WEEKEND TRAVELER

クリエイティブを加速する、賢い小旅行のすすめ #4 鈴木啓太_プロダクトデザイナー

クリエイティブな人たちは、得てして時間の使い方がうまい。なかでも、1日や2日という短期間で、驚くほど効率的に旅をする人は、セルフマネージメントの達人と言えるだろう。そうした賢人たちの行動例から、週末小旅行のアイデアを学ぶシリーズ。第4回目のゲストは、グラスから電車まで、サイズにかかわらず理知的かつ詩的な造形を生み出す、プロダクトデザイナーの鈴木啓太さん!

TEXT BY TOMONARI COTANI
PHOTO BY KEITA SUZUKI

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——鈴木さんはこれまで、どのような場所に、どのようなスケジュールで「週末旅」や「日帰り旅」をされてこられましたか? 可能な限り、具体的な時間を記していただきながら、ご説明いただければと思います。

鈴木 これまでさまざまなショートトリップをしてきましたが、最も記憶に残っているのは「青春18切符」を使って、日帰りでどこまで行けるか挑戦した旅です。時刻表を使って電車の乗り換えを計算して、ひたすら電車に乗るだけ(笑)。日本の真ん中である愛知県からスタートして、北は仙台往復、南は瀬戸大橋を渡る往復ができました。

最近のショートトリップで良かったのは、北海海のニセコと真狩村を巡った2日間の旅です。

1日目

8:00
羽田空港を出発

9:30
新千歳空港に到着。すぐに車で移動。

13:00
真狩村に到着。旅の目的地のひとつ「マッカリーナ」で昼食。

マッカリーナは、野菜を中心にしたフレンチレストランを併設するオーベルジュ(2012年ミシュランの星獲得)。アートディレクターは田中一光さん。建築は内藤廣さん。広大な敷地に丁寧に管理された美しい建築物が並んでいる素晴らしい場所です。

15:30
ニセコに到着。旅の目的地「坐忘林」に到着。

建物内を散策したり実測したり記録撮影をしたり。ここは、いま日本で最も好きなホテル。部屋に備え付けたれた、石をくり貫いた大きなバスタブに浸かりながら森を眺めて過ごす。部屋の外の林が霧になったり雨が降ったりするのを眺めながら、いろいろなことを考える。ラウンジの暖炉で燃える木材は、このホテルを建設する際に伐採された白樺で、とてもいい香りがします。

18:00
坐忘林で夕食。器について聞いたり話したりする。

22:00
就寝。

2日目

6:00
起床

7:00
ホテル内で朝食をとる。

9:00
川でラフティング。どんな旅にもアクティビティは欠かせません。

11:00
森を散策。

12:00
ニセコを出発。支笏湖でカヌーに乗る。

15:30
千歳の「ハウベ」でジンギスカンを食べる。

17:30
新千歳空港を出発。

19:00
 羽田空港到着。

——どのような気分になったとき、ショートトリップへ出られるのでしょうか?

鈴木 僕はワーカホリックで、常に新しいものを吸収したいタイプなので、チルアウトを目的に旅行をすることはないんです。旅の目的はインプット。いかに自分に影響を与えてくれるものに出会えるか。東京にはなんでもあるように錯覚するけど、そんなことはないよなというのが旅をするとよく分かります。

その場所にしかない感動的なものごとが、日本にも世界にもたくさんあります。2日あれば、かなりいろいろな場所に出かけられ、いろいろな体験ができるので、ガチガチに予定を詰め込んで欲張りに旅をするんです。

最近では電車のデザインをいくつもしているので、参考になりそうな電車に乗りにいく「乗り鉄旅」をすることも増えてきましたね(笑)。

——ショートトリップに出ると、何を得ることができますか?

鈴木 自分にとっての旅は、大きく2つの方向性があります。ひとつは「もの」に出会う旅、もうひとつは「上質」に出会う旅です。ものに出会う旅は、その時の興味や関心に従って、自分を打ちのめしてくれるような圧倒的なオブジェクトとの出会いを期待して、彫刻や仏像や民藝などオブジェクトを巡ります。

上質に出会う旅は、その土地にしかないラグジュアリーホテルやレストランに滞在することだけを目的にした旅で、いま、世界中のラグジュアリーホテルを巡っています。「本物」を知ることは、ものをつくる僕にとっては欠かせないこと。その土地にしかない特異なものはものの見方を広げてくれるし、自分のデザインに大きく影響を与えてくれる。良いサービスや素晴らしいホスピタリティを知っていると、ものの設計に優しさや深みが出てくる気がしています。

——最後に、もし、いま3日間の余裕があるとしたらどこへ行ってみたいですか?

鈴木 韓国の禅寺に精進料理を食べに行きたいですね。あと、ベトナムを鉄道で旅して、藍染の産地を訪れてみたいです。


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profile

鈴木啓太|Keita Suzuki
プロダクトデザイナー。1982年愛知県生。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒。2012年デザインオフィス「PRODUCT DESIGN CENTER」ブランド「THE」設立。醤油差しから鉄道車両まで広くデザインを手がけている。2015年『サンテティエンヌ国際デザインビエンナーレ』招待作家。2016年『HUBLOT DESIGN PRIZE 2016』ファイナリスト。2017年度 グッドデザイン賞最年少審査委員。主な仕事に「富士山グラス」。最近の仕事に、三越伊勢丹 新PB「CLOTHING」ブランド開発、FURLA「ミラノコレクションSS18会場」インテリアデザイン、相模鉄道の新型車両「20000系」のプロダクトデザイン等。