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連載旅する新虎マーケット Ⅱ期

Exhibitor 1-1

traditional food

「鮭・酒・人情(なさけ)」が染みる街 [村上市|新潟県 ]

「旅する新虎マーケット」は全国津々浦々の魅力を集め編集・発信し、地方創生へ繋げるプロジェクトです

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「旅する新虎マーケット」は全国津々浦々の魅力を集め編集・発信し、地方創生へ繋げるプロジェクトです

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「鮭・酒・人情(なさけ)」。一見すると21世紀においてあまりに渋すぎるキーワードですが、旅してみるとなるほど、素敵な出会いがたくさんありました。

Text by Chiharu Shirai / Photo by Yujiro Ichioka

 

 

縦に長い新潟県の中でも最北・最東に位置し、隣は山形県と接する村上市。

日本海に面する瀬波温泉エリアは海に落ちる美しい夕日を眺めながら体を癒せる人気の温泉街です。また、かつての城下町であった村上市街地は今も町屋を多く残しており、カメラ片手に歩くのも楽しそう。

今回はそんな村上のまちが旅の舞台。ところで、ここが「鮭・酒・人情(なさけ)のまち」と呼ばれているのはご存知でしょうか? 特に鮭は頭も骨も内臓も味わい尽くすほか、日本で初めて鮭の母川回帰性を利用した自然孵化増殖システムを構築するなど、並々ならぬ愛情と情熱を傾けてきました。もちろん、米どころならではの美味しいお酒、そして越後の人々の人情もこのまちの大きな魅力。

「鮭・酒・人情(なさけ)」。一見すると21世紀においてあまりに渋すぎるキーワードですが旅してみるとなるほど、素敵な出会いがたくさんありました

 

 

 

年夜の晩食(ばんげ)に、ごっつぉする。

 
「昔から鮭が一番のご馳走でした」

そう教えてくれたのは創業390年、伝統的な鮭の加工品を今に伝える『きっかわ』の企画室・高橋典子さん。生まれも育ちも村上市、鮭で育った生粋の村上っ子です。

「このあたりでは正月のおせち料理に気を張らない分、大晦日にたっぷりと贅沢をします。地元の言葉で表すと、『年夜の晩食(ばんげ)に、ごっつぉする』。そのときに欠かせないのが『年取り魚』と言われる塩引き鮭なんですよ」

大晦日の特別な夕食にたくさんのご馳走が並ぶ中、堂々と主役を張るのが塩引き鮭。家族みんなの好物ですが、誰もが好きな場所を食べられるわけではありません。稚魚の頃から死ぬまで止まることなく動きつづける「一びれ(顔の一番近くにあるひれ)」は生命力の象徴。その周囲の脂がのった身を食べられるのは一家の主人だけで、そこから尾に向かって長男、次男……と、厳格に場所が決められています。

「娘が食べると嫁に行き遅れる、奥さんが食べるとかかあ天下になると言われたり……。私も大晦日に一びれの辺りを食べたことはありません。他にもお祭りのときに各家庭自慢の鮭の酒びたしを持ち寄って味比べをするなど、本当に鮭は暮らしに欠かせないお魚です」

話を聞きながら、『きっかわ』の作業場を案内していただきました。もともと酒蔵であったここは築140年の町屋造り。1000匹以上の鮭が鈍い光を放ちながら吊り下げられる様は圧巻です。一尾ごとに腹を開き、塩を引いていく、その作業は今なお昔ながらの手作業で。吊るした後も気温、湿度、発酵の進み具合を職人の勘と経験で見極めながら、何度も場所を入れ替えると言います。

「このまちの伝統を残していくことも、きっかわの役割。だから製法も昔ながらのやり方を譲るわけにはいかないんです」と高橋さんが頷きました。

 

 

 

 伝統の味は、三度美味しい。

 
そんな『きっかわ』の味を楽しめる場所があります。それは松尾芭蕉が「奥の細道」の道中で二泊した宿を改装した料理店『井筒屋』。

塩引き鮭はもちろん、中骨を柔らかくなるまで煮た「どんがら煮」、保存食として愛されてきた熟鮓(なれずし)「飯寿司(いいずし)」、地元の人は「はらこ」と呼ぶ「いくらの醤油漬け」など、どの部位も無駄にすることなくいただいてきた村上の鮭文化をお腹いっぱい味わえます。

数あるメニューの中でも一番人気で、必ず食べたいのが「塩引き鮭茶漬け」。ご飯と塩引き鮭が別々に出てくるので、まずは土鍋でふっくらと炊き上げたご飯をひと口。地元のお米、岩船米のやさしい甘みが口の中に広がります。そして次に、塩引き鮭とご飯を一緒に。ここではまだお茶漬けにせずに、そのままの味を楽しみましょう。鮭の塩味と、ご飯の甘みが引き立てあって、あっという間にお茶碗は空っぽになるはず。

そして最後におかわりをして、ご飯の上へ塩引き鮭、薬味を乗せ、村上の番茶と生醤油を合わせた鰹節ベースのだしをかけてお茶漬けに。ありとあらゆる旨味が渾然一体となって喉の奥へと駆けていきます。もうこの上なく幸せ!

