オフィス街の虎ノ門〜新虎エリアは、明治から続く日本のコーヒー文化が息づく場所だ。昭和の雰囲気が色濃い喫茶店からサードウェーブのカフェや、全国にコーヒーを展開する企業も集まっている。知る人ぞ知るコーヒーの聖地、虎ノ門で、美味しい一杯を飲みながら豊かなコーヒーの歴史を体験しよう。
TEXT BY MIHO MATSUDA
PHOTO BY TOMO ISHIWATARI(THE 3RD CAFE, MATSUYA COFFEE)
虎ノ門で紡がれたコーヒー文化
日本におけるコーヒーのはじまりは明治時代に遡る。明治21年に鄭永慶が、上野に日本初の喫茶店「可否茶館」をオープンしたが3年足らずで閉鎖。その20年後、明治41年より日本からブラジルへの移住が始まり、合計14,886人の日本人が太平洋を横断した。そして、その多くがコーヒー栽培の仕事についた。ブラジル政府は日本の功績を讃えるため、日本の「皇国殖民合資会社」にコーヒー豆を無償で提供。そこで、皇国殖民合資会社の水野龍は日本人に馴染みのないコーヒーを広く紹介するため、横浜に「カフェ・パウリスタ」を創立した。そこに従事していたのが、のちにキーコーヒーの創業者となる柴田文次と、松屋珈琲店を創業した畔柳松太郎であり、両者ともに虎ノ門でコーヒーの会社を立ち上げている。戦後の経済成長とともに虎ノ門周辺には多くの企業が集まり、働く人の憩いの場として数多くの喫茶店がオープンした。そして、現在は次なるコーヒーの潮流が生まれ始めている。豊かなコーヒー文化が育まれた虎ノ門のお店を巡れば、日本のコーヒー文化を体感できるはず。さあ、虎ノ門散歩へでかけよう。
❶ 創業100年! 大正から続く焙煎技術「松屋珈琲店」
皇国殖民合資会社からコーヒーを担当していた畔柳松太郎が、大正7年に創業したコーヒー豆焙煎専門店。虎ノ門ヒルズの近くにある店舗では、コーヒー豆の焙煎・製造、喫茶店やレストランへの卸売り、個人への小売りを行なっている。また、日替わりのホットコーヒー、アイスコーヒー、「富士生クリーム」とオリジナルのミルクを加えた「富士生クリーム入りコーヒー」も販売。日本の喫茶店を100年支えた、確かな焙煎技術を味わおう。
❷ サイフォンコーヒーとジャンボプリン「ヘッケルン」
創業から50年を数える純喫茶「ヘッケルン」。マスターがサイフォンで淹れるコーヒーはまろやかで深いコクのある味わい。コーヒーにぴったりの名物「ジャンボプリン」はファンも多く、遠くアメリカや香港など海外から来店する人もいるほど。店内で蒸し上げるプリンは、優しい卵の香りと手作りのカラメルとの相性が抜群。スプーンを入れるとほどよい弾力があり、舌触りはシルクのようになめらかだ。通常のプリンの2.5倍の大きさだが、女性でもペロリとたべてしまうほどの美味しさ。ちなみに店名は1946年に放映されたアメリカのアニメ『ヘッケルとジャッケル』から。「ヘッケル」+「運」を足した造語だという。
❸ コーヒーで生まれるコミュニティ「THE 3rd CAFÉ by Standard Coffee」
2000年代に入り、生まれたのがサードウェーブのムーブメント。厳選されたシングルオリジンのコーヒー豆を、ていねいハンドドリップで抽出するのが特徴だ。虎ノ門ヒルズの「THE 3rd CAFÉ by Standard Coffee」では、ブラジルのイパネマ農園、エチオピアのタデGG農園、ニカラグアのサンタクララ農園の、厳選された豆を使用。コーヒーにぴったりのペストリーやフードメニューも充実しており、季節ごとのスムージーも展開する(4月は黄桃と蜜柑のスムージー)。店内をギャラリーとしてアート作品を展示したり、DJイベントを行ったりと、コーヒーを中心に人々が集う「サードプレイス」でもある。
❹ 喫茶店の本格的な味わいをカジュアルに「KEY’S CAFÉ –CLASSE-」
コーヒーの製造・販売のほか、海外のコーヒー農場経営なども行う、日本のコーヒーを代表する「キーコーヒー」。2014年に本社ビル1階にオープンした「KEY’S CAFÉ –CLASSE–」は、「氷温熟成®珈琲」を気軽に味わうことができるセルフカフェだ。「氷温熟成®珈琲」とは、焙煎前のコーヒー豆を0℃以下の氷温域で熟成することにより、豆の中の細胞を均質化する技術。じっくりと焙煎した豆はムラなく焼き上がり、雑味のないまろやかさな味わいとなる。さらに、抽出はオリジナルコーヒーマシーンの「プレシー」によるもの。ハンドドリップの抽出技術を忠実に再現し、コーヒーの持ち味を最大限に引き出すネルのフィルターで抽出する。
❺ 番外編 虎ノ門の散歩スポット
コーヒーをテイクアウトして楽しむなら、南桜公園へ。平成21年まで明治10年から続いた南桜小学校があり、閉校後の跡地は南桜公園としてオフィスワーカーの憩いの場になっている。小学校敷地にあったソメイヨシノが今年も満開だ。
虎ノ門ヒルズと松屋珈琲店のすぐ近くにある愛宕神社。参道の石段は、講談「寛永三馬術」の中の曲垣平九郎の故事にちなみ、「出世の石段」と呼ばれている。
SHARE