2018年10月に発足したCXO(Chief Experience Officer)Officeは、メルカリのデザインルールや基礎をつくるチーム。直近では、UIの変更やブランドロゴの変更なども手がけた。華やかなアウトプットに目がいきがちなデザインチームにあって、“メルカリデザインのカルチャー”づくりの必要を繰り返し説くUI/UX Designerの井上雅意にその理由を聞いた。
photo by Koutarou Washizaki
text by Rie Noguchi
井上雅意|Guy Inoue 株式会社メルカリ CXO Office, UI/UX Designer。新規事業の立ち上げに携わることも多く、福岡で展開している「メルチャリ」というシェアサイクル事業の立ち上げも担当。趣味は毎日平均1万歩以上という散歩。
メルカリは何をつくり、どんな価値をお客さまに届けるのか?
How CXO Design Team Helps to Share MERCARI’s Style
——CXO Officeの仕事とは?
井上 もともとメルカリにはプロダクトをつくるためのデザイナーが少人数いたのですが、規模が大きくなるにつれて、デザイナーの数も増えてきました。さまざまなプロダクトが増えてデザイナーが社内に点在する形になったんです。そこでデザイン全体を統括する機能が必要になり発足したのがCXO Officeという部署です。全デザイナーがより活躍できるような“テコ”をつくるイメージですね。
——具体的にはどんなことをするのでしょう?
井上 主な仕事はブランディングと、UXと、デザイン組織のテコをつくることです。わかりやすいアウトプットでいうと、ブランドガイドラインのような最低限のルールづくりです。「メルカリではこういうクリエイティブをつくっていきましょう」というルールを決める。そのために「メルカリってこういうブランドだよね」という“メルカリらしさ”を定義して、それをクリエイティブに落としていく。ただしこれは最低限の取り決めなので、あとはデザイナーが各自自由に使っていけるという意味での“テコ”をつくっています。
CXO(Chief Experience Officer)Officeは、2018年10月に発足。メルカリのデザインルールや基礎をつくるチーム。メルカリデザインのカルチャーをつくることで、デザイナーたちが“メルカリらしさ”という共通言語をもてるようにしている。直近では、UI変更やブランドロゴの変更なども手がけた(Photo: Courtesy of MERCARI)
——メルカリらしさの定義をして、みんながそれを共通認識としてもつ、ということですね。
井上 UXに関して言うと、いわゆるプロダクトの体験やサービスの体験に紐づくものになります。プロダクトはいろいろな人が手がけていますが、それぞれが勝手にやってしまったら、プロダクトとしてみたときにバラバラになってしまいますよね。
そうならないよう統一化できるようなシステム、いわゆるデザイン言語を定義していく。リストやアプリ内にあるフォントのサイズやマージンのピクセル数などの定義づけというとわかりやすいかもしれません。それと同時に、少し先の未来の形をつくり、“次の体験”を考えていくこともしています。
——“テコ”という言い方が新鮮ですね。
井上 組織というと少し大きな話になりますが、わたしは“メルカリデザインのカルチャー”をつくりたいと思っているんです。メルカリのデザイナーとして「何をすべきか」という心構えをつくっていくほうが、結果としては説明コストが減ることになる。つまり言葉で説明しなくてもわかるようにしたいんです。
デザイナーというのは横のつながりが重要で、横を見ていないとデザインがぶれてきて、何を目指しているのかがわからなくなってしまうことがあります。そのため、単純にシステムだけではなく、「こういうスタンスでプロダクトをつくるべきだよね」という共通認識をみんなに持ってもらうために動いています。
CXO Office 井上雅意さんの3つの[MISSION] ❶ “メルカリらしさ”をブランディングする ❷ UX向上のためのデザイン言語を構築する ❸ メルカリデザインのカルチャーをつくる
——井上さんが考える“メルカリらしさ”とは?
井上 デザイン的な視点で語るのは難しいのですが、やはりそこは形や色で示していくしかないのかなと思っています。CXO Officeでの最初の仕事がブランドロゴの変更だったのですが、ロゴを変えるにあたり「メルカリらしさってこういうこと」という抽象的なものをひたすら言語化していく作業をしました。
「メルカリを使うことで、すごくワクワクする」とか「いいものがお得に見つかった」「メルカリを使えばいままでできなかったことができるようになる」というようなキーワードが出てきたら、それを形や色で表現していく。それだけではなく、タイポグラフィはどうあるべきか、カラーのルール、イラストのルール、語りかた(トーンボイス)などのガイドラインもつくりました。
——ボツ案も公開しているんですよね。何が決め手となってこのロゴに決定したのですか?
井上 ロゴができるまでのプロセスを公開していくのがいいと思い、あえて出しています。完成されたものだけを「どや」という感じで出してもメルカリらしくないなあという話もあって。それでも公開しているのはごく一部で、案としてはもっともっとたくさん出ていました。
最終的に2案くらいに絞られて、それを社内で詰めながら、色や形の細かい調整をして、さらにものすごい数のパターンをつくったりして。苦労というよりはとにかく時間をかけましたね。ちょうどメルペイというサービスが始まったので、今後お店でロゴを見かけることも多くなることを見越して、要素は少なめにし、どんな使われ方をしてもロゴが崩れないもの、という視点で、シンプルな新しいロゴが完成しました。
——色や形を決めるようなデザイナーの仕事の枠を越えて、“メルカリらしさ”をデザインするのもCXO Officeの仕事なんですね。
井上 デザイナーは「依頼されたデザインプロダクトをつくる」ことだけに留まらず、企画のプロセスにどっぷり関わったほうがいいとわたしは考えています。アウトプットに目がいきがちですが、デザインの一番の肝は「何をつくり、どんな価値をお客さまに届けるのか」としっかり向き合うことですからね。
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