2019 Tony Award

2019トニー賞徹底解説! 注目の受賞作5本+1が日本のエンタメシーンの流れを変える

ニューヨーク演劇界最大のイヴェント“トニー賞”の授賞式が現地時間の6月9日(日)夜に開催された。前年夏から今年春までにブロードウェイの劇場で開幕した作品が対象となるこの賞の結果は、日本のエンターテインメント世界にも大きな影響を及ぼす。ここでは、受賞作となったばかりの観逃せないブロードウェイ・ミュージカル5本+1を急ぎ紹介しよう。

TEXT BY Masahiro Mizuguchi
PHOTO: GETTY IMAGES

作品賞はじめ大量受賞の『ヘイディズタウン』は神話世界の現代版

2018/2019年シーズンのトニー賞で、ミュージカル作品賞、楽曲賞、演出賞はじめ8部門での受賞を果たしたのが『ヘイディズタウン』(Hadestown:日本では『ハデスタウン』とする場合もあるようだが、ここでは発音に則ったこの表記で統一する)。

題材はギリシア神話の「オルフェウスの“冥府下り”」と呼ばれるエピソードで、亡くなった妻を探して冥府に下ったオルフェウスが、妻を取り戻し、あと一歩で冥府を出られるという瞬間、振り返ってはならないという禁を破って永遠に妻を失ってしまう、という例の話。そうした神話の話ではあるけれども、舞台はニューオーリンズの酒場風で、トロンボーンを中心にしたバンドが奏でる音楽には、ファンキーさを内包したニューオーリンズ・ジャズの趣がある。加えて、“トランプの壁”を予言したと評判になった楽曲「Why We Build the Wall」(我ら持てる者の自由を敵である貧困から守るために壁を築く、という内容)を含み、装いは極めて現代的。今のアメリカを表わす、味わい濃厚な異色作だ。

実は、2015年以降、トニー賞のミュージカル作品賞は、『ファン・ホーム』(Fun Home)、『ハミルトン』(Hamilton)、『ディア・エヴァン・ハンセン』(Dear Evan Hansen)、『ザ・バンズ・ヴィジット』(The Band’s Visit/原作映画邦題:迷子の警察音楽隊)と、連続してオフ・ブロードウェイで幕を開けた後にブロードウェイに移ってきた作品が受賞している。『ヘイディズタウン』も例外ではなく、2016年にオフで上演されて評判になった後、カナダ、ロンドンでの公演を経て、この春ブロードウェイで幕を開けた。

ちなみに、もう1つ、『ヘイディズタウン』に通じる流れが最近のブロードウェイ・ミュージカルにはある。それが、女性シンガー・ソングライターによる楽曲作品の成功。2013年のシンディ・ローパー『キンキー・ブーツ』(Kinky Boots)、2016年のサラ・バレリス『ウェイトレス』(Waitress)と来て、今回の『ヘイディズタウン』の楽曲作者はアネイス・ミッチェル。いずれも、ミュージカルのためにオリジナル楽曲が書き下ろされた作品だ。

そう考えると、一見“異色”ではあるものの、実のところ、『ヘイディズタウン』はブロードウェイ・ミュージカルの新たな潮流を示す“典型”と言えるのかもしれない。最先端のブロードウェイ・ミュージカル、早めに体験してみてはいかがだろう。

リヴァイヴァル『オクラホマ!』は刺激的な超問題作

2018/2019年シーズンのもう1つの注目作が、リヴァイヴァル作品賞を受賞した『オクラホマ!』(Rodgers & Hammerstein’s Oklahoma!)だ。

昨シーズンは、同じくロジャーズ&ハマースタインのコンビ第2作『回転木馬』(Rodgers & Hammerstein’s Carousel)が同賞の候補になったが、『オクラホマ!』は彼らのコンビ第1作。初演は1943年と古い。そのリヴァイヴァルが今シーズン最大の話題作となった理由は、これまでの同作のイメージを180度ひっくり返す大胆な演出にある。20世紀初頭の西部開拓者たちの活気に満ちた物語を、コミュニティの排他性を告発する物語に読み換えているのだ。

過去の上演では牧歌的に聞こえた楽曲が、集団の無言のプレッシャーに押し潰されそうな心情表明に聞こえ、純情な愛の表現の歌は欲望の発露のような様相を帯びる。おまけに、銃器が各場面で重々しい存在感を見せる。それに合わせて、装置、楽器編成、編曲、音響にまで、ひねったアイディアが凝らされ、一筋縄ではいかないスリリングな舞台に仕上がった。

20世紀初頭という設定でありながら、現代の車椅子やアイスボックスが出てくる等、現代のアメリカとシンクロするような構造にもなっている。その意味では『ヘイディズタウン』と近しい存在でもある。
2020年1月19日までの期間限定公演となっている。助演女優賞も獲得したこの作品、観逃したくない。

オーソドックスな作品も面白い今シーズンの新作

脚本賞と主演男優賞を獲ったのが、ヒット映画の舞台ミュージカル化『トッツィー』(Tootsie)。映画版にあったソープ・オペラ(TVの連続ドラマ)の設定をブロードウェイ・ミュージカルに置き換えたアイディアがうまく機能して、ほろ苦くも面白い舞台に仕上がった。楽曲は、昨シーズンの受賞者デイヴィッド・ヤズベクの作品。主演男優賞のサンティノ・フォンタナによる男性/女装の入れ替わり演技も見ものだ。

主演女優賞と衣装デザイン賞を獲った『ザ・シェール・ショウ』(The Cher Show)は、歌手/女優であるシェールの伝記的ミュージカルで、彼女が苦難に満ちた半生を力強く乗り越えていく姿が、TVショウのスタイルを借りて描かれる。世代の違う3人のシェール役者が登場するのが面白く、彼女たちがシェールの持ち味である“ぶっちゃけた”語りで舞台をテンポ良く進めていく。次々に繰り出されるヒット曲に乗って、飽きずに観ていられる作りになっている。

ノミネーション数12と『ヘイディズタウン』の14に迫る勢いだったのが『エイント・トゥー・プラウド』(Ain’t Too Proud)。こちらも伝記的ミュージカルで、主人公はザ・テンプテーションズ。受賞は振付賞のみに留まったが、同賞に相応しく、彼らの持ち味である華麗なアクションをひと回り派手にしたメンバーの動きが見どころの1つ。脚本もよくできていて、同趣向の成功作『ジャージー・ボーイズ』(Jersey Boys)に勝るとも劣らない仕上がり。楽曲の使い方もツボにはまっていて、しばしば客席がシングアウト状態になるのも楽しい。

最後に、ミュージカル作品賞、楽曲賞他で数多くの候補になりながら受賞を逃した『ザ・プロム』(The Prom)について書いておきたい。地方都市での若者のLGBTQ問題にブロードウェイ人種が顔を突っ込むという、現代的かつ奇抜な設定の内容だが、ミュージカル・コメディとして、脚本、楽曲共に非常によくできている面白い作品。笑って、泣けて、考えさせられる、個人的にはシーズン一番の推薦作。早めに終わる可能性大なので、ニューヨークに行く機会があれば、ぜひどうぞ。

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水口正裕|Masahiro Mizuguchi
ミュージカル・ブログ「Misoppa’s Band Wagon」を日々更新。電子書籍版音楽雑誌「ERIS」で「ブロードウェイまで12時間と45分」を連載中。

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