HILLS LIFE DAILYにて、「新しい教養」を探し求める対談シリーズを行っている石川善樹(予防医学博士)。同シリーズのオルタナティブ版とも言える、より気軽な「雑談ベース」のシリーズが、いよいよ本格的な「雑談モード」に突入。今回は、アカデミーヒルズのライブラリー会員(それぞれ初対面)約10名が集い、「雑談を通じ、いかにして友情を育むか」の実証実験!?がおこなわれた。
TEXT BY TOMONARI COTANI
PHOTO BY KAORI NISHIDA
大人になってから友だちを作る、3つの方法!?
石川 先日、iPS細胞の山中伸弥先生にお会いしたのですが、そのとき印象的なことを話されていました。山中先生は、iPS細胞でノーベル賞を取る以前から元ラグビー日本代表の故・平尾誠二さんと親しかったそうですが、その平尾さんのことを挙げ、「大人になってからできる友だちは本当に貴重だ」とおっしゃったんです。
確かにそうだと。僕も友だちを作りたいぞと。それで、どうやったら「新しい友だち」ができるかを考えたのですが、そのとき、以前政治家の方から聞いた話を思い出したんです。彼は、「友だちを作る方法は3つある」と話していました。1つめは、生死をかけた闘いを共にする。2つめは、本気でケンカをする。3つめが、誰にも言えない悪いことを一緒にする(笑)。
最終的には「3つめ」もやってみたいですが(笑)、できれば「1」か「2」で友だちを作れないかと。出口はそこだとして、じゃあ入口は何だと思ったときに、「雑談ではなかろうか」という結論に至ったんです。
雑談の大切さについては常々考えていて、以前にこのHILLS LIFE DAILYでも、友だちの石田淡朗くんや、尊敬するパナソニックの大嶋光昭さんと対談をする際に、より雑談になるように、ギャラリーの方々にも来ていただいたのですが、やはり「話す人」と「聞く人」に分かれてしまい、テーマもなく話が盛り上がるという状態にはなりませんでした。
実際、ここアカデミーヒルズでもいろいろなセミナーをやっていますし、今日お集まりいただいたライブラリー会員のみなさんも、いろいろ出席されていると思いますが、大抵「前で話す人と聴衆」という関係性ですよね。でもそれだと、「もっと仲良くなりたい」という気持ちはお互いあるのに、なかなか距離が縮まらないなと僕自身感じていたんです。だから今日は、初対面の人たちが集まって、とりとめもない雑談をしてみようという、いわば実験をおこないたいと思って、みなさんにお集まりいただきました。
で、早速始めたいのですが、みなさんからは事前に「雑談のネタ」を挙げていただきましたよね。そのなかに、お互いのことを知るには恰好のネタがありました。「家が火事になったとき、ひとつだけ持って逃げられるとしたら何か?」です! どうでしょう、この話題について、まずはお隣同士で話してもらえますでしょうか。はい、それではみなさん、雑談しましょう!
プラグマティストとロマンティスト
石川 (約10分後)……はい、それではお一人ずつ、どんな結論になったのか教えていただけますか? ではAさんからどうぞ。
A 私は、サイフか携帯電話で悩みました。サイフは、お金もそうですが身分証明書が入っているので、自分の身元を証明してくるものがなくなっちゃうかなって。
石川 なるほど、身分証にこだわる女性ってことですね(笑)。
B 私も絶対サイフです。お金とクレジットカードと身分証明書も入っているし、これさえあればどこでも生きていけますから。
石川 なんか、ロマンチックじゃないですねぇ(笑)。
B そうなんです、私自身も残念でした(笑)。
C 私は一番気に入っている服です。一番映えるやつ。一番テンションが上がるやつ。
石川 何色ですか?
C ピンクです。
一同 あはは!
石川 それ、いつ着るんですか(笑)? 火事の現場から出てきた女性がピンクの服を着ていたら、「何があったんだ?」と思いますよ(笑)。
C その後のことを考えたんです。だって、助けを呼ばなきゃいけないじゃないですか。だからみすぼらしい恰好じゃ出られないなって。人って、とりあえずたたずまいで判断をするので、助けを求めるにしても大事じゃないかなって。携帯電話をなくしても、連絡先はパソコンやクラウドが覚えていてくれるので、「私にしかできないこと」ということで、一番気に入っているピンクの服にしました。
石川 いろいろな考えの方がいらっしゃいますね。Dさんはどうでしょう?
