アークヒルズを拠点とする会員制オープンアクセス型DIY工房TechShop Tokyo。その運営企業TechShop Japanの代表取締役社長・有坂庄一がホスト役を務める、異業種対談シリーズの第2回。今回のお相手は、Make Schoolのジャパンカントリーマネージャー・野村美紀。「テクノロジーと学び」の掛け合わせから生まれる、これからの社会に必要なクリエイティビティとは?
TEXT BY MASAYUKI SAWADA
PHOTO BY KOUTAROU WASHIZAKI
「表現できる人」を増やしたい
有坂 野村さんとは昨年、TechShopTokyoがオープンするかしないかのときに初めてお会いしたんですよね。
野村 はい。そのときはまだaircordというテクノロジー系の制作会社にいたときで、Make Schoolにジョインしてから再びお会いする機会があり、それからいろいろなプロジェクトをご一緒させていただいています。
有坂 Make Schoolとウチは親和性がとても高いと思ったので、まずはスプリングセミナーを一緒にやることになり、その後、教育系のワークショップをいろいろとやっていくことになりました。現在は「STEAM Weekenders」という子ども向けSTEAM教育のワークショップを一緒にやらせていただいています。
改めてお伺いしますが、野村さんがMake Schoolの運営に加わられたきっかけは何だったのですか?
野村 「表現できる人」を増やしたかったんです。Make Schoolはそれが実現できる場所だと思って参加しました。初めて有坂さんにお会いしたときも、何か表現できる場所を増やしたいなと思っていて……。実はTechShopで働きたくて(サンフランシスコの)本社にメールをしたこともあるんですよ。
有坂 そうだったんですか!
野村 でも、連絡がなくてダメだったかなと思っていたら、ちょうどMake Schoolのファウンダーが来日していると聞いて、ある人の紹介で会うことになったんです。会ったのは30分ぐらいでしたけど、お互いのバックグラウンドを話しているうちに何となく意気投合して、アメリカにいつ帰るのかと聞いたら、明日の夕方の便だと言うから、じゃあ、明日の朝ごはんのときにまた会おうとなって。そこでMake Schoolを日本でもっと広げていきたいという話をして、その役割を担うべく、3カ月後にジョインしたんです。
有坂 その突破力と行動力がすごい。気持ちだけではなく、ちゃんと効果的に行動していますよね。昔からそういうタイプだったんですか?
野村 いや、どちらかというと優等生タイプで、わかりやすい一本道をずっと進んできました。だから、就活のときもコンサルなどを受けて内定をもらったんですけど、これでいいのかなという違和感はあったんです。その後UCバークレーに留学に行くチャンスがあり、しばらく米国に滞在したのですが、向こうでできた仲間たちはみんな、何かしらミッションを持って表現している人たちばかりだったんです。それで、自分も表現できる人になりたいと思うようになりました。
有坂 自分のやりたいことを早い段階ではっきりと見つけられたのはよかったですよね。
野村 外資のコンサルに決まっていたので、キャリア的なことを考えると正直今のほうがリスクはあると思います。ただ、やりたいという意志を曲げてしまうことのほうが私はリスクだなと思ったんです。別にコンサルが悪いと言っているわけではなくて、パッションなく生きていくことのほうが絶対によくないだろうなって。
有坂 その考え方は素晴らしいと思います。僕なんてわりとずっと悶々としていた口で、場づくりが重要なんだと気が付いたのは、実はこの仕事になってからだったりします。もちろん、それまでの時間がムダだったとは思わないけれど、早く気付けるのはひとつの能力ですよね。
野村 仕事としてやっていく以上はパッションだけではダメで、形にしていかないといけないのですが、その前提としてパッションがないと、助けてくれる人も一緒にやってくれる人もいなくなると思うんです。公に発信していなくても、自分の中にやりたいことが明確にあればそれを感じ取ってくれる人たちというのは必ずいて、お互い引き寄せ合うのかなという気がしています。
有坂 その通りだと思います。実際、ものごとが進むのも早くて、野村さんとMake Schoolの話をしたときも、あっという間に決まった気がします。
野村 早かったですね(笑)。
有坂 ウチにはまだ教育コンテンツが少なくて、キャッチーなコンテンツが欲しいなと思っていたときだったので、ちょうどマッチしたということもありますが、Make Schoolの「クリエイティビティを重視する姿勢」はエッジが効いているなと感じ、とても心に刺さりました。
東京は、ハードウェアスタートアップに適している?
