TOKYO ART SECNE #02

アートコレクター桶田夫妻に聞く、アートとともにある暮らし——連載「東京のアートシーンを作る人々」Vol.2

活性化する東京のアートシーンを作るキーパーソンたちを紹介する連載。第二回は、東京を代表する現代アートのコレクターとして知られる桶田俊二・聖子夫妻。OKETA COLLECTION展として集めた作品を一般公開し、彼らのコレクションを見れば、今勢いのある作家やアートシーンを知ることができるともいわれるほどのふたり。夫妻にライフスタイルとしてのアートの楽しみ方を聞きました。

PHOTO BY Satoshi Nagare
TEXT BY Akane Maekawa
EDIT BY Jun Ishida

——コレクションを始めたきっかけをおしえてください。

桶田俊二(以下俊二) 最初に購入したのは、李朝の白磁壺でした。偶然立ち寄った骨董屋で、一目惚れしたのが始まりです。ちょうど2000年ぐらいのときですね。長年携わってきたファッションビジネスが落ち着いてきた頃で、自分たちも次のことを探したいと考えていたときでもありました。

桶田聖子(以下聖子) ファッションの仕事をしている私たちにとって、青山の骨董通りは身近な場所でもあったので、それをきっかけに骨董も見て歩くようになったんです。ふたりで民藝館や美術館の展覧会にもよく足を運ぶようになり、勉強もしました(笑)。それから10年ぐらいは、骨董品や古美術を幅広く収集してきました。

リビングの壁に飾られたのは、草間彌生が1997年の1年間だけ油彩で描いたという〈インフィニティ・ネット〉の作品。手前は河井寛次郎による花器。ソファの横に並ぶのは、李朝の粉引きのとっくりと家具。とっくりは、時に熱燗にして実際に使うこともあるという。※1

李朝の面取り草花文の白磁が置かれた棚の上には、ハーヴィン・アンダーソンの作品。ジョージェ・オズボルトの立体作品は、あえて正面ではなく絵画を見上げるように置かれ、骨董と現代アートを楽しみながら飾るウィットに富んだ一面がみられる。

リビングの大きな白い壁には、ゲルハルト・リヒターの作品。リヒターの色に呼応するように、隣には女性アーティストのジャデ・ファドジュティミの小さな作品を並べている。

——骨董から始めたコレクションですが、現代美術へと目を向けられたのは?

俊二 李朝のコレクションを始め、中国の骨董から、北大路魯山人や河井寛次郎など日本の陶芸へと幅を拡げていきました。けれども、骨董や古美術の場合は新しいものは作られないわけですから、10年経ち、ある程度揃うとこれぞという逸品にはなかなか出合えなくなるわけです。さらに突き詰めると仏像しかなかったのですが、まだ自分たちには早いと思い。そんな時、草間彌生さんのドキュメンタリー番組をテレビで観たことが、転機となりました。

聖子 ドキュメンタリーは、世界4ヶ国を巡回する大規模な個展に向け、草間さんが鋭い顔つきで、力強く作品を描いている姿を追ったものでした。これほどまでに素晴らしい女性アーティストがいるのだと感動したんです。その時は、現代美術について、右も左も分からなかったので、まずはプライマリーギャラリーを調べ、ふたりで訪ねてみました。

俊二 2010年1月10日にギャラリーを訪ねたのを今でも覚えています。その日は作品が展示されているわけではなかったので、購入することはなく、ギャラリーの方とお話をして帰ったのですが。この出会いをきっかけに、後日、草間さんの白い〈インフィニティ・ネット〉の作品を見せていただき、購入することに。この作品が、現代アートとしての最初のコレクションとなりました。

玄関の正面には、奈良美智の作品。李朝の白磁花器壺が置かれたのは、江戸時代の船箪笥。国や時代を超え、融合した展示が桶田夫妻ならでは。※2

玄関を入り目に飛び込んでくるのは、村上隆本人が描かれた珍しい作品。「うちの守り神として、出迎えてくれています(笑)」と桶田夫妻。※3

壁に掛けられたのは、草間彌生のペインティング。奥の立体作品は、アメリカの作家ジョシュ・スパーリングのもの。玄関だけでも、桶田夫妻のコレクションセンスが漂う。※4

——その後、草間さんから、他のアーティストの作品へとコレクションの幅を拡げられていますね。

俊二 しばらくは、草間さんに夢中でした。〈インフィニティ・ネット〉や〈パンプキン〉、彼女がNYに行く前の作品なども集めていて。現代アートのギャラリーにも足を運ぶようになり、海外のオークションにも行くようになりました。

