも一番抵抗を示しましたね。やっぱりHIP-HOP魂というか、インディーから出したいというところがあったと思うけれど、みんなTABOOから出しているのを見て、「JAZZ DOMMUNISTERSもTABOOから出そうよ」ってことになり(笑)。それでセカンドアルバムを出したんです。

あまりに脱構築な内容だったからか、HIP-HOP界隈からは何のコメントもなかったし、取材も1本もありませんでしたが、大谷くんがやっている仕事の中でも最高傑作だと思います。

——今回の「GREAT HOLIDAY」には出演されませんが、人気ジャズピアニストの大西順子さんの復帰作も、TABOO LABELからでしたね。

菊地 はい。今回は都合で出られないのですが、大西さんの復帰作は、3〜4年がかりのプロジェクトでした。あと、これまた今回は都合により出演されませんが、女優の菊地凛子さんが「Rinbjö」という芸名で音楽家デビューする際もTABOOからでした。クオリティは非常に高いのですが、アルバムが出た途端に菊地さんは産休に入られ、さすが女優というべき、自由な動き方をされるなぁと思いましたね(笑)。

——「機動戦士ガンダム サンダーボルト」のオリジナルサウンドトラック(OST)も、TABOOからのリリースですよね。

菊地 ガンダムのOSTがなかったら、今ごろTABOOは潰れていると言われています(笑)。まあ、ケタが違うというか、この国の国是というか、ジャパンクールですか、クールジャパンですか、どっちだかわかりませんけれども(笑)、アニメ、マンガ、ゲーム、アイドルといったものに手を染めるとですね、まあ、手を染めれば何でもというわけではなく、「そこでいい仕事さえすれば」ですが、要するに母集団のケタが違うので、「ジャズを録ってジャズのマーケットに売っている」場合の1000倍近い売上げがあるんです。ガンダムのおかげで、TABOOは活動資金をプールできたと言っても、まったく過言ではありません。

DC/PRGとペペ・トルメント・アスカラール。菊地が主宰する2大バンドが初めて競演することでも話題を呼んでいる「TABOO LABEL Presents GREAT HOLIDAY」。

——それにしても、DC/PRG、ペペ・トルメント・アスカラール、JAZZ DOMMUNISTERS……。それぞれ微妙にファン層は違いそうですね。

菊地 そうですね。僕の活動は、液状化して全部同じになってしまうようには、少なくともマーケットはなっていません。「ペペに来るけど、DC/PRGで踊って汗を流すという人はいない」とはいいませんが、ペペ、DC/PRG、JAZZ DOMMUNISTERS、SPANK HAPPYの全部に来る人、歌舞伎で言うところの「大向こう」というか、ある人にロックオンしたら可処分所得は全部つぎ込むといった熱狂的な人は、あんまり僕にはいないんですよ。相当長く音楽をやっていますが、そういうグランドスラマーは50人くらいですかね。

DC/PRGだけは絶対に聴くとか、ペペだけは正装して聴きに来るとか、JAZZ DOMMUNISTERSが大谷くんも含めて異様に好きとか、SPANK HAPPYと聞いたら黙っていられないとか、そういう派閥があるようで。

実際、今ってコンテンツはたこつぼ化していると思います。たとえば同じ韓流ひとつとっても、「映画は観るけどテレビドラマは観ない人」とか、「K-POPは聴くけど映画は観ない」とか、それくらいコンテンツは細分化されていて、すぐ隣のジャンルですら知らないんですよね。

一方で、レーベルフェスみたいなものは増えています。具体的に名前を出すのはあれですが、カクバリズムさんとか、SMAさんとか。レーベル全体のアーティストが出ますといったフェスを以前より見かけますよね。

日本は今、「ものが選べない国」と言われています。要するに、食べものはみんなうまいし、洋服はどこでも売っているし、ユニクロからルイ・ヴィトンまで何でも変えるし、Spotifyとかに登録すれば何でも聴けるわけです。そうした「選べない」という状況のなか、「ちょっとずつたくさん食べたいな」という人は、「めんどくさいから、どこかのレーベルのフェスに行ってしまえ」ということになるのだと思います。それを今回、TABOOでやってみようかなという感じではあります。

「もっと複雑な気分にさせる」ことが、この国には必要

——以前からおこなっていたHOLIDAYは、チケット代が比較的安めに設定されていましたが、菊地さんの中では、とりわけ若い人たちに「いい音楽」や「おもしろい音楽」を体験してもらいたい、という思いもあるのでしょうか?

菊地 僕自身、放っておいても若い人たちに何らかの話題でリプレイスメントされて、フロアが若返っていくっていうことを起こしてきました。ティポグラフィカからDC/PRGになったときには、ティポグラフィカのティの字も知らない人がフロアで踊りまくっていたわけです。

その点で言うと、ものんくるの吉田沙良ちゃんも、けものの青羊(あめ)さんも、市川愛さんも、みんなジャズシンガーとして始まって、日本中のジャズクラブを回るという活動をキャリアの最初期にやった後、挫折や転向や発展というカタチで違う音楽に移行したわけですが、まだ、創生期のファンの人がいるんです。つまり、入れ替わっていないわけです。ものんくるは、代官山UNITでやると少し苦戦するんだけど、ブルーノート東京でやると安定のフルハウスで、それは、ものんくるが完全なポップバンドになりきっていない、という状況をあらわしているわけです。これからどんどんなっていくわけですが。

