MONTHLY MUST SEE

男も女も呼び寄せる“人間力”を養いたければ、映画『20センチュリー・ウーマン』を見よ!

予算規模や知名度の有無にかかわらず、「いま観るべき1本」を、映画ジャーナリストの久保玲子がピックアップ。作品理解を広げてくれる“関連キーワード”もお見逃しなく。

TEXT BY REIKO KUBO

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1/5高齢で生んだ、思春期真っ盛りの息子ジェイミーへの心配を募らせる母ドロシア(アネット・ベニング)。
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2/5ニューヨークで夢破れ、戻ってきたカメラマンのアビーと、夜な夜なジェイミーの部屋へ忍び込んでくる幼なじみのジュリー。
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3/5一見タフだが、瞳の奧に孤独を宿したアネット・ベニングの演技が絶賛された。
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4/5ニューヨーク・インディーズの女王の異名を取るグレタ・ガーウィグと、人気のエル・ファニングが揃って指南役を好演。
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5/5パンクによって救われたというマイク・ミルズ。映画には、ハードコア・パンク信奉者とArt fagの対立など、当時の興味深いディテールも満載。

人間力溢れるアーティストによる、二度目の自伝映画

マイク・ミルズというアーティストをご存じだろうか。ソニック・ユースビースティ・ボーイズエールといったミュージシャンのアルバムジャケット、あるいはマーク・ジェイコブスをはじめとするファッションブランドのグラフィックデザインや映像ディレクターとして、1990年代カルチャーをリードした人物だ。

そんな彼は、2000年前後から短編映画を撮り始め、05年に初長編作『サムサッカー』を発表。指しゃぶりが止められないティーンエイジャーが、よく見たら大人だってみんな何かに依存しているという発見を通して自身と向き合う成長譚は、いきなりベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞し、マルチな才能を見せつけた。

そして、75歳の父親がなんと突然ゲイをカミングアウト!という自伝をもとにした長編第2作『人生はビギナーズ』(10)では、痛快かつ心温まる物語を紡ぎ出し、父親役のクリストファー・プラマーをアカデミー助演男優に押し上げた。

才気走ったアーティスト気質はつゆほども見せず、 類い稀なセンスを穏やかなカリフォルニアの風で包み込んだような佇まいのミルズ。彼が長編3作目に選んだモチーフは、自身の15歳の夏の思い出だった。この『20センチュリー・ウーマン』は、人間力溢れるアーティスト “マイク・ミルズのクリエイティブ”の一端が覗ける青春映画であり、人間讃歌の物語だといえるだろう。

「もともと自分自身の物語を映画にするなんて発想はなかったけれど、『人生はビギナーズ』で自分の記憶から普遍的な物語を編み上げることの可能性を知ったんだ。そして、人間は誰しも家族や周囲の人物の影響によって形成されるよね。僕の場合は、パイロットになることが夢で、高齢で僕を生み、当時の女性には珍しかったパンツスタイルで家計を支えたパワフルな母、2人の姉、そして実はゲイだったクローゼットの中の(不在だった)父という家族によって形作られた。女性のこと、セックスのこと、そして男であることも、僕はすべて女性から教わった。それって結構珍しいことなんだなと気づいて映画にしてみようと思ったんだ」と、来日時に製作動機を語っていたミルズ。

映画の舞台は、1979年、カリフォルニアの一都市サンタバーバラ。15歳のジェイミーは、シングルマザーの母と築70年の古い屋敷をリノベーションしながら暮らしている。ボギーに憧れ、ジャズ好きで、「イン・ア・センチメンタル・ムード」を愛する母ドロシア(アネット・ベニング)は、レインコーツのレコードをかけて飛び跳ねる息子の音楽嗜好も、思春期の性の目覚めも持て余し気味。屋敷には、リフォームを手伝うヒッピー男の同居人ウィリアム(ビリー・クラダップ)がいるが、ジェイミーは彼との共通項を見出せないという。そこで母は、二人の女性を息子の指南役に任命。

ひとりは『地球に落ちて来た男』のデイヴィッド・ボウイにシビレて赤毛に染めているカメラマンのアビー。ニューヨーク・インディーズ映画の女王と異名を取る人気女優グレタ・ガーウィグ扮する彼女は、ルー・リードやディーヴォのファン。パンクやアートだけでなく、女性の生理やフェミニズムについてもクソ真面目に弟分に伝授しようと奮闘する場面が可笑しい。もうひとりのジュリーは、ジェイミーの早熟な幼なじみ。夜ごとジェイミーのベッドに忍び込んで「オーガムズは感じないけど、セックスの時の男のカッコ悪さが愛おしい」なんて言ってのける。少年の性の目覚めと恋心を刺激する、ツンデレなジュリー役のエル・ファニングがなんとも儚げで愛らしい。

時代性と普遍性から学び取れる多くのこと

ハイビスカス揺れる1979年の夏の陽光に彩られた物語は、“Art fag”とよばれたトーキング・ヘッズ ファンと、ブラック・フラッグをはじめとするハードコア・パンク信奉者との対立、あるいはパンクとスケート・カルチャーとの融合の兆しなど、当時のユースカルチャーのディテールも丁寧に描かれている。

第2波フェミニズムの残り香の漂うこの時代は、カーターからレーガンへの政権移行、バブル、軍拡の転換点でもあった。そんな中、20センチュリー・ウーマンズに囲まれたジェイミーは、パワフルだけれど、その実、孤独や不安を秘めた母をはじめとした女たちを見つめ、そっと寄り添える男へと変わっていく。

ミルズ自身は現在、“世界でもっとも女を偏見なく描ける男”とも言われている。そんな稀代の才能によって紡がれた、時代性と普遍性を併せ持つ夏物語。男も女も呼び寄せる“人間力”を養いたい方であれば、とりわけ必見ですぞ。


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マイク・ミルズ監督インタビュー(聞き手:華恵)

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映画『20センチュリー・ウーマン』
監督:マイク・ミルズ、出演:アネット・ベニング、エル・ファニングほか 6月3日(土)より丸の内ピカデリーほかにて公開。 提供:バップ、ロングライド / 配給:ロングライド Still Photo: © 2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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