D 子どもがいるので、子どもが逃げた前提ですが……私もやっぱりサイフかなぁって思いました。外に出て、たとえば喉が渇いたとき、お金があれば水を買えるし、ホテルに泊まることもできますから。現金を持っていた方が、融通が利くかなっていう判断です。
石川 逃げた直後のことを考えているんですね。Eさんはいかがですか?
E 私は手帳です。一瞬スマホかなって思ったのですが、私はスケジュールを手帳に書いていて、これをなくしちゃうとバックアップがないなと。
石川 なるほど。モノより、私が生きた証が大事だと。では次に、Fさんどうぞ。
F 僕は自転車です。家が焼けて真っ黒になったとして、一番ショックを受けるのは何だろうと考えて、思い浮かんだのが自転車でした。スマホやお金は何とかなるかなと。
石川 実際火事になったら、誰かがお金を貸してくれたりするものなんですかね。昔は、「どこかで家事があったらしいぞ」となったら、遠くの村々からお金を送るという、マイクロファイナンス制度があったみたいですが。
みなさんどうですか? たとえば隣の人が家事になっちゃって、ピンクの服を着た人が来て(笑)、「当座のお金がないんです」と言われたら、いくらくらい渡しますか?
(約5分後)……1万円という意見が多いでしょうか。10万円という声も聞こえてきましたね。では引き続き、火事の話題に戻りたいと思います。Gさん、お願いします。
G 現実的には、誰かと連絡取り合わないといけないのでスマホなのかもしれませんが、ちょっとロマンチックに振るなら、英英辞書があれば、僕はどこででも生きていけます。
石川 辞書ですか!?
G 具体的に言うと、『Oxford Advanced Learner’s Dictionary 』というヤツです。
石川 すみません、辞書ってどうやって楽しむんですか?
G 何か単語を調べた後に、その中でわからないことを調べ続けるんです。知っている単語の中にも、知らない説明が入っているので……。そうするとエンドレスになり、疲れたところで閉じる、という感じです。たまに、電車の中でもやっています。
石川 気持ちはまったくわからないですけど(笑)、電車で辞書を読んでいるのはカッコイイですね! ではお次の方。
H 私は「二度と手に入らないモノ」という観点で考えました。絵をコレクションしているのですが、そのウチの1点を持ち出したいなと思います。昔、某製紙会社の名誉会長がゴッホとルノワールの絵を買って、「自分が死んだら絵を棺桶に入れて一緒に燃やしてくれ」と言いましたが、私は、逆に持って出たいなと。
石川 辞書の次は絵でしたか。人それぞれのいろいろな趣味が次々と明らかになって、おもしろいですねぇ。ではIさん、お願いします。
高校時代の予備校のテキストが捨てられない
I 私は、自分が持って出たいものが何もなかったんです。それで、みなさんに聞いてみたいなと思ったんです。
石川 そうか、Iさんが元々の質問を考えてくださったんですね。持って出たいモノ、なかったんですか?
I はい。最初に思い浮かんだのはメガネなんです。見えないと困るので……。でもそれじゃおもしろくないので、みなさんに聞いてみたいなと。
石川 普段から、あまりモノを大事にしないんですか?
I 大事にしないわけじゃなく(笑)、執着心がないのだと思います。最近、引っ越しをしようと思って家を整理しているのですが、モノを整理する基準として、「火事だったら持って出るモノ」は大事だから残す、「そうじゃないモノ」は捨てる、みたいな感じで整理をしていこうと思ったのですが、結局何が必要なのかわからなくなってしまって(笑)。
石川 この前、クリーニングに出して1年以上カバーがかかったままの奧さんの服を、勝手に捨てたんです。
一同 ええっー!
石川 使わないだろうと思って。そうしたらバレて(笑)。ちゃんと見てるんだって。結局、「また買って」ということになりました(苦笑)。僕はとにかく捨てる人で、奧さんはとにかく捨てられない人なんです。子どもが作った絵や工作も全部取っていて、僕はそれをこっそり捨てているんです。すみません、話が逸れました。Jさん、お願いします。
J 僕は、母子手帳です。
石川 自分のですか?