「事前にご予約をいただいているお客さまには、ご来店の時間に合わせて炊き上げたご飯をお出しするようにしています」とお店の方から耳より情報も。このまちを旅すると決めたなら、ぜひとも予約しておきたいですね。

 

 

 

村上の鮭には、辛口の酒がよく似合う。

 
村上市には全国的に知られる地酒がふたつあります。ひとつは「〆張鶴」、もうひとつが「大洋盛」。今回の旅では「大洋盛」の蔵元である大洋酒造のギャラリー『和水蔵(なごみぐら)』を訪れることにしました。出迎えてくださったのは総務部の近さん。この方、かなりの飲ませ上手で、試飲カップが次々と空になっていく。

「大洋盛も美味しいけれど、私が好きなのは大吟醸・越後流。香りももちろんいいんだけれど、それよりもスッと入って、スッと消えていく。これが村上の鮭とよく合うんだなあ」

そう言って新しいカップにまたなみなみと注ぎます。よく冷えたそれは口に含んだ瞬間ふわっと華やいで、そして爽やかな余韻だけを残して消えていく。甘塩辛い鮭料理と合わせれば、確かにこれは手を止められる自信がありません。うーん、恐るべし、村上の酒。

 

 

 

 

さて、鮭、酒を堪能しながら巡ってきた今回の村上旅であるけれど、道中ではたくさんの「人情(なさけ)」とも出会うことができました。たとえば暑さをしのぐために入ったお茶屋さん「九重園」。突然の訪問にも関わらず町屋造りの店内をご案内いただき、とても楽しい時間を過ごすことができました。

また、鮭、酒と並んで村上の伝統産業である村上木彫堆朱を手がける老舗工房『堆朱のふじい』では塗師の渡辺信次さんが、現役ロックミュージシャンらしくリズミカルな塗り技をご披露。その他にも入る店、入る店で気さくにお話をしてくださいます。

皆さんもこのまちを巡り、気になった店があれば、どうぞ気軽にその暖簾をくぐってほしい。思いもかけず予定が変わってしまうこともまた、旅の醍醐味のひとつ。ふらりと入ったお店で嬉しい人情(なさけ)が待っていて、ついつい長居をしてしまうこと確実です。

 

老舗のお茶屋「九重園」で町屋を見学

村上木彫堆朱のロックな塗り師 渡辺さん

「井筒屋」鮭づくしのお料理


 

旅する村上市

 

Tuisyu Fujii

堆朱のふじい
彫刻を施した木地に漆を重ね、さらに繊細な彫りを加えることで、より立体感のある表情を作り出す村上木彫堆朱。ずっと飾っておきたくなるほど美しい漆器ですが、使い込むことで深まる風合いもぜひお楽しみを。

Kokonoen

九重園茶舗
北限のお茶として知られる村上茶をつくりはじめて270年の老舗。店内ではお茶の販売はもちろん、町屋造りの座敷で抹茶や煎茶をいただくこともできます。夏のまち歩きには冷たい抹茶アイスモナカがおすすめ。

Idutsuya

千年鮭 井筒屋
七輪で焼き上げた塩引き鮭を、土鍋炊きご飯でいただけるお店。一番人気は特製のだしでいただくお茶漬け。その他にも村上の鮭文化を心ゆくまで楽しめるコースメニューもあります。

「旅する新虎マーケット」は、全国津々浦々の魅力を集め、編集・発信し、地方創生へ繋げる“The Japan Connect”を目的とするプロジェクト。舞台は、2020年東京オリンピック・パラリンピックでメインスタジアムと選手村を結ぶシンボルストリートとなる「新虎通り」です。「旅するスタンド」でその街自慢のモノ、コト、ヒトに触れたり、「旅するストア」や「旅するカフェ」で珍しいグルメやセレクトアイテムと出会ったり。約3カ月ごとに新しくなるテーマに合わせて、日本の魅力を凝縮。旅するように、通りを歩く。そんな素敵な体験をご用意して皆さまをお待ちしています。
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