レストランジャーナリストの犬養裕美子さんが東京の新たなグルメスポット、六本木ヒルズ ウェストウォーク5F「プレミアムダイニングフロア」を訪ね、注目のお店のイチオシの一品を紹介します。
TEXT BY Mariko Uramoto
Food Photo by Kiichi Fukuda
繊細で奥深い。知られざる四川料理の味覚に出会う
2005年に創業して以来、本場で親しまれる四川の味を伝えてきた料理人、井桁良樹さん。麻布十番本店、銀座店に続く、三店舗目が六本木ヒルズに登場した。訪れたのは、飄香(ピャオシャン)の歴史がスタートした時から、井桁さんの料理に常に注目してきた犬養裕美子さんだ。
「彼のように中国本土に渡り、現地で二年半の修行を重ねた日本人シェフはなかなかいません。帰国後、自身の店をオープンして以降も頻繁に現地に向かい、進化する四川料理を学び続けている姿勢にも頭が下がります。本場で愛されている味を忠実に表現できる、数少ない料理人の一人だと思います」
また、井桁シェフの料理を食べると、辛さにはいくつもの種類があるということがわかる、とも。四川料理は一口に「辛い」とまとめられがちだが、その世界は奥深い。痺れる辛さ、スッキリとした辛さ、酸味の効いた辛さ。さまざまな表情がある。
「激辛料理にありがちな口が痛くなるような辛さを強調するのではなく、香る辛さこそが四川料理の真髄。スパイスを巧みに使い、皿の上で香りの華を咲かせて楽しませてくれます」と犬養さん。
今回、六本木店を作るにあたり、井桁シェフは改めて四川省に向かった。そこで源流にあたる伝統料理を守る人々に出会ったという。皇帝料理人に伝わる燻製方法や成都の食堂で生まれた麻辣ソース、家庭で親しまれている魚のタレなど、古き良き川菜キュイジーヌを一から学んできた。
「伝統四川料理をコースで味わう麻布十番本店、現在進行形の四川の味を伝える銀座店。その二店とは違い、知られざる四川の伝統料理を一品ずつ楽しめるのが六本木店。“この一皿が食べたい”という通な人に向けて、アラカルトで選べるのが最大の特徴」
注目は四川の高級宴席料理の一つ、「雪花鶏淖」だ。円を描く大振りの油菜芯が囲むのは、ふわふわの卵白とキャビアをのせたおおいた冠地鶏のすり身。頬張ると、一瞬にして口の中でとけてなくなるほど柔らかな食感。それはまるで雪の花のよう。
「今では現地でも出会えない貴重なる料理。改めて、四川料理の奥深さを感じられます。上品で美しい特注の器にも注目」
犬養裕美子|Yumiko Inukai
レストランジャーナリスト。東京を中心に、世界の食文化やレストラン事情を取材。「VOGUE JAPAN」「DISCOVER JAPAN」などの雑誌やWEBで執筆。独自の視点によるレストラン紹介は幅広い世代に支持されている。農林水産省顕彰制度「料理マスターズ」審査委員。
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