J 自分のです。自分が生まれたときの両親の年齢が書いてあって、生まれたときの状況が書いてあって、そこから毎日、体重と身長と胸囲が書いてあって……。これをどういう気持ちで親は見ていたんだろうかと。自分の命のスタートがここにあったんだなって確認できると、どんな境遇にあっても、何を失っても、命が続く限りはやっていけるんじゃないかなって。
石川 ロマンとはこのことですねぇ。ご自身の原点を大事にされるという。考え方はいろいろあるんだなぁ。では、そのお隣の方は……。
K 実は私も母子手帳なんです。
一同 えーっ!
K 昨年ひとり暮らしをはじめて、母がなんやかんやと準備を手伝ってくれたのですが、最後に「これも持っていきなさい」と渡されたのが、母子手帳とへその緒だったんです。しばらく経ってから、ふとそのことを思い出して見てみたのですが、ちょっと泣いちゃって……。そんなこともあって、母子手帳だなって思いました。
石川 ロマンチックな話になりかけているところで恐縮ですが、この話題の最後に、僕の話をしてもいいですか? 僕にも「これだけは捨てずにずっと持っているモノ」があって、それは何かというと、高1のときに受けた河合塾の現代文(国語)のテキストなんです。
大川邦夫先生という名物の先生がいて、授業自体は「東大実践」みたいな受験生向けのものだったのですが、「そろそろ退任される」という噂があり、受けにいかなきゃということで高1の夏に受けにいったんです。結果として、その授業は僕の人生を変える出会いとなりました。
みなさん、東大の国語の入試問題って見たことありますか? 国語は4問あり、そのうちの第2問が通称「200字作文」というもので、あるテーマについて200字で論述する問題なのですが、たとえば僕が受けた1999年の問題は「青春とは何か」でした。
東大ってそういう問題を出すんです。「エリートとは何か」とか「かわいそうとは何か」とか。ただし求められているのは、「単なる感想」ではありません。この「200字作文」をどう攻めるのかという話をしてくれたのが、大川先生でした。2時間の授業のうち、90分くらいは先生が好きな中島みゆきの話をしていて、その影響で僕も中島みゆきが好きになるんですけどね(笑)。
とにかく、そのテキストをずっと持っているんです。僕は今でもよく「○○とは何か」ということを考えるのですが、ルーツはそこにあるんです。だから引っ越ししたときも、留学したときも、なぜかそれを持っていったんです。もし自宅が火事になったとしたら、このテキストを持っていきたいと思います。さてと。次のお題にいきましょうか!
(この後、「愛とは何か」「ちょっと前に話題になったアレについて」、さらには「恥ずかしい話」など、メンバーをシャッフルしつつ”雑談”が続き、あっという間に所定の時間が過ぎていった)
友だちの象徴はキャンプファイヤー!?
石川 本当に雑談だけして時が過ぎていきましたが、大丈夫でしょうか。みなさん、楽しいですか(笑)? でもこういうことから始めないと、友だちってできない気がするんですよね。
僕は、気がつくと似たような友だちが多くなるので、「そうじゃない友だち」が欲しいなって思うんです。でもふと考えると、「友だちのなり方」って意外と忘れちゃっているなって。「久しぶりの恋だと、手のつなぎ方がわからない」みたいなことに近いのかなって。で、僕の勝手な感触では、みなさんと友だちになれそうだなと思っているので、さて、次はどうするってことを考えたとき、実はちょっとやりたいと思っていることがあるんです。
みなさんと一緒に、キャンプファイヤーをやりたいです!
一同 おお〜(拍手)!
石川 実は最近、「音」を収集していて、今度焚火の音を収録するんです。だったらついでにキャンプファイヤーをやってしまえと。雑談の次はキャンプファイヤーって、展開が早すぎるかもしれませんが(笑)、何卒お付き合いいただけないでしょうか。それに加えるなら、友だちってどういうときが「本当の友だち」なんだと考えてみると、「お互いの実家を行き来する仲」みたいなこともあるのかなって。だから本当は、みなさんの実家にも行きたいです。
という具合にいろいろ実験してみたいので、引き続きフォーマットを変えつつ、この雑談会を続けていきたいと思います。起承転結でいうと、今回が起で、次回以降、承、転と続き、結はキャンプファイヤーですね。みなさん、引き続きよろしくお願いいたします!
石川善樹|Yoshiki Ishikawa1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。近著に『仕事はうかつに始めるな』(プレジデント)『ノーリバウンド・ダイエット』(法研社)など。
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