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今月はこの映画を観よ! 『ダンケルク』が傑作か否かは、『戦争のはらわた』を観て判断すべし!

映画ジャーナリスト久保玲子が今回ピックアップしたのは、2つの戦争映画。ひとつは1977年に公開された戦争映画の金字塔。もうひとつは、現在の映画界を代表する俊英が描いたサスペンスフルな撤退戦。コスチュームを身に纏わない生身の人間による闘いの映像は、観る者に何を訴えかけるのか。そして、この2本を観る意味とは?

TEXT BY REIKO KUBO

『戦争のはらわた』 監督 サム・ペキンパー 出演 ジェームズ・コバーンほか 公開 新宿シネマカリテほかにて全国公開中 © 1977 Rapid Film GMBH – Terra Filmkunst Gmbh – STUDIOCANAL FILMS Ltd

40年間、戦争映画の基準であり続けた『戦争のはらわた』

制作から40年を経てなお戦争映画の金字塔として人気を誇る『戦争のはらわた』のデジタル・リマスター版が、絶賛公開中だ。

“血まみれサム”こと巨匠サム・ペキンパーの唯一の戦争映画は、第二次世界大戦の中でも最も苛烈を極めた独ソ戦・東部戦線が舞台。ソ連の猛攻によりドイツ軍がタマン半島からクリミアへの撤退を強いられていた1943年の春、ジェームズ・コバーン演じる並外れた戦闘能力を持つ小隊長シュタイナー伍長は、死線から死線を渡り歩いていた。そんな戦争野郎の上司として赴任してくるのがシュトランスキー大尉(マクシミリアン・シェル)。このドイツの最高位勲章「鉄十字章」獲得に固執するプロイセン貴族の末裔と対立したシュタイナーは、10名足らずの部下とともに敵陣に置き去りにされ、壮絶なゲリラ戦術を繰り広げながら本部への合流を目指すが……。

『ワイルドバンチ』や『ガルシアの首』など数々の傑作を放ちながら、扱いづらい監督の烙印を押され、半ば干されていたペキンパーが、ユーゴスラビアの戦場に大量の銃弾とエキストラを集め、人や戦車が屍を踏みしめ進む戦場のリアリズムを徹底追及した本作。第二次大戦ものでは悪役が常のドイツ軍の群像を実に人間臭く描き、大義もへったくれもなく、ラストのコバーンの咆哮とともに、ただサバイバルのためだけに殺し合うという戦争の空しさをこれでもかと叩き付ける。

本作の原題は『鉄十字章』だが、70年代のゾンビ映画流行の煽りを受けて“はらわた”と名付けられてしまった。しかし、まさにはらわたに響く映画であり、本作誕生以後は、「『戦争のはらわた』を超えられたか?」が、戦争映画の基準となったと言ってもいい。

『ダンケルク』 監督 クリストファー・ノーラン 出演 フィン・ホワイトヘッドほか 公開 9月9日(土)よりTOHOシネマズ六本木をはじめ、全国ロードショー © 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

圧倒的な臨場感と没入感をもたらす『ダンケルク』

さて、『ダークナイト』『インセプション』のヒットメイカー、クリストファー・ノーランの話題の最新作『ダンケルク』の舞台は、第二次世界大戦の西部戦線。1940年の5月末、ドイツ軍によって英仏連合軍兵士がフランス北部ダンケルクに追いつめられた。遠浅の浜に遮られ、沖に停泊したままの輸送船を眺めるしかない若い兵士40万人に砲弾の雨が降る。そんな彼らを撤退させるため、イギリスから観光船や漁船まで総動員したダイナモ作戦が発令される。初老の観光船主(マーク・ライランス)も息子とともに丸一日かけてダンケルクを目指す。空ではイギリス空軍パイロット(トム・ハーディ)がドイツ戦闘機と1時間の攻防を繰り広げる。

デジタル撮影が主流の映画界において、ノーランはCGを嫌い、フィルム撮影にこだわる監督として知られている。今回は、撤退作戦の地ダンケルクに忠実に再現された舞台を作り、本物の軍艦を海に浮かべ、重厚なIMAXフィルムカメラを戦闘機に括り付けてVR(ヴァーチャルリアリティ)を凌ぐ圧倒的な臨場感(と没入感)を作り上げた。時間軸の異なる陸、海、空の攻防を斬新な編集でつなぎ、観る者を壮絶な撤退作戦のただ中に放り込む。

来日したノーランは、『ダンケルク』を「戦闘の映画ではなく、イギリスにとってとても伝説的な意味を持つ撤退のドラマだ」と前置きする。「戦闘を描くのなら、目を背けたくなるホラーとして語る手法もある。しかし本作はサバイバルの話なので、ジリジリと迫りくる敵とタイムリミットを感じさせる緊迫感を追求して、目が釘付けになるサスペンススリラーのアプローチを取った」と。そして、まさに目を背けたくなるノルマンディー上陸作戦を描き、「『戦争のはらわた』に迫った」と言われた『プライベート・ライアン』の35ミリフィルムをスティーヴン・スピルバーグから借り、スタッフ全員と鑑賞したというノーランは、「これと競争しては分が悪い」と悟りつつ、大先輩から水上撮影の方法などを伝授されたという。スピルバーグ以外にも、『ダンケルク』はアルフレッド・ヒッチコック、デヴィッド・リーンらの影響を大きく受けていると語ったノーラン。

『ダークナイト』三部作を大ヒットさせ、アメコミ・ヒーローブームの火付け役のひとりとなった彼だが、アナログの力を信じ、生き延びた青年兵や名もなき民間人をヒーローとして描いた『ダンケルク』は、アメコミ・ヒーローブーム一色に染まった昨今のエンターテインメント映画に対するアンチテーゼの表明のようにも思えるが、どうだろうか。

早くもアカデミー賞確実の呼び声も高いようだが、果たして『ダンケルク』は、『戦争のはらわた』を超えられたのか。それは、観客の方々がこの戦場に実際に身を置いて、自ら感じてほしい。

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