聖子 初めてオークションに行ったときは、パドル(番号札)をあげるのにも手が震えてしまって(笑)。最初は草間さんの作品を求めてオークションに参加していたのですが、同時に、出品される様々な作品を目にすることができるので、自然と他のアーティストを知るようになりました。それ以降、村上隆さんや奈良美智さんの作品を徐々に購入し始め、さらにはその次の世代へと、コレクションの枝葉が広がっていった感じです。

壁に掛けられたポーランド出身のアーティスト、ヴィルヘルム・サスナルの作品。廊下には、サーニャ・カンタロフスキーのペインティング。

スイスを代表する女性アーティスト、ミリアム・カーンの作品。森美術館で開催された「アナザーエナジー」展にも、OKETA COLLECTIONからミリアム・カーンのペインティングを出展。

李朝の家具に置かれたのは、桑田卓郎による独創的な造形が美しい色鮮やかな陶芸作品。その上には、佐藤允の細密画が飾られている。

——OKETA COLLECTIONは、巨匠から若手、さらにはファッションやストリートカルチャーをも取り込む多種多様な作品が特徴ともいえますが、購入される際に大切にされていることはありますか?

俊二 現代アートのコレクションを始めて、3,4年目から、海外のアーティストも購入するようになりました。その頃になると、ふたりで時間があればギャラリーを観てまわり、海外のアートフェアにも足を運ぶようになっていましたから。自分たちの目で見て、直感で欲しいと感じた作品を自然と集めるようになりました。

聖子 ジョージ・コンドの作品も、アートフェアで見つけ購入したのですが、実は、その当時はジョージ・コンドのことをほとんど知りませんでしたから。

俊二 ふたりでファッションの仕事をしてきたので、お互いにいいと思うものや心を動かされるものがほとんど同じで。ふたりの意見が一致したときは、即決します。なので、アーティストの名前だけで購入することはありません。同じ作家でも、調子のいいときと、そうでないときがあります。骨董も同じですが、多く経験することにより眼識が研ぎ澄まされ、分かるようになるのだと思います。必ず自分の目で見て、本当にいいと思った作品を買わないとダメですね。

自宅の中のビューイングルームのような存在の客室。中国の骨董から李朝家具、日本を代表する陶芸家たちの貴重な作品とともに、ジャン・ジュリアンなど現代アーティストによる海にまつわるペインティングを展示。

北大路魯山人の春の桜と秋の紅葉が描かれた雲錦鉢(上)と於里辺の四方鉢(下)。その上には、ルーマニア出身の作家、マリウス・ブルチーアの作品が違和感なく置かれる。棚は李朝の骨董。

北大路魯山人による於里辺の四方鉢。大胆な構図の草の上に細筆でムシが描かれ、魯山人ならではの豊かな情景描写がみられる作品。

客室に飾られたロサンゼルスを拠点に活動するドイツ人アーティスト、フリードリッヒ・クナスのペインティング。※5

——ご自宅の中で、骨董・古美術と、現代アートとが違和感なく同じ空間に飾られているのに驚きました。おふたりならではの、暮らしの中でのアートの楽しみ方を教えていただけますか。

俊二 骨董と現代アートでは、全く異なるように感じるかもしれませんが、はじめてそのふたつを並べたとき、不思議にすっと空間に馴染んだんです。それ以来、一緒に飾っています。展示の仕方は、本当に自己流で決まりはないです。ひとつ大切にしていることといえば、居心地のよさだけですね。最初のころは、李朝の白磁に合わせ、草間さんの〈インフィニティ・ネット〉の作品もモノトーンのものを掛けたりしていましたが、コレクションが増えるにつれ、色のあるものもしっくりくるのだと感じるようになりました。購入する際も、これが欲しいという直感なので、作品も多岐にわたり様々。購入した後、どの作品を隣り合わせに並べるかなど、家の中の展示構成に思いを巡らすのが楽しみのひとつにもなっています。

聖子 仕事でトルソーに服を着せ、色やスタイルのバランスをみたりしてきたので、作品の展示も、私たちにとってはファッションのその感覚と一緒なのかもしれません。たとえば、リヒター作品を飾ろうと思ったら、その絵の中で使われているグリーンやイエローに注目し、同系の色が入った若いアーティストの作品を並べてみたりして。家の中の展示は自由ですから。空間全体のバランスを考え、骨董と現代アートを共存させながら、1年に1度は大掛かりに展示替えをしています。

