クリエイティブな人たちは、得てして時間の使い方がうまい。なかでも、1日や2日という短期間で、驚くほど効率的に旅をする人は、セルフマネージメントの達人と言えるだろう。そうした賢人たちの行動例から、週末小旅行のアイデアを学ぶシリーズ。今回のゲストは、立体音響システムなどを用いた多彩なサウンドデザインで、未体験の感覚を五感に与えてくれる音楽家のevalaさん!
TEXT BY ARINA TSUKADA
PHOTO BY evala
——これまで、どのような場所に、どのようなスケジュールで「週末旅」や「日帰り旅」をされてこられましたか?
evala 公演や展覧会の仕事で海外へ行くことが多いのですが、まっすぐに帰国せず、どこかへ寄り道をして、ショートトリップするように心がけています。何かが一区切りして何かが始まっていくときの旅は、多くのことを与えてくれます。今年最も印象的だったのは、バルセロナの音楽フェスティバルSonarに参加した後に行った、ポルトガル・アゾレス諸島のサンミゲル島です。およそ、こんなスケジュールでした。
1日目
09:30
バルセロナ空港から、リスボン空港へ。
11:30
リスボン空港着、市内に出てランチ(バルセロナとはまた違う暑さ)。
14:00
リスボン空港、フライトアクシデントで待たされる(イライラ)。
17:00
アゾレス諸島、サンミゲル島の空港到着(東京からの距離約12,000km!)。
18:30
現地ホストの案内で地元スーパーへ。島のワインを買ってアパートでのんびり(海の音を聞きながら)。
2日目
10:00
現地ホストの車で島観光。硫黄の温泉に入ったり、教会を観たり、霧に包まれた山道をドライブしたり(紫陽花や松など、日本で見慣れた植物がたくさん生息していたのも印象的)。
19:00
ホストおすすめの地元のレストランで、巨大な焼き魚を食べる(食べきれず)。
3日目
午前
霧がすごいのでアパートでひと休み(朝からワイン)。
13:00
アパートからすぐのレストランでアロース・デ・マリスコ(ポルトガル名物・魚貝のスープリゾット)に出合う(絶品)。
14:00
レンタサイクルで島を走り抜ける(絶景)。
18:00
いったんアパートに戻ると、近くの港から楽しい音が。島のお祭り。無料で食事やワインがふるまわれる。予定していたレストランをキャンセルし、地元の人たちの伝統的な音楽と踊りを深夜まで楽しむ(旅の醍醐味)。
4日目
10:00
現地ホストの車で島の観光名所フォゴ湖へ(CGみたい)。
15:00
遅めのランチ後、リスボン空港へ(サンミゲル島ありがとう)。
21:00
リスボン空港着(アパートの鍵を持ってきてしまった)。
24:00
深夜のご飯を求めてさまよう(なにも見つからず……パンを食べた)。
——どのような気分になったとき、ショートトリップへ出られるのでしょうか?
evala 仕事がなければずっと旅していたい性分ですが、なかなか行けないので、出張の延長でどこかへふらっと寄り道をするのが自分の中でルーティンになりつつあります。ただ僕は、事前にあれこれ予定を詰めるよりも、無目的の時間を知らない場所で過ごす旅が好きなんです。
——ショートトリップに出ると、何を得ることができますか?
evala 知らないところに行って知らないことを見聞きする、それだけでいいんです。自らを開いてさえいれば、未知との遭遇を招き寄せるし、それまで無関係と思っていたものがつながってきたりする。世界には無数の価値基準が存在していて、どれだけたくさんの互いに矛盾しあう価値判断の基準を自分ひとりの内に抱え込めるか、それがその人の人生を豊潤にしてくれるのではないかと思っています。
——もし、いま3日間の余裕があるとしたら、どこへ行ってみたいですか?
evala 島ですね。はじめて訪れる島をゆっくり探検したい。または、ドブロブニクのロクルム島にあるヌーディストビーチ。数年前に一度行きましたが、あの開放感は忘れられません。
evala
音楽家、サウンドアーティスト。先鋭的な電子音楽作品を発表し、国内外でインスタレーションやコンサートを上演している。2016年より「耳で視る」という新たな聴覚体験を創出するサウンドプロジェクト「See by your ears」を推進。暗闇の中で音が生き物のようにふるまう現象を構築し、サウンドアートの歴史を更新する重要作として各界から高い評価を得ている。また舞台、映画、公共空間において、先端テクノロジーを用いた多彩なサウンドプロデュースを手掛ける。
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