MAKING OF THE HUGE STAMPS

JR東海「そうだ 京都、行こう。」プロジェクトの「巨大御朱印」はTechShop Tokyoで生まれた

57cm四方の巨大なはんこをつくらないといけない。しかも、制作に遅れは許されない。そんな状況に陥ったら、TechShop Tokyoの門を叩いてみてはどうだろう? JR東海の「そうだ 京都、行こう。」プロジェクトの一貫として、2018年9月1日から京都市内の5つの寺院で展示されている苔を用いたアート作品「モシュ印」。そのゴム印部分を3日間でDIYした株式会社アマネクの月岡信哉にTechShop Tokyoでの「ものづくり」について聞いた。

TEXT BY Shinya Yashiro
PHOTO BY Kouichi Tanoue

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1/5「巨大御朱印」の素材となった厚手のゴムは、TechShop Tokyoのレーザーカッターで切り抜かれた。
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2/5今回のカッティングに用いられた、印影のデータ。京都の寺院の「御朱印」をスキャンしたもの。
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3/5印影の周りを切り抜かれたゴム。分厚いゴムを切り抜くためのパラメーター調整が、今回の制作の最大の難所だったという。
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4/5レーザーカッターのパラメータを試行錯誤した様子。当初、レーザーでゴムを彫る方法で凹凸をつくろうとしたが、この方法では、時間がかかりすぎることが判明した。
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5/5今回の制作で使われたレーザーカッター。57cm四方のハンコをつくるには、この巨大な装置が不可欠だったという。

「『モスグラフィティをお寺でやってみたい』という、会議での無邪気な発言がきっかけでした。『そうだ 京都、行こう。』というプロジェクトに関わるなかで、海外でブームになっている苔で描くアート・モスグラフィティの企画が通ったんです。ただ、苔はいつ生えるか分からないので難しいということで、結果として苔の御朱印『モシュ印』の制作が決まりました」

株式会社アマネクで代表を務める月岡信哉は、自身がTechShop Tokyoで57cm四方の巨大なはんこをつくることになった経緯を、こう語る。『そうだ 京都、行こう。』にデジタルコンサルティングとして参画している同社の本業は、アナログの「ものづくり」ではない。もともと、自分たちではんこをつくるつもりは全くなかったという。

「苔に詳しい大阪府千早赤阪村の造園家と『モシュ印』づくりに取り組んだのですが、制作スケジュール上、文字の部分の制作に専念してもらうことになりました。結果、はんこの部分は自分たちで引き受けるという判断に至ったんです。ただ、社員がサイズを試算したところ、一辺の長さが50cmを超えることになった。そんなもの普通の印鑑屋さんだとつくれませんよね(笑)」

レーザーカッターの操作を行う株式会社アマネクの月岡信哉(左)。同社のデザイナーと全ての「モシュ印」のはんこを、機器の安全研修受講を含め3日で制作した。

まず月岡は、以前自身の会社のエントランスパネルをレーザーカッターで社員がつくっていたことを思い出す。レーザーカッターでハンコをつくれないかと考えたのだ。しかし、以前つかったメイカースペースに備え付けられたマシンのサイズが小さすぎることを知り、ネットで検索。そして、100cm×61cmまでカッティングできるレーザーカッターをもつTechShop Tokyoの門を叩くことになった。

「『巨大なスタンプをつくりたいんです』と、電話で無邪気にご相談したところ、素材からご提案いただきました。勧められたゴムをすぐに発注し、SBU(TechShop Tokyoで工作機器利用前に義務付けられている安全&基本操作研修)を受けて実際の制作に臨みました」

まずレーザーカッターを時間枠の限り予約し、トライ&エラーを繰り返していく。分厚いゴムを切り抜く最初はレーザーの強さの調整がうまくいかず発火し、煙が出てしまったこともあった。慣れない作業のなかで締切を目前にして、泣きそうになったが、常駐するスタッフに何度も助けられたという。

「コンピューターにデータを入れたら全部やってくれるのかな?と思っていましたが、実際にやらないと分からないことが多かったですね。もともと、レーザーでハンコの凹凸を掘ろうと思っていましたが、時間がかかりすぎて間に合わないことがわかったり。結局、TechShop Tokyoのスタッフさんと設定をにらみながら、凹凸をゴムから切り出し、3日間かけて無事完成しました。はじめて文字が切り出せた瞬間は、本当に感動がありましたね」

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1/4完成し、インクを塗られたはんこたち。提供:東海旅客鉄道株式会社
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2/4インクが塗られる様子を見ると、その巨大さが分かる。提供:東海旅客鉄道株式会社
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3/4複数のはんこをパネルに押していく造園家の杉田悦朗。提供:東海旅客鉄道株式会社
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4/4苔の最終調整は、はさみを使い丹念に仕上げる。提供:東海旅客鉄道株式会社

TechShop Tokyoを機材を貸してくれるスペースだと思っていたという月岡が驚いたのは、スタッフが一丸となってサポートしてくれたことだ。もともとプライベートでは電気スタンドをつくったり、DIYには興味があった。ただ、技術がないのでTechShop Tokyoが持つプロユースの機材は扱えないと考えていた。技術的なアドバイスだけではなく、受付のスタッフがキャンセルで空いた機材の存在を教えてくれるなど、自分たちの「やりたいこと」をコンサルティングしてもらっているような感覚があったという。

「初日に難航したときはどうなるかと思いましたが、結果的にはクオリティの高いものが速くできました。コンピューターに入力するデータさえつくれれば、思っていたより全然気軽にものづくりができると思います。今後は仕事でもプライベートでも、利用してみたいと思います」

月岡がはじめてTechShop Tokyoでつくったのは「巨大なはんこ」だった。特別な話に思えるかもしれないが、そんなことはない。もしあなたが郵便受けでも机でも「何かをつくりたい」と思ったなら、TechShop Tokyoは変わらず、その背中を優しく押してくれる。そして、完成まで伴走してくれるだろう。

2018年初秋 モシュ印・コケ寺リウムキャンペーン|そうだ 京都、行こう。
京都の建仁寺に設置された「モシュ印」。その左側にあるのは、ガラスの容器のなかに苔で再現された庭園とジオラマの寺院が置かれた「コケ寺リウム」。JR東海の「そうだ 京都、行こう。」プロジェクトの一環として2018年9月1日(土)から、11月30日(金)まで市内の5つの寺院(三千院・圓光寺・建仁寺・東福寺・常寂光寺)で展示される。京都の苔名所がまとめられたガイドブックが特典の旅行プランの販売や、寺院をめぐると特典がもらえる初秋の京都 モシュ印・コケ寺リウムInstagramキャンペーンも実施中。提供:東海旅客鉄道株式会社