——現在、WHAT MUSEUMで開催されているOKETA COLLECTION「Mariage -骨董から現代アート-」展の源は、ご自宅に発想があったのですね。

俊二 骨董と現代アートの展覧会をやりたいという構想は、5、6年くらい前からずっと考えていました。わたしたちの生活の中では、そのふたつが当たり前のようにそこにあり、合うことは肌で感じていたので、どこで展示をしても違和感がないはずと思っていました。観ていただく方にも、こういう楽しみ方もあるのだと、思っていただけたら嬉しいですね。現代アート好きの人には、骨董への興味も抱いてもらいたいと思い、今回はあえて代表的なものを出展しています。

OKETA COLLECTION「Mariage -骨董から現代アート-」の展覧会風景。ダニエル・アーシャムや、ヴェルディの新作など、勢いのあるアーティストの立体作品が並ぶ。Photo by Keizo KIOKU

展覧会風景。「モノクロ」をテーマに、李朝白磁壺を囲むように、ファッションやストリートカルチャーと関係の深いアーティストによるモノトーンの作品を展示した空間。奥の絵画は、ルイ・ヴィトンのメンズ アーティスティック・ディレクターを務め、桶田夫妻とも交流があった故ヴァージル・アブローの作品。Photo by Keizo KIOKU

展覧会の見どころのひとつである名和晃平の作品が展示されたスペースは、SANDWICHが空間構成を行ったもの。

——これまでにも積極的に展覧会を開催されていますが、一般公開をはじめたのはなぜですか。

俊二 もともとは自宅に飾るためにコレクションをしてきたわけですが、数が増えるにつれ、スペースが足りなくなったので、別の場所にビューイングルームもつくりました。しかし、コンテンポラリーの作品は、プライベートな空間では収まりきらない大きさのものも多く。作品は、場所があるからと、空間とのバランスも考えずただ飾っただけでは生きてきません。器にあったサイズでなければ、結局は倉庫に眠るだけになってしまいます。そこで、展示ができる舞台をつくりたいと思い、2,3年の構想を経て、2019年に最初のコレクション展を開催しました。若い才能あるアーティストをサポートし、より多くの人に知ってもらいたいという気持ちもあります。自分たちの目で観て収集したコレクションの中から、次なるビッグスターが出てくると嬉しいですね。

——若いアートコレクターには、桶田夫妻を目標にしている人も多いと思います。ご経験からのコレクターとしてのアドバイスをいただけますか。

俊二 倉庫に入れたままにするのではなく、人の目に触れる舞台をつくってあげることが大切。その舞台が自宅であってもいいと思います。自分の感性に従い購入していますが、その作品が自宅に合うのか、またはビューイングルームなのか、コレクション展として出そうかなど、舞台は区別して考えるようにしています。これからコレクションをと思っている人は、まずは自宅に合ったサイズを購入することをおすすめします。自己満足で終わらず、作品の楽しみを共有する最高の舞台を用意してこそだと思っています。
 

※1 すべて作品画像は転載不可。
※2 © Yoshitomo Nara, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo
※3 村上隆 ©︎Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. Courtesy Perrotin
※4 すべて作品画像は転載不可。
※5 © Friedrich Kunath, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

 

profile

桶田俊二・聖子|Shunji Oketa, Asako Oketa
ファッションビジネスに携わってきたのち、2000年代に骨董の収集からコレクションをスタート。草間彌生のドキュメンタリーを観たのをきっかけに、2010年より現代美術のコレクションを始める。コレクションは、李朝の骨董から、村上隆、奈良美智らトップアーティストから若い世代まで、またゲルハルト・リヒターなど海外の巨匠の作品や、ファッションやストリートカルチャーなどで勢いのある作家のアートまで多種多様。2019年より、OKETA COLLECTIONとして積極的に展覧会を開催し、コレクションを一般公開する。

OKETA COLLECTION
「Mariage -骨董から現代アート-」

約20年にわたり収集してきた骨董や現代美術のコレクションを前期・後期に分け、それぞれに異なるテーマで展示。前期となる「Mariage -骨董から現代アート-」では、李朝の陶磁器や北大路魯山人など日本を代表する陶芸家の作品から、名和晃平、KAWSをはじめとする現代アーティストの作品までを、一つの空間に共存させ展示する。後期(8月6日~10月16日開催)では、女性アーティストに焦点を当てた展覧会を開催予定。

会期 ~7月3日(日)
会場 WHAT MUSEUM 2F(東京都品川区東品川2-6-10 G号)
開館時間 11:00~18:00
休館日 月曜(祝日の場合、翌火曜休)