タベアルキストのマッキー牧元さんが東京の新たなグルメスポット、六本木ヒルズ ウェストウォーク5F「プレミアムダイニングフロア」を訪ね、注目のお店のイチオシの一品を紹介します。
TEXT BY Mariko Uramoto
PHOTO BY Kiichi Fukuda
Food Photo by Kiichi Fukuda
パリッ、サクッ、ふんわり。心地よい音と食感が響く天ぷら
マッキー牧元さんが向かったのは天ぷらの店「天蒼々」。名店「てんぷらと和食 山の上」や「てんぷら近藤」などで腕を磨いた、佐藤啓太さんが料理長を務める新店だ。ここでマッキーさんが食したのは、夜のアラカルトメニューから松茸、伊勢海老、アマダイ、天然舞茸など豪華なものからちょっと珍しいものまでバラエティに富むメニューの数々。中でも、もっとも印象的だったのは、「アマダイ」だという。
「水分量が多いアマダイは本来、天ぷらには向いていないんです。でも、ここでは非常に理にかなった調理法で、素材の旨味を引き出していた」
「天蒼々」ではアマダイのうろこをつけたまま焼く、松かさ焼きと似た手法をとる。まずウロコ側を、衣をつけずに高温でカラッと素揚げをし、身の方は塩を振ってほどよく水分を抜き、身に薄く衣をつけて軽く揚げる。すると、パリパリッとした軽快なウロコの歯ごたえ、サクッとした衣、ふんわりとした身の優しい甘味が舌に伝わり、一度に三つの食感が楽しめるのである。素材に向き合い、もっともおいしい食べ方を追求するのが信条で、どの食材も丁寧に下処理をして、的確かつ精妙に火を入れる。そもそも、“おいしい天ぷら”とはなんだろうか。
「カリッとした衣をウリにした店もあるけど、それはあきらかに揚げすぎでしょう。サクッとした軽い食感が理想的。そういう意味で、こちらは全体的に羽衣のような薄い衣をまとっていてよかったですね」
ただし、すべての食材を均一の厚さの衣にするのではなく、自在に変化させる工夫も大切、と続ける。
「天然舞茸のような弾む食感のある食材はあえて長めに揚げて、カリカリとした衣をまとわせる。芝海老のかき揚げは、香りを生かす薄い衣がベストでした。素材によって、衣のつけ方、揚げ方を変えることが大事なんですね。あとは、温度と使い頻度の違う2つの油を用意するのもポイントでしょうか。淡い味わいの食材は、さらりとした新しい油で揚げる。もう一方は熟れて風味がついた油。アナゴのような味の濃いネタはこういう油で揚げるのがいい。天蒼々はそういう細かい仕事が全体に行き届いていました」
マッキー牧元|Mackey Makimoto
タベアルキスト。(株)味の手帖 取締役編集顧問。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで年間600回外食をし、雑誌やテレビ、ラジオなどで料理評論を行う。「味の手帖」「料理王国」ほか連載多数。著書に『超一流のサッポロ一番塩ラーメンの作り方』(ぴあ)など。
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