ART

特集STARS展:現代美術のスターたち—日本から世界へ

Interview

Tatsuo Miyajima

明滅する数字に3,000人の記憶と思いが込められた「時の海」を目指して——宮島達男@森美術館「STARS展」

「時の海̶東北」プロジェクト(2020東京)の展示風景。「STARS展」の時点で719名の参加があり、その数だけのLEDのデジタル数字が水中に明滅する。

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「時の海̶東北」プロジェクト(2020東京)の展示風景。「STARS展」の時点で719名の参加があり、その数だけのLEDのデジタル数字が水中に明滅する。

Installation view: STARS: Six Contemporary Artists from Japan to the World, Mori Art Museum, Tokyo, 2020 Photo: Takayama Kozo

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アーティスト活動の最初期から、一貫してデジタル数字を用いた作品を作り続ける宮島達男。2011年の東北大震災以降、各地でワークショップを重ねて取り組んでいるプロジェクト「時の海—東北」に込められた思いとは?

photo(digital gadget)by Koutaro Washizaki
edit & text by Mari Matsubara

「STARS 展」の宮島達男の展示の一つに「時の海—東北」がある。真っ暗闇の中、水が張られたフロア一面に青と緑の LED 数字がちらばり、それぞれの速さで1から9へと、または9から1へ順にカウントしていく。0は表示されず、一瞬暗闇となり、またカウントが始まる。それが永遠と繰り返される。コンマ数秒でまたたく間にカウントするものもあれば、数字が変わるのに数十秒かかるものもある。そのさまは夜空の星のきらめきのようでもあり、ゆらめく水面に飛び交う蛍のようでもあり。この作品は、数字は、何を表現しているのだろうか?

宮島達男|Tatsuo Miyajima  
1957年東京都生まれ。茨城県在住。1988年ベネチア・ビエンナーレ「アペルト88」で「時の海」を展示し国際的な注目を集める。以来、デジタル数字を用いたインスタレーションやペインティング、立体作品を制作。現在、東日本大震災犠牲者の鎮魂と記憶の継承を願い「時の海̶東北」プロジェクトを継続中。幅広い支援と参加を募る。Photo:Tayama Tatsuyuki

宮島さんが東日本大震災と向き合い続ける理由とは?

──宮島さんは1987年に作品《30万年の時計》を発表して以来、LEDのデジタル数字を使い続けています。それはどうしてですか?

宮島 アーティストとして生きていく上で、3つのコンセプトを表現のベースにしようと決めました。〈それは、変化し続ける〉〈それは、あらゆるものと関係を結ぶ〉〈それは、永遠に続く〉。この3つを表現するにはどんな素材がいいか? 誰もやったことがない形は? と考えた末に行き着いたのが数字でした。数字がカウントされ、永遠に繰り返すさまは命のリズムや輪廻転生を想像させます。0をなくして暗闇にすることで、より生と死のダイナミズムを表現できるのではないかと。《30万年の時計》ができた時、これで作家人生を賭けられると思いました。自分の道しるべ、歩を進める方向が明確になって、嬉しかったですね。

 

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1/2「時の海—東北」に使われているLEDガジェット。数字のフォントは1987年に宮島が線の太さや角度にこだわってデザインしたものをずっと使用している。
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2/2継続的に行っているワークショップでは、子供や大人たちにLEDガジェットのタイム設定をしてもらう。東日本大震災で被害を受けた地域の人を中心に、現在も参加者を募集中。作品横には参加者の名前と配置図が掲示される。Photo: Tatsuo Miyajima Studio

──デジタル数字はユニバーサルなものですね。

宮島 そのことは、作品を作り始めてから徐々に思い至りました。国際的な展覧会に出品した時、アボリジニの人も、アフリカの人たちにも分かってもらえる。世界中の人たちが数字という表現にシンパシーを感じ、すぐに理解してくれる。これは強いアートだなと気づきました。

──「時の海—東北」について教えてください。

宮島 2011年の東日本大震災は、本当にショックな出来事で、しばらくは作品を作れませんでした。震災直後は目の前に苦しんでいる人がいて、パンは役立つけれど、アートなんて何も役に立たないと思い知らされました。2~3年経ってやっと、アートが心に傷を負った人の癒しや励ましになれるのではないかと考えられるようになりました。2014年頃から構想を始め、形になったのが2017年石巻市と牡鹿半島で行われた「リボーンアート・フェスティバル」に出品した「時の海—東北」です。構想を練る上で現地の人たちにリサーチした時、あれほどの津波に襲われても、海に対して恨み言を言う人は誰もいなかった。地元の方は海と共に生きて、海と共に喜び、悲しんでこられたのだと知りました。そこで、水の中で一つ一つ異なる時間設定をしたLEDの数字が輝く作品を作ることにしました。300人の一般の方に参加していただき、自由にカウンター速度を決めてもらいました。こうしたワークショップを石巻、陸前高田、いわきなどで開催しています。今後3,000人まで募り、東北の海が見える高台に恒久設置を目指すプロジェクトなのです。2027年の完成を目標に、設置場所も募集中です。

──参加する人たちは、どのようにカウンタースピードを決めていますか?

宮島 たとえば震災で亡くなったおじいちゃんの誕生日を表す数字3つで秒数を決める人もいます。いろんな数式を紙に書いて1時間以上も真剣に考え続ける人もいます。震災の時に考えたこと、絶望、悲しみ、苦しみ、優しさ、信頼、希望、決意した未来への約束。そうした思いをのせてスピードを設定していきます。

──プロジェクトが完成したら、どんな作品になるでしょう?

宮島 3,000人の命の交響楽を奏でるような作品になるでしょう。自分自身では時間の長さを示せない人間にとって、時間とは記憶でしかないんです。あの時はこうだった、こういうことをしたという記憶。時間は思い出とともに伸び縮みし、時は永遠となる。そういうことが3,000個のLED一つ一つに込められるのです。

 

● 森美術館館長 片岡真実 の POINT OF VIEW

「『青と緑は海の色』と宮島さん。この2色のLEDを一緒に使ったのは初めてだとか。展示の初日に『あと4倍くらい大きい空間が欲しかった』と言われました。仏教的な宇宙観でいう三千大千世界を目指し、3,000個のLEDを使いたいから。いま719個。そう、4倍必要でした!」
 
※初出=『HILLS LIFE』プリント版 2020年10月1日号

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