初夏は、和食を華やかに彩る旬食材が豊富に揃います。中でも、海鮮、野菜の美味しさをダイレクトに伝える天ぷらは必食の時季です。ランチにディナーに——その真価をぜひ体感してみてください。
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❶ 熟練職人が編み出した究極の”薄衣”で、旨味をフワリと封じ込める——天蒼々
「伏見の甘長唐辛子」。細長く、香りが豊か。初夏の爽やかさと、柔らかな苦味が口中に広がる。
「賀茂茄子」は、すでに露地ものが出始めている。茄子の皮は剥き、しっかりと火入れすることで、茄子の水分を内側に封じ込め、外側は香ばしく、中身はジューシーに仕上げている。油の重さとは無縁の仕上がり!
高温の油で火入れすると、身がふっくらと膨らむのが「鱧」の特徴。ゆえに、骨が口にまったく当たらず、湯引きよりも食しやすい。
やはり鱧の骨切りは丁寧に。正確な刃さばきで、手早く下ごしらえ。
「食材により、油の温度を変えます」と、佐藤料理長。唐辛子は高温でサッと火を通し、風味を存分に残す。
少人数なら、是非カウンターで。鍋の中で食材が揚がる音、揚げ立ての香りを、存分に楽しみたい。
揚げ立てのアツアツを頬張り、そっと噛む。すると、まるで風船が破裂した時のように旨味がジュワッと吹き出してくる。その旨味とは、食材の持つ水分。新鮮な夏野菜は保水力が十分にあり、その水分が衣と油でコーティングされ、旨味が残るのだ。
そうした食材のポテンシャルを余さず提供するのが、『天蒼々』の料理長、佐藤氏の技だ。この店では衣に卵を使用せず、薄力粉と軟水を軽く合わせて、1割から2割、ダマができる程度の軽やかな衣を基本とする。もちろん、天ぷらの衣としては破格の薄さである。ただし衣が薄くても、食材の旨味が口の中でパンっと弾ける、極上の体験を堪能できる。これが、魚介だと、ふんわり・ふっくらとなるから不思議。鱧は骨がまったく当たらず、ふかふかの身はまるで干したばかりの羽布団のよう。
そして、『天蒼々』では、揚げ油にもひと工夫。綿実油をベースに、火入れをしていない太白ごま油を1〜2割程度。そして、風味付けに炒った胡麻を合わせ、サラリとした油で夏食材をもてなすのだ。ただし、じっくりと火入れしたい賀茂茄子などは低温で時間をかけて。逆に唐辛子は、高温で旨味を一瞬にして閉じ込める技が披露される。
食材を鍋に入れたときのサーッという音もまた、食欲をそそるBGMとなる。ここはカウンターに陣取り、香りと音を交えながら、旬食材を五感で堪能することをお薦めする。今回紹介した「賀茂茄子」「伏見の甘長唐辛子」「鱧」は全てコース料理に含まれている。ほかに夏季の旬食材として「トウモロコシ」「谷中生姜」も例年人気を集めている。
天蒼々住所=東京都港区六本木6−10−1 六本木ヒルズ ウェストウォーク5F 電話=03-3478-5525 営業時間=11:00〜15:00(L.O.14:00)/17:00〜23:00(L.O.21:00) 定休日=無休 ※おまかせ天ぷらのコース¥16,500〜 ※QRコード決済、交通系IC、各種クレジットカード利用可
TEXT BY TAKASHI TSUCHIDA
PHOTO BY HIDEHIRO YAMADA
❷ 名料理人のレシピを受け継ぐ、“天ぷらめし”専門店——日本橋 天ぷらめし 金子半之助 アークヒルズ店
「穴子の天ぷらめしと味噌椀」¥1,750 。「天ぷらめし」とは天ぷら定食のこと。旬の穴子が1本、えび、いかのかき揚げ、茄子、舞茸、ししとう、卵の天ぷら7品、ご飯、あさりの味噌汁が付いてこの値段! 量もボリュームも美味しさも大満足。
具材は豊洲市場から仕入れた江戸前の魚介、新鮮な野菜などバリエーション豊か。堂々とした一本穴子のほか、海老は加水処理していないため、素材本来の美味しさが味わえる。お好みのネタは単品で追加オーダーできる点も嬉しいところ。
天ぷらめし専門店の目的のひとつ、ご飯を美味しく食べていただきたいため“ご飯のお伴”も充実。左から、毎日店で仕込んでいる「いか柚子」「しゃけ明太」「いぶりたくあん」はお好きなだけ。右は唐辛子と山椒をブレンドしたオリジナル調味料「醍醐味」。
2回に分けて提供されるので、出来たてのアツアツ、フワフワが食べられる。2回目に出されるのは、なす、一本穴子、名物の卵の天ぷら。
グルテンの少ない粉を冷水で溶いたものに具材をくぐらせ、キャノーラ油とごま油を独自配合した高温の油で揚げる。衣は、中の具材が透けて見えるような薄衣。食べ疲れせず、具材の味わいが感じられる、品のある天ぷらになる。
浅草生まれの料理人、金子半之助の名が冠されたこちらは、半之助の孫である真也氏がその遺志を引き継ぎ、タレといった半之助直伝のレシピなどを用いたメニューで人気の『日本橋 天丼 金子半之助』が手掛けた「天ぷらめし」専門店。「天ぷらめし」とは「天ぷら定食」のこと。店内は清潔感漂う、シンプルかつモダンなカギ形のキッチンカウンターが印象的。料理人が作る様子を見ながら、揚げたての本格的な天ぷらを気軽にカウンターで楽しめるスタイルは、江戸時代、屋台料理だった天ぷらが、現代のスタイルになって蘇ったような感すらする。
こだわりは、なんといっても江戸前にこだわる「天ぷらめし」専門店ということ。基本「天丼」は、メニューにない。あくまでも“天ぷら”と“ごはん”をそれぞれ美味しく食べていただくことに注力しているのだ。そのため系列の天丼専門店とは揚げ方も揚げ油も天つゆも違う。粘りけが出ないようにグルテンの少ない粉を用い、揚げ油は、キャノーラ油を主体に香り付け程度の少なめのごま油でほのかな風味を漂わせるような独自配合にしている。これはごま油が多いと、重く食べ疲れがしやすいため、ごはんとの調和を考え、軽やかに食べられる工夫だ。つゆは濃いめの色だが甘みは少ない。揚げ方は天丼のような花が咲いたように“花衣”にするのではなく、素材の持ち味を生かした“薄衣”にこだわっている。
今回紹介するのは、店でも人気が高い「穴子の天ぷらめしと味噌椀」¥1,750。豊洲市場から仕入れる旬の一本穴子を主役に、海老や野菜、そして『金子半之助』の名を知らしめた卵の天ぷらと、全7品の彩りも豊かなボリューム満点のメニュー。すっきりとした味わいが愛しくもスタミナが欲しいこの時季、いつもの「天丼」とはまた違う、素材の旨味が感じられると天ぷらと美味しいごはんをいただく、「天ぷらめし」を是非堪能してみては。
日本橋 天ぷらめし 金子半之助住所=東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル3F 電話=03-6277-6649 営業時間=平日 11:00〜21:00(L.O20:30)、土日祝 11:00〜15:00(L.O.14:30) 定休日=アーク森ビル休館日に準ずる ※交通系IC利用可
TEXT BY AKIRA TANAKA
PHOTO BY DAISAKU NISHIMIYA(NDPP.)
※2023年6月現在の情報となります。
※表示価格は全て税込価格です。
#天ぷら
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