けものは独特で(笑)、よくオルタナR&Bというけれど、オルタナ・シティポップですよね。オルタナAORというか。青羊さん自身がオルタナティブな人なので。

市川愛さんも、若くて綺麗でジャズボーカリストで、ということで、全国をまわれば人気があるわけです。大向こうがいて、いまでも「愛ちゃーん」という紳士がいるのですが、今回のアルバムではガラッと変えて、フォーキーな曲だったり、ものすごくエッジなビートのものをやったりしています。

そもそもTABOO LABELは、ソニーの中のVillage Musicという、かつてフュージョン王・T-SQUAREが在籍していたレーベルの軒先を借りているんです。もうT-SQUAREはいないのですが、大家がいなくなった軒先にそのまま住み込んでいるところがあるから、ソニーの社内的にも、ジャズのレーベルだと思われているんです。レコード店にしても、「ああ、Villageさんね、菊地成孔さんね」ということで、気の毒なことにものんくるやけものが、全然ジャズじゃないのにジャズの棚に置かれたりすることがあるんです。そういう状況を変えていこうという思いはありますね。

あと、確かに若い方に聴いていただきたいという思いは強いです。批判する気はないですが、今、若い人が音楽を聴くときというのは「エモく泣ける」か「ヤバくバズる」かといった感じで、よくも悪くも大味になってきていますよね。今後この国は、「もっと複雑な気分にさせる」ということを必要としていると思います。それは音楽だけではなくて、食べものや服でもそうなのですが。一回硬直化したら、必ず脱構築が起こるので、そういうことをするのが僕の仕事だろうなとは思っています。

——確かに国内外の政治を見ても、何となく不穏さや閉塞感が漂っており、タブーを唱える側のコントラストが、より際立ってくるような時代になっている気がします。

菊地 安定した御代で、平和ボケすると音楽がダメになるとは決して言わないですけど、どこか狂った余剰なところが時代にあった方が、音楽はいいんですよね。

「僕はポリティカルな発想がうまくできないというか、無知だというよりセンスがないのだけれど、時の政権があまりよくなくて、香港とか、ある種のイスラム圏の国みたいにはなっていないけど、ちょっと苦しいなという状態というのは、芸術にとって悪いことは何もないですよね」(菊地)

——ところで、最後に話はガラッと変わりますが、いつもHILLS LIFE DAILYで連載をしてくださってありがとうございます!

菊地 とんでもありません。

——いつも、どういう心持ちで原稿を書いていただいているのでしょうか?

菊地 メチャメチャいいですよ。あのね、HILLS LIFE DAILYがいいのは、Facebookの「いいね!」やTwitterの表示が出ないところです(笑)。昔の雑誌の連載と一緒で、誰がどう思っているかわからないまま書けるのがとてもいいんですよ。

SNSがないころから、『週刊少年ジャンプ』のマンガ家さんたちは読者アンケートに引きずられていたわけですし、SNSがないころから、ネットの評判をエゴサーチして気にしたり、一喜一憂したりしていたわけですから、どんな作品であれ「マーケットがどう言っているのか」ということは気になるわけですよね。

だけど僕の場合、「誰がどう思っているかわからない」っていうのが理想なんです(笑)。音楽だけは客がいるから、客の増減によって「そろそろオレも飽きられたな」とか、「まだ全然飽きられてないな」とか、「この地域のお客は熱狂している」とか、そういうことがダイレクトに伝わるのですが、ネットで連載すると、普通は「いいね!」いくつ、ツイートいくつとか、タイトルの下に出ているので、目を開けてる限り見えちゃうのが嫌だったんです。

でも、たとえば『オール讀物』に大衆小説を連載しても、読者の声なんて全然書いてないわけじゃないですか(笑)。ああいうことがやりたくて、僕は物書きになったんです。音楽家としては、機材も変わるし、曲も変わって行かなきゃいけないからエッジであり続けたいけれど、別に物書きとしてエッジでありたいとはこれっぽっちも思っていないので、昭和の物書きのように、なるべく評判を見たくないんです。その点HILLS LIFE DAILYは、本当に無風なんです(笑)。よくも悪くも。「ヒルズの連載いいですね」って言ってくれたのは、吉本ばななさんのダンナさまくらいです(笑)。

つまり、とてもいい気分で、プレッシャーもないことによって、書き手ものびのびと書けるということがどれだけいいことかということを、毎月体現しているわけですよ。


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TABOO LABEL Presents GREAT HOLIDAY 
出演 DC/PRG、菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール、ジャズ・ドミュニスターズ、ものんくる、けもの、市川愛、オーニソロジー、スパンクハッピー 日程 2018年5月13日(日) 会場 新木場STUDIO COAST 開演 15:00(開場14:00) 料金 ¥6,500(税込)※オールスタンディング ※入場時ドリンク代別途 ※6歳未満入場不可 問い合わせ サンライズプロモーション東京(TEL 0570-00-3337)

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菊地成孔|Naruyoshi Kikuchi
音楽家/文筆家/音楽講師。ジャズメンとして活動/思想の軸足をジャズミュージックに置きながらも、ジャンル横断的な音楽/著述活動を旺盛に展開し、ラジオ/テレビ番組でのナヴィゲーター、選曲家、批評家、ファッションブランドとのコラボレーター、映画/テレビの音楽監督、プロデューサー、パーティーオーガナイザー等々としても評価が高い。「一個人にその全仕事をフォローするのは不可能」と言われるほどの驚異的な多作家でありながら、総ての仕事に一貫する高い実験性と大衆性、独特のエロティシズムと異形のインテリジェンスによって性別、年齢、国籍を越えた高い支持を集めつづけている、現代の東京を代表するディレッタント。

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