“シェフズテーブル”の優越感をご存じだろうか。少人数で著名なシェフを独占できる贅沢極まる時間。今回はその中でも異彩を放つ、虎ノ門ヒルズ『unis』、南青山『atelier sanmi』が供す驚きのコースをご紹介。日本でもここにしかない、シェフの個性を凝縮した贅沢なひと時に心酔したい!
TEXT BY TAKASHI TSUCHIDA
EDIT BY TM EVOLUTION.INC
❶ unis ——設え、演出、料理そのもの。どれをとっても特別に満ちて
“ハレの日“のためのシェフズテーブル”として、『unis』は2020年12月にオープン。虎ノ門ヒルズのテナントでありながら、まるで“隠れ家”のように通常の入り口とはまったく異なるアプローチを進むのが、ガーデンヒルズ1階に位置するこの店の特徴だ。したがって『unis』に向かい始めた時から、特別な時間の演出はスタートする。
店舗総面積、なんと90坪! そのうちの35坪を週4日営業のシェフズテーブル『unis』が独占する。玄関を通り抜け、まず通されるのがシックな設えのウェイティングエリアだ。ここで今宵の8名全員が揃うまでのひと時をウェルカムドリンク片手に楽しみつつ、時が満ちたところでシェフズテーブルへの扉が開かれる。
この贅沢な空間設計、導線演出が実現する背景には、残り65坪を使って運営されているソーシャルキッチンの存在が大きい。こちらでは「GODIVA」、「DEAN & DELUCA」といった有名企業と共に、そのコンサルワークスペースとしてスタッフがフル稼働。商品開発や各種イベント企画による安定収益をソーシャルキッチンが確保する中で、コロナ禍での超プレミアムなシェフズテーブルが成り立っている。
『unis』のメインルームは、さらながら“ステージ”。このキッチンを取り囲むように、半円状に席が並び、左右には映像を駆使したビジュアル演出が備わっている。照明演出も含め、全ては『unis』プロデューサー兼シェフ、薬師神 陸さんの手中にある。料理説明を含むシェフとの直接会話を挟みながら、コースはライブステージのように進んでいく。
『unis』のコースはデセールも含めて、およそ12品想定。めくるめくお皿が次々に入れ替わる、濃密な2時間30分であることは間違いないが、薬師神 陸さんの料理は、“日本人のためのフレンチ”である。「あっさりとした和食を、きれいに盛っている」と、ご本人が説明するように、バターの使用を極力抑えて、食後が重たすぎないのが特徴だ。
薬師神シェフは、もともと辻調理師専門学校にて生徒を指導してきた経歴を持つ。その後にロブションの愛弟子・かの須賀洋介氏と共に東京・神谷町のイノベーティブフレンチ『SUGALABO inc』を立ち上げ、約5年間、須賀氏と共に日本全国の生産者を巡ってその繋がりを深めてきた。したがって薬師神さんのレシピ発想は、食材からの逆算である。
「この特別なきのこは、どう料理したら映えるのか。この特別な豆の味を引き立たせるにはどうするのがいいのか。フレンチの技法ではバターが調味料として立ちすぎですが、生産者の顔を知っているからこそ、その食材の味を消さずに、活かしたいという気持ちが働くのでしょう」
8名シートに対して、ソムリエが2人体制で対応するというのも珍しい。基本となるペアリングを軸に、8名それぞれの好みに柔軟に対応。『unis』では、リクエスト大歓迎なのだ。つまり薬師神さんの料理に沿うことを大前提に、ワイン生産地の違いからノンアルペアリングまで、様々なバイストーリーが、縦横無尽に繰り広げられる。ここは物怖じせず、自分の好みをはっきりと伝えたい。そのためにも、この店は“わがままを許し合える”気心知れた相手と訪れるのが正解である。
❷ atelier sanmi ——品数に圧倒。ワインに圧倒。そして酸味を効かせた味わいのバランスに圧倒
『sanmi』と聞けば、美食家たちはすぐピンと来るはず。かつてはクラウドファンディング飲食店部門日本一の記録を打ち立て、ビッグメゾン「カルティエ」とのコラボレーションも大成功。虎ノ門ヒルズやアークヒルズにも、期間限定のポップアップレストランを開店。様々な形で食プロジェクトを成功に導いてきた集団だからだ。
その『sanmi』が原点回帰。活動の集大成として開店させたのが最上位ブランド『atelier sanmi』だ。席数はわずか6席。非常に限られた客数ではあるが、その代わりに1コースで33品という怒涛の品数を展開。しかもペアリングワインも平均18杯、5大シャトーやブルゴーニュのDRCといったグランヴァンも含まれる、まったくもって“耳を疑う”内容で待ち受けてくれているのだ。ゆえに、この店は体調を万全にして望むのが正解。客側も相当の覚悟で望まないと、『sanmi』最上位の目くるめく世界観を存分に楽しむことができないからだ。
ご存知かもしれないが、『sanmi』とは「酸味」から取られた名前である。旨味・酸味・塩味or甘味の“三味”が三位一体となるのが究極の美食。そのバランスを重視しているのが『sanmi』の一貫した特徴である。こう書くと多少難しく聞こえるが、たとえば和食の代表「寿司」も、酢飯の酸味、ネタの旨味、醤油の塩味で構成されるもの。したがって、我々日本人のDNAの中にも深く刻まれている味の方程式を今一度、基本に立ち返って再構築しようという趣旨だ。
さて、玄関で靴を脱ぎ、映像で照らされたインスタレーションの廊下を抜けると、そこはダークグレーで囲まれた“異空間”。アミューズテーブルがカウンターの裏手に設えられ、コースの始まりはこのテーブルに散りばめられた、およそ13種類のアミューズを、まるで宝探しをするかのように見つけて楽しむという趣向だ。
そして着席。そこから17皿の珠玉が押し寄せる。中でも印象的な料理は、「マグロの藁焼き」だ。発酵ビーツ、万願寺とうがらし、パプリカの3種類のソースは、まるでジャクソン・ボロックの現代アートのような激しさである。フレンチ料理では、マグロは一般的な食材ではないかもしれないが、3つのソースとマグロの脂、添えられた紅生姜、青じそ、エディブルフラワー、さらにはこの料理に合わせた5大シャトーの赤ワインが渾然一体となる様は、まさに『sanmi』の世界。イノベ−ティブ・フレンチらしい爽やかさで、パンチはあるがいつまでも後を引かず、胃の中への収まりがいい。
ちなみに、『atelier sanmi』のグランドオープンは昨年11月3日。コースはおよそ3時間33分の想定。現在は“19時3分”にコースのスタート時刻が設定されている。このように徹底的に“3”という数字にこだわっているのだが、そのこだわりの深さも、『atelier sanmi』の個性を表現するバイストーリーとなっている。
「うちはペアリング数が飛び抜けて多いので、コース前半であまり酔ってないうちにいいワインを味わっていただくほうがユーザビリティが高いのではないか」とは、『sanmi』ファウンダー兼CEOの野口良介氏の弁。なるほど、3皿目のマグロに合わせてグランヴァンの5大シャトーの古酒が登場するのは、そういう理由があってのことだ。ただし、そうは言っても、後半にもブルゴーニュのDRCが提供されるので油断は禁物。気軽とは言えない予算だが、期待を遥かに超える満足感を得られるのは間違いない。
※2022年3月現在の情報となります。
※表示価格は全て税込価格です。
※店舗により臨時休業や営業時間を変更させていただく場合がございます。詳細は「六本木ヒルズの営業状況について」をご確認ください。
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