世界のレストランアワードで常に上位を占めるスペイン料理。中でも、カタルーニャ、バスク地方の料理は高い評価を受け続け、現在その波は、東京のスペイン料理店にも及んでいます。ここでは、郷土の味を忠実に再現する店から、モダンなアプローチで表現する店まで、その魅力を存分に体感できる3軒をご紹介します。
TEXT BY YOSHIKO NAKASHIMA
EDIT BY TM EVOLUTION.INC
❶ 遊び心のある演出で、訪れる者を魅了する珠玉のバスク料理
——ENEKO Tokyo(エネコ東京)
スペイン・バスク地方の街、ビルバオ郊外にある『アスルメンディ』は、エネコ・アチャ・アスルメンディ氏が営む3ツ星レストラン。3ツ星が多いことで知られるバスク地方でも、数々の受賞歴を誇る、今、注目を浴びている若手だ。2017年秋、ロンドンに続く彼の海外2号店が、西麻布に『エネコ東京』としてオープンした。
エネコシェフは、バスクの郷土料理に独自の遊び心を加え、かつ優美なプレゼンテーションによる感性溢れる料理を創造する。東京では本店のテイストそのままに、日本ならではの食材が加わってさらなる進化を遂げた。
「美味しいの先に楽しい時間があること」が大切と考えるエネコシェフは、遊び心いっぱいの演出を繰り広げる。レストランに来店したら通常テーブルに案内されるが、ここではまず屋外をイメージした緑をふんだんに配した部屋に通される。ここで食前酒と一緒にピクニックバスケットに入れられたフィンガフードをいただき、テラスへ移動して2回目のフィンガーフードを。その後、レストランに着席すると、前菜からコースが開始される。贅を凝らした美食と共に、次は何が出てくるのだろうというワクワク感が忘れがたい経験になるだろう。
PHOTO BY TAKUYA SUZUKI
❷ 裏路地に佇む、小さな愛らしいバスク・バル
——Txiki Plaka(ティキ・プラカ)
こちらは、バル文化発祥の地と言われるバスク地方の料理を中心に供する店。シェフの八谷玲美さんは国内のフレンチ、イタリアン、バルなどで15年働いた経験があり、スペインではバスク地方をはじめとして、食べ歩きをしながら料理の研究を重ねた。「バスク料理は、素材を生かした塩の使い方がうまいと思います」と八谷さん。スペインには塩辛い料理もあるが、バスク料理は日本人にとっても優しい味だという。
伝統的な料理に何かひとつアレンジを加えるのが八谷さん流。例えば豚肉の血と脂を合わせた黒いソーセージ「モルシーリャ」にはライスが入り、マイルドな味わいに仕上がっている。
写真の「イワシと野菜のラザニア」や「ヤリイカのバスク風」に使われる魚介は新鮮さが際立つが、これは八谷さんが毎朝豊洲市場に仕入れに行っているため。仕入れ、メニューの考案、調理、サービス、お酒の解説まで、ひとりでこなす多才ぶりを発揮している。バスク地方の微発泡ワイン「チャコリ」と共に、様々なピンチョスや小皿料理を楽しみたい。
PHOTO BY FUMIAKI ISHIWATA(DAISAKU NISHIMIYA OFFICE)
❸ カタルーニャの伝統料理とピンチョスをコースで
——BIKiNi SIS(ビキニ シス)
伝統的なカタルーニャ料理をモダンに進化させた人気店『BIKiNi』の6店舗目が六本木ヒルズにオープン。既存店舗より高級感を備え、日本の旬食材を使ったコース料理と、ソムリエが厳選したワインのペアリングサービスを提供している。
料理を監修しているのは、日本におけるスペイン料理の先駆者的存在、ジョセップ・バラオナ・ビニェス氏。1991年にスペイン料理店の料理長として来日、2001年には小さく切ったパンの上に具材をのせたフィンガーフードであるピンチョスを、専門店として初めて日本に紹介し、注目を浴びた。スペイン政府より文民功労勲章を叙勲しているほか、2008年には天皇家、スペイン王家晩餐会の総プロデュースを行うなど幅広く活躍している。
ビニェス氏は食材の持ち味をシンプルに生かし、美しく先鋭的な盛り付けと共に、味はもちろん食感も大切にしているという。バルスタイルとは異なり、同店では前菜からピンチョスの盛り合わせ、スープ、メイン、デザート、飲み物までのフルコースを落ち着いた空間の中ゆったりといただける。
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