インスタに紹介されたあれやこれやを、もうちょっと詳しく教えてもらおうという藤原ヒロシの連載「INSTA FLOW」の番外編第2弾は、「思い出の場所」からhf的人生論をお伝えします。今回のインタビュアーは鈴木哲也氏。honeyee.comの元編集長でhfからの信頼も篤い男。いつもとひと味違う本格派。濃い。
interview & Text by Tetsuya Suzuki
Photo by HF WATCHING COMMITTEE (HWC)
Courtesy of Red Bull Music Festival
「昔のことは覚えていない」というhf的人生論、その1
去る9月30日、超大型台風の接近を控え、まさに「嵐の予感」のなか開催された“メジャーフォース”の30周年イベント「Red Bull Music Festival, Major Force be with you -30th anniversary-」に参加するため、会場であるラフォーレ原宿に現れた藤原ヒロシ。“メジャーフォース”といえば、惜しくも昨年亡くなった元プラスチックス、MELONの中西俊夫、その中西の盟友であるK.U.D.O.、高木完らとともに藤原ヒロシも参加した日本初のダンスミュージックレーベル。旧友たちとの共演を、しかも、何かと“ゆかり”を云々される原宿で、となれば、さしものhfも思い出話が尽きないであろうと思いきや——
「僕、ホントに覚えてないんですよ、昔のこと。いつも、周りの人たちに、あのときこうだったってよねって言われて、やっと『あ、そうだった、そうだった』ってなるくらいで」
と前回の「六本木編」に続き、本日もつれない様子(?)のhf。でも、メジャーフォースですよ、原宿ですよ。全部忘れたってことはないでしょう?
「30年前って、ピテカン(トロプス・エレクトス=80年代前半、原宿にあったクラブ)もとっくになくなっていたし、いわゆる裏原宿っていうのも、まだ始まってなかったから、ちょうど80年代から90年代へ移るまでの空白期間のような時代だったと思う。僕はメジャーフォースでは一番年下で、トシちゃん(中西俊夫)たちの間に運良く潜り込ませてもらった感じだった。なんか、毎月給料も出たし(笑)。でも、結局、メジャーフォースからはすぐに抜けてしまったんですけどね」
当時、メジャーフォースといえば、ヒップホップを独自に解釈した斬新なリリースを重ね活動拠点をロンドンにも持ち、ユニークなレーベルとして注目を集めていたのだが。
「そのヒップホップに、常に後ろめたさを感じていたから。トシちゃんも(高木)完ちゃんも、その当時はヒップホップのスタイルにどんどんのめり込んでいっていて、僕もトラックスーツを着たり、アディダスのシューズも買ったりしたけど、なんか自分は違うなって思うようになって。『うーん、TROOPのスニーカーはさすがに履けないなぁ』って(笑)。RUN DMCと一緒にツアーを回ったときも、やっぱり『この人たちとは違うかな』っていう思いはあったし、横浜の黒人ばかりが集まるクラブでDJとかもしてたんだけれど、やっぱり自分にはムリがあると思って。だから、あえてヒップホップから遠ざかったというより、ついていけなかったというか、もともと自分にはムリがあったんだと思う」
その後、hfはスケートカルチャーに「面白さ」を見つけ、90年代に入るとストリートファッションを世界的にリードするムーブメント=「裏原宿」の立役者となるのは言うまでもない。
「その“裏原宿のカリスマ”みたいに言われるけれど、当持の感覚としては、“結局、相手にされていない”って感覚でしたよ。もちろん、雑誌で僕の記事を読んでくれていたような若い人たちは僕を支持してくれていたけれど、いわゆる“業界”の人からは、相手にされていなかったし、理解もされていなかったと思う。それは、実は今もそう思っているんですけどね」
相手にされない? まさか、まさか。だって、hfには、アップル、ナイキ、ルイ・ヴィトンと名だたる世界企業、ブランドからのラブコールがひっきりなしのはずでしょう?
「それは、どれも企業やブランドといった組織からというより、その組織の中に、僕に声をかけてくれるような“面白い人”がたまたまいてくれたからだと思う」
どんな大きな企業であっても、あくまで基本は“人”との繋がりなのだという。では、hf的コミュニケーション術とは、一体?
「コミュニケーションスキルって、よく言うじゃないですか。それが下手な人にはなりたくないって思ってますね。何といっても、僕の憧れは『アルプスの少女ハイジ』のハイジだから(笑)」
え? どういうこと?
「だって、ハイジのコミュニケーション能力って凄いでしょう(笑)。あの“おんじ”って、村中から嫌われているような人の心を一日で開かせるんだから。いつも天真爛漫で、わからないことはわからないって素直に質問して、どんどん仲良くなっていくでしょう。あの素直さって、僕にも通じるところがあると自負してるんですけどね(笑)」
天真爛漫で素直か……。hfといえば、クールな戦略家的といったイメージを思い浮かべる人もいるだろうけれど、確かに“怒りのhf”っていうのも見たことないし、聞いたこともない。
「だって、怒るのってエネルギーの無駄でしょう? 例えば仮に嫌なヤツがいたとして、その嫌なヤツのために怒って、さらに消耗するのって無駄以外の何物でもないじゃないですか。怒ったところで、何かが解決するわけでもないし。だから、僕、童話の『北風と太陽』も好きなんですよ。僕はもちろん、太陽派。相手を力で強引にねじ伏せるんじゃなくて、何か工夫や配慮をすることで物事をスムースに進められる方が良い。その方がスマートだし。もちろん、嫌なことやツイてないこともときどきあるけれど、それもあとあと、笑い話になれば良いって、いつも思っているから」
というわけで、メジャーフォース30周年にかけた原宿思い出話のはずが、「hf=ハイジ説」、さらには「hf=太陽説」へと脱線していったわけだけれど、結果、味わい深い話がたくさん聞けた気がする今回の「INSTA FLOW番外編」。では、次回のお散歩エリアはどこにしましょうか?
藤原ヒロシ|Hiroshi Fujiwara
1964年三重県生まれ。DJ、音楽プロデューサー、ファッションクリエイター。英米で触れたクラブ文化を80年代の日本に持ち込むなど、音楽とファッションの両軸で日本のストリートカルチャーを牽引。現在、デジタルメディア「Ring of Colour」を運営する。京都精華大学ポピュラーカルチャー学部客員教授。
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