HAPPINESS IN LACKING SOMETHING

みんな「シェア」に疲れてない? タムくんが教える自分が楽になる方法 

六本木ヒルズA/Dギャラリーで「SHARE」展を開催中のタイの漫画家「タムくん」ことウィスット・ポンニミットさん。イラストとひと言で構成される展示は、ほっこりするものもあれば、どきっとするような核心をついてくるものもあります。来日中のタムくんにお話を聞きました。

TEXT BY RIE NOGUCHI
PHOTO BY Shintaro Yoshimatsu

いいシェアをしよう

──最新の展覧会は「シェア」がテーマですね。どうしてこのテーマにしようと思ったのですか?

タム 最近、みんな毎日、携帯で「シェア」してるでしょ? でも「シェア」の意味をもう1回、考えてみたらいいなって。「おれたち、毎日、何しているんだろう」って。

──タムくんが考える「シェア」はどんなイメージですか?

タム シェアは自分から周りに出すこと。電波、オーラ、気持ち、言葉とか…。すべて、ずっと、毎秒、シェアすることは自分の中から出ているよね。例えば、みんな、SNSで「暑い!」とシェアをする。それを読んだ人のコメントが「たしかに暑いよね」と書く。その次の人は「地球ヤバイよ、見てこの(怖い)リンク!」と書いたりして。これはちょっと悪いシェアだよね。「暑い!」の次が「おれ、シャワー行ってきたよ。気持ちいい!」で、その次が「(かき氷の写真)」、その次が「おれ、木を植えたわ」だとしたら、なんかいいでしょう。読む人の気持ちが変わるよね。読んだ人の気持ちが変わると、今度はその人がシェアすることも変わる。せっかくシェアするなら、気持ちがいいことをシェアしようよって思う。

──作品にそういう思いを込めているんですね。

タム ぼくから出る「シェア」を絵にしたから、ぼくの絵を見て気持ちよくなってもらえたらいいなと思う。前に失恋の絵を載せたら、コメントに泣き顔の絵がついたり、悲しいコメントがついたの。だから、そういうネガティブなことを言うのをやめようと勉強になった。みんなに言うなら、もっといい言い方を考えてみようかなと。最近は気を付けてる。

ウィスット・ポンニミット Wisut Ponnimit  1976年、タイ・バンコク生まれ。愛称はタム。1998年バンコクでマンガ家としてデビューし、2003年から2006年まで神戸に滞在。2009年『ヒーシーイットアクア』により文化庁メディア芸術祭マンガ部門奨励賞受賞。現在はバンコクを拠点にマンガ家・アーティストとして作品制作の傍ら、アニメーション制作・音楽活動など多方面で活躍する。主な作品に「マムアン」シリーズ、『ブランコ』(小学館)、『ヒーシーイット』シリーズ(ナナロク社)など。2016年にはくるりの楽曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」PVを手掛けたほか、さいたまトリエンナーレ2016にも参加。2017年にはバンコク、東京、仙台にて個展「LR展」を開催。2018年に、雑誌「ビッグイシュー日本版」での連載をまとめた『マムアンちゃん』をクラウドファンディングにより刊行。

「ま、いいんじゃない?」でいこう

──毎回、心を揺さぶる素敵なイラストとひと言でひとつの作品になっていますが、どのようにして作品を考えているのですか?

タム うーん、そうだねえ。例えば「I like your nature きみの自然が好き」は、「この人、口が悪いなあ」とか、「その言い方、やめたほうがいいんじゃない?」とか、他人に対して「もっとこうだったらいいのに…」と思うことがあるじゃない? でも、最近はどうでもよくなっちゃって(笑)。

みんなそれぞれ人生があるし、自分のやりたいことをやりながら勉強をすれば「ま、それでいいんじゃないの」と思う。他人に「そうなったほうがいいよ」と言うのは止めたの。そうすると、みんな可愛くなる。自分が楽になるし、なんでも好きになれる…みたいなこと考えて描いた。

Wisut Ponnimit「Happiness in lacking of something 足りないのに幸せ」

──「Happiness in lacking of something 足りないのに幸せ」も相合い傘をしている二人が、傘の幅が足りなくて濡れてしまうけれど、でもしあわせ、というとても素敵な作品ですね。

タム 最近の時代はなんでもありすぎだし、これからもっともっと増えそうだけど、それなのに、みんなあまり「ハッピーじゃないね」と思う。ぼくは携帯のない時代で育ったから、昔は、お金が全然なくても楽しかった。いまは欲しいものは買えるし、美味しいものも食べられるけど、昔のほうがハッピーだったなと思う。もちろん幸せの種類は違っていて、いまもハッピーではあるけど、ときどき何か足りないときがある。

ぼくね、携帯をよく家に忘れるの。そういう日はけっこう楽しい。みんな携帯をいじっているけど、「ぼくは今日何をしようかな」って。カフェに座ってるだけとか、空を見たり、空気を吸ったり、遠くを見たり。すごく楽しい。

来日するのは半年ぶりだというタムくん。

タム あとね、財布も忘れるの。そうすると、カフェには行けないけど、コーヒー飲めなくても死なないじゃない。で、お金を人に借りるの。人に借りるの、超楽しい(笑)。知らない人でも「すみません、お水ください」って。そういうの楽しいじゃん。タイは物価が安いからというもあるかもしれないけど。今日ね、東京の電車に乗ってきたんだけど、切符なくしたの。で、駅の人に言ったら、今日はいいからって。

──ええ! 優しい。

タム そうやって人と話せるから楽しいね。「人に許してもらうこと」は楽しいでしょう。みんな、完璧じゃなくてもいいよね。

ウィスット・ポンニミット企画展「SHARE」 会期:2019年11月10(日)まで 開廊時間:12:00~20:00 会場:六本木ヒルズA/Dギャラリー(六本木ヒルズ ウェストウォーク3階) 料金:無料

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