いよいよ12月15日から公開される『スターウォーズ/最後のジェダイ』。「もう待ちきれない!」という人も多いだろうが、いま、観るべき映画はそれだけではない。4年ぶりに映画界に復帰したビッグネーム、約6万5000枚の油絵が動くアートアニメーション。見どころを解説する。
TEXT BY REIKO KUBO
アナログ感あふれるクライムエンターテインメント
今年のハリウッド系お正月映画は『スターウォーズ/最後のジェダイ』一色になりそうだ。アカデミー賞狙いの話題作は軒並み年明け公開なので、今月は『スターウォーズ』までに何を見ようか……という方に、公開中の作品の中からおすすめ映画をご紹介したい。
スティーヴン・ソダーバーグといえば、『エリン・ブロコビッチ』『オーシャンズ11』など、数々のヒットを飛ばしながら、4年前の『サイド・エフェクト』を最後に映画界からの引退を表明。その後は、予算も創作の自由度も高いTVドラマに主戦場を移していた。そんな人気監督が、ウェストバージニア州ローガン生まれの新人の脚本『ローガン・ラッキー』に惚れ込み、これを他人に渡してなるものか!と映画界に戻ってきた。
主人公は、アメフトのスター選手として名を馳せながら脚を故障し、故郷の炭坑町ローガンに舞い戻ってきたジミー。ところが不自由な脚を理由に炭坑もクビになり、妻にも離縁され……。そんなジミーが、イラク戦争で左腕を失い、バーで働く弟のクライドを誘い、全米最大級のストックカーレースの収益金強奪を企てる。仲間に加わるのは、服役中の爆薬師ジョーと2人の弟、そしてジミーのスピード狂の妹だ。ジョーには、『マジック・マイク』でソダーバーグと組んだチャニング・テイタム、片腕クライドには『沈黙 -サイレンス-』『パターソン』と振り幅の大きい役柄を飄々とこなし、今年のクライマックスはカイロ・レインというアダム・ドライバー。さらにダニエル・クレイグが6代目ジェームズ・ボンドとは真逆の危なっかしいヤクザ者を嬉々として演じる。そのほかケイティ・ホームズ、ヒラリー・スワンク、エルヴィス・プレスリーの美貌の孫娘ライリー・キーオなどの女優陣がソダーバーグ復帰作に華を添える。
ネット犯罪が主流の昨今ながら、金庫を爆破し、ビニール袋に札束突っ込んでクルマをかっ飛ばすというアナログっぷりが可笑しくも懐かしい。お得意のクライムエンターテインメントでスクリーン復帰したソダーバーク、その新作はオフビートな笑いがゆる〜く炸裂する快作だ。
ゴッホが動いた!
さて、森アーツセンターギャラリーの「THE ドラえもん展」は盛況だそうだが、今年は映画館でもアート映画が続々と公開されている。そんな中でも世界プレミア以来、「ゴッホの絵が動く!」と話題をさらってきたのが『ゴッホ〜最期の手紙〜』だ。シアーシャ・ローナンら俳優による実写映像を元に、ゴッホ・タッチを習得した125名の画家によって1コマ、1コマ描かれた約6万5000枚の油絵をアニメーション化するという、動く絵の秘密にまずは驚かされる。
ゴッホその人も、そのほかの登場人物も、すべて、残された肖像画から抜け出して来るのだ。そして強烈な色彩とフォルムが踊るゴッホの絵の中に入り込む興奮の後に浮かび上がるのは、37歳という若さで逝った不世出の画家の晩年。自殺なのか、他殺なのか。謎は謎を呼ぶ体感型アート・サスペンスが描く度重なる挫折から起き上がり、ただひたすらにカンバスに向かった孤高の魂に涙を誘われる。
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