野村 最近、日本でブラッシュアップされたMake Schoolのプログラムを、海外へ逆輸入して応用できたらいいなと考えているんです。Make Schoolって、よくも悪くもすごくフリーなんです。「お前は日本の担当だから日本のことだけ考えろ」というやり方ではないというか。Make School は、世界中でコミュニティを形成したいというミッションを持っています。プロダクト志向と呼んでいるのですが、とにかく、プロダクトをつくれる人たちを世界中に増やしたい。
いまの時代、シリコンバレーが絶対というわけではありません。技術オリエンテッドなのではなく、コンテンツを考える人たちも必要になってきていると思うんです。例えば、「この場所ではこういう課題があって、それを解決するためのアイデアがこれで、そのために必要な技術はこれだ」というように、技術先行ではなく、アイデアと技術をうまく結びつけられる人が重要になってくるはずで、そのためにもローカルに根ざしつつ、グローバルに情報をキャッチアップできる人が大切だと考えています。
有坂 たしかにハードウェアスタートアップに関していえば、「シリコンバレーじゃなくてもいいのでは?」と、シリコンバレーの人も言っています。人件費が高いし、家賃も高いし、あと街がコンパクトではないので、渋滞にはまると、サンノゼからサンフランシスコに移動するのに下手したら2時間以上かかったりしますからね。
そう考えると、東京ってわりとコンパクトですし、公共交通機関が発達しているからだいたい30分でどこへでも行ける。町工場もあって、企業も集積しているから、実はハードウェアスタートアップの場所として、東京はありなのではないかという話もあります。
TechShop Tokyoのオープニングのとき、森ビルの副社長の北林幹生さんが「このエリアを日本のサンド・ヒル・ロードにする」と仰っていて、確かに、そういう野望というか視点を持つのもありだと思っています。世界から一流のエンジニアが集まってきたらハッピーだし、世のため人のためになるので、僕自身はまじめにそこを目指したいなと思っているんです。
野村 ぜひ目指しましょう! そのためにはマインドセットが大事だと思います。実際、プログラミングのスキルは高いけれど、それを使ってどうしたいというアイデアがない人が、多いと思うんです。ですので、Make Schoolはただのプログラミングスクールではなくて、「誰かのために作ることを考えましょう」ということを教えています。
有坂 そのフィロソフィはウチも一緒です。ただ単に匠になるのではなく、その技術を使ってどんなアイデアを考え、形にするかがこれからの社会に求められるクリエイティビティだと思います。「STEAM Weekenders」というワークショップも、STEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マス〈数学〉)ではなく、STEAMという表記になっていますけど、これはアート(ART)のAが入っているからで、その部分にこそMake Schoolの考えるSTEM教育の本質があるんですよね。
野村 はい。ものごとを捉える感性を養いましょうということです。「何でこれはこうなの?」と考えることが重要で、たとえばライゾマティクスの齋藤精一さんが「日常生活の見方を変えるとアイデアが出てくる」と仰っていたのですが、そうした感性やアンテナがないと、アイデアは生まれてこないと思うんです。
大人のためのナイトスクールが始まる!?
有坂 STEMというと、理系の学習塾みたいな捉え方をされる人が多いのかもしれませんが、実はそうではなく、社会に出るということはコミュニケーション力も大事で、そこには時事問題だったり、そこから遡って歴史だったり文化を知ることも必要になってくるわけですよね。よく文系と理系に分けて考えがちですが、より深く学ぶのがどっちかというだけで、一方を選んだらあとは捨てていいという話ではないと思うんです。
野村 決めつける必要はないですよね。ですから、Make Schoolの生徒にはいろいろな人がいますし、いろいろな人に来て欲しいと思っています。ウチの場合、グローバル人材を意識して、日本でも英語を使用したプログラムを行っているので、「海外の人とコミュニケーションを取っていつかグローバルで働きたい」という人もいたりします。そういう人は絶対にプログラミングなんて好きじゃないでしょうみたいな感じですが(笑)、きっかけはそれでもいいと思うんです。むしろそうあるべきで、プログラミングだってひとつのツールであって、そこから人生が広がっていくのであれば大歓迎です。
有坂 冗談半分でたまに考えるのが、例えば高校の部活動とかで、野球部を支援するテクノロジー集団みたいな部活があったら面白いだろうなということなんです。バットにセンサーを入れたりして、科学的にトレーニングしていくんです。彼らが一緒になって甲子園を目指すみたいな学校が出てこないかなって。
野村 甲子園までいかなくても、学祭はいいチャンスだと思うんですよね。コラボして学祭で発表するとか。
有坂 いいですね、学祭!
野村 子どものときから外部の眼、つまり見られているという意識を持ったほうがいいと思うんです。というのも、日本の場合、コミュニティの中で自分が何者かみたいな意識が足りない気がして、それってプレゼンテーション能力の低さにも関係しているような気がするんです。なので、外に向かって発信することに慣れる意味でも、年に1回の学祭でコラボして、何か発表するというのは面白いのではないかと思います。
有坂 プレゼンテーションやマーケティングの勉強にもなるし。
野村 間違いなくなると思います。
有坂 これは子どもだけに限った話ではなく、大人にとっても重要だと思います。やっぱり学びっていくつになっても大切じゃないですか。いまは中高生向けの講座を一緒にやっていますが、今後は、大人向けの講座にも挑戦してみたいですね。
野村 本当ですか。私もぜひやりたいです。
有坂 大人が変わらないと子どもが変わってこないし、何をしていいか分からなくて悶々としている大人って実は多くて、その人たちに向けてスクールを始めたいなと思っています。ナイトスクールとか、どうでしょう?
野村 いいですね。ナイトスクール、やりましょう。
有坂 20代〜30代あたりで、熱い気持ちはあるけれど、それが空回りして悶々としている人っていっぱいいるはずです。そういう人たちの感性を刺激することができれば、日本はもっともっとイノベーティブになるのではないかと。
野村 日本には新卒採用というユニークな概念があって、会社に入ってから自分のキャリアを見つけていくという人が多いので、やりたかったことに気付くのが意外と遅い。そういう人たちに向けたスクールがすごく有効だと思いますね。
有坂 僕だって、こんなふうに考えるようになったのはTechShopに来てからだから、40代ですよ。だいぶ遅いですよね(笑)。
野村 遅くないですよ。40代でも見つかることが素晴らしいと思います。
野村美紀|Miki NomuraMake Schoolジャパンカントリーマネージャー。東京大学在学中、Origamiをはじめとしたスタートアップでの経験やUCバークレーへの留学が契機となり、自らコーディングを学び、卒業後はクリエイティブチームaircordに参加。ソフトウェア開発などを担当。2017年より、サンフランシスコでプログラミングスクールを運営するMake Schoolに参加。
有坂庄一|Shoichi ArisakaTechShop Japan 代表取締役社長。1998年富士通に入社。長らくマーケティング部門に在籍し、2015年10月より現職。サンフランシスコにて本場TechShopのノウハウを学ぶ。
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