暮らしを豊かにするアイデアを、ヒルズエリアのエキスパートに教えてもらう連載「Tips for Life」。今回は、知ってるようで意外と知らない日本茶の話。新茶の季節に、煎茶の美味しい淹れ方や簡単な抹茶の点て方、お茶のソボクな疑問を、アークヒルズフロントタワーにある明治23年創業の老舗、株式会社野瀬園の野瀬成夫社長に聞いた。
TEXT BY MIHO MATSUDA
PHOTO BY MANAMI TAKAHASHI
美味しい日本茶はペットボトルのお茶にあらず
「まずはこれを飲んでごらんなさい」と野瀬社長が手渡してくれた、煎茶のお椀。爽やかな煎茶の香りと、ふんわりとした甘さが口の中に広がる。
「これが日本茶の本来の味わいです。最近ではペットボトルのお茶も増えましたが、本来のお茶とはまた別物だと考えてください」
淹れてくれたのは、茶葉を贅沢に10g使った濃い煎茶。煎茶特有の苦味はほとんどなく、豊かな甘みと旨味を感じられる。
「日本茶の美味しさはテアニンです。テアニンは低い温度でも抽出できるのですが、渋みのタンニン、苦味のカフェインは温度が高くなると抽出量が増えるので、お湯の温度が70〜80℃で一番バランスのいいお茶の味になります」
淹れ方だけでなく、深い味わいの秘密は茶葉にもある。
「煎茶の作り方は、まず茶園で収穫した新鮮な生葉を蒸し、冷却、揉み、乾燥という工程を経て『荒茶』になります。そこからさらに切断・選別、火入れ(乾燥)、ブレンドという工程を経て店舗で販売される製品になります。野瀬園の茶葉は『特蒸し煎茶』といい、通常の約3倍の時間をかけて、深蒸しよりもさらにじっくり蒸しあげているので、深みのある味わいと香りを楽しんでいただけるんです」
美味しいお茶の決め手は「ブレンド」
会社の会議で出されるようなお茶と、味わい深い香り豊かなお茶。その違いは製造過程にあるのだろうか。それとも茶葉の種類や産地なのか。
「お茶の産地は、静岡、鹿児島、京都(宇治)、福岡(八女)など、それぞれに個性が違いますが、厳密にいうと、畑ごとでも味わいが異なります。日当たりが変われば成長状態が変わるわけですから。そこで、重要になるのはお茶のブレンドです」
野瀬園でも、味と香り、お茶の色合いが最高の状態になるように独自にブレンド。それを茶碗に3gずつ入れ、直接お湯を加えた「拝見茶碗」で、味、色、香りをチェックする。さらに、1杯につき茶葉10gの濃いお茶でも味わいを確かめている。
「お茶は農作物だから天候によって傾向が異なります。茶葉の様子を見ながら、最適の蒸し時間を見極め、お茶の個性を生かしてブレンドする。茶問屋は死ぬまで勉強なんです。日本茶はワインのように何年も熟成させることはありません。新鮮さがお茶の味わいのひとつですので、茶葉は少量ずつ買って短期間で飲みきってください。それも、お茶を楽しむ大切なポイントです」
また、これからの季節は、オフィスでも手軽に楽しめる冷茶もおすすめ。
「特蒸しの茶葉なら、急須に茶葉と水と氷を入れて3分ほどで冷茶になりますので、ぜひお試しください。日本茶は日本の大切な文化です。手軽なお茶もいいですが、ぜひ本当に美味しいお茶を味わってください」
基礎から学ぶ、美味しいお茶の淹れ方
意外と知らない日本茶の基礎知識
❶ 煎茶と紅茶はもとは同じ葉
琥珀色の紅茶と、綺麗な黄金緑色の日本茶は、もともと同じ種類の茶葉から作られている。収穫したての茶葉を新鮮なうちに蒸して酸化酵素の働きを止めたのが緑茶、摘んだ茶葉を揉んで葉に含まれた酸化酵素を活性化し、完全に発酵させたものが紅茶になる。烏龍茶も茶葉は一緒で、半発酵したもの。
❷ 煎茶と玉露との違いは育て方
高級茶として有名な玉露は、上品で豊かな甘みが特長。それは、茶葉を摘採する前に茶園を覆って、日光を遮っているから。旨味成分であるテアニンが増加し、まろやかな旨味のあるお茶になる。カフェインと葉緑素も多く含まれているため、美容にも効果が期待できると言われているとか。
❸ ほうじ茶はカフェインが少ない理由とは?
立春から88日目(八十八夜)の4月〜5月頃に収穫されるものが「新茶」、6月頃に収穫されるのが「二番茶」、7〜8月頃が「三番茶」、9月頃が「四番茶」または「秋冬番茶」と呼ばれている。季節を経るごとに茶葉のカフェイン含有量が減少するので、ほうじ茶には秋頃の茶葉を使うことが多い。さらに炒ることで茶葉のタンニンやカフェインが少なくなり、渋みや苦みが少ない香ばしい味わいになる。美味しいほうじ茶は熱い熱湯で淹れるのがコツ。
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