BASQUIAT FROM FASHION PERSPECTIVE

バスキアの存在そのものがアート。スタイリスト祐真朋樹の視点でみる「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」

森アーツセンターギャラリーで11月17日まで開催中の「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」。今回は10代のころからバスキアが好きだというスタイリストの祐真朋樹さんと一緒に、「バスキア展」を廻り、スタイリストならではの視点で、新しいバスキアの楽しみ方を教えてもらいました。

TEXT BY RIE NOGUCHI
PHOTO BY KAORI NISHIDA

祐真朋樹|Tomoki Sukezane スタイリスト、ファッションディレクター。「Casa BRUTUS」や「GQ JAPAN」をはじめとする数々の男性誌のファッションページのディレクターを務める。著者に『祐真朋樹の密かな愉しみ』(マガジンハウス)、『祐真朋樹の衣装部屋へようこそ』(集英社)など。写真はエントランスに飾られた「仮面」(1981年)。バスキアの作品の中では珍しい柔らかな色使いで、祐真さんは「今回の展示ではこの作品が一番好きですね」と話した。Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat.Licensed by Artestar, New York

落書きがアート?

──まずは祐真さんとバスキアの出会いを教えてください。

祐真 18歳のとき、京都のクラブによく行っていたのですが、そこでNYからハネムーンで京都にやって来たカップルと知り合ったんです。たいして言葉も通じませんでしたが、彼らはすごくカッコ良かった。ちょうど一緒にいたぼくの友だちが夏休みにNYに遊学に行くことになっていたので、彼らの連絡先を教えてもらいました。2,3カ月後、友だちがNYから帰ってきたので土産話を聞こうということに。場所は三条河原町に安藤忠雄が建てたTIME’Sのカフェで、そのカフェにバスキアが飾られていたというわけです。

──それが初めて見たバスキアの作品ですか。

祐真 そう。でもね、そのとき僕はそれがバスキアだとは知らかったわけです。友人はNYでバスキアを知って衝撃を受けて「いまNYですごい人気があるアーティストで、こんな落書きみたいなアートがあるんだよ」と僕に教えてくれたんです。そう言われて、僕も改めて絵を見てみるのだけど「これってやっぱり落書きじゃん! これがアートなの?」って(笑)。

──それから興味をもったのですよね。

祐真 とにかく、一見落書きにしか見えないものがアートと認識されているとうことが衝撃でした! そこから当時のバスキアやキース・ヘリングたちに代表されるNYのストリートカルチャーに興味を持ち始めて「NYに住んでみたいな」、「バスキアはどんな人なのかな」と考えるようになりました。

バスキアは文字や言葉の使い方も特徴的で、細部にまで言葉で埋められた作品もある。Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat.Licensed by Artestar, New York

とにかく「かっこいい」

──それ以前にアートには興味はあったのですか?

祐真 僕はアートというようりは、もともと”かっこいいものが好きで、ダサいものは嫌”なんですね。バスキアに出会う前に、『ブレイクダンス』というストリートダンスの映画を観たんです。ブルックリンの街でブレイクダンスを踊るわけですが、そういうストリートダンスには必ず壁の落書きがセットでした。もしかしたら映像のなかにバスキアの落書きもあったのかもしれない。NY帰りの友だちの話を聞いて、あの映画に映っていた壁の落書きもNYではきちんとアートとして評価されているものだとわかりました。

──NY帰りの友だちの話と、映画で見た風景がつながったわけですね。

祐真 そう。ファッション、音楽、映画…全部がつながっています。アートの流れからバスキアを知り、そうこうするうちに世の中に出回っていた彼の画像を見るつけ、かっこいいのは作品だけじゃなく、実は彼そのものなのだと思うようになりました。「あれ? よく見ると、彼の着ているシャツもかっこよくない?」となり、彼がとびきりおしゃれな人だということを知るわけです。

バスキアは10年の制作期間の間に、3000点を超すドローイングと1000以上の絵画作品を残したという。今回の展示では日本で描いた作品も鑑賞することができる。Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat.Licensed by Artestar, New York

──バスキアの絵の美術的な価値というよりも、彼自身に興味をもったのですね。

祐真 そのとおりです。映画も観たし、実際に彼を取材したドキュメンタリーも観ました。バスキアの絵にも感動するけれど、バスキアという存在自体、そして彼が着ている服やしぐさを通して、彼の内側からわき出てくるものにも魅力を感じたのだと思います。

──”憧れ”の存在ではありますか?

祐真 僕は絵描きではないけれど、自由にやりたいようにやっているように見えるのはすごく憧れます。僕にとっては間違いなく「ヒーロー」だったと思います。アメリカン・ドリームのヒーロー。ボクサーのモハメド・アリがキンシャサの戦いでジョージ・フォアマンに勝った試合や、マイケル・ジャクソンのアルバム『スリラー』を知ったときと同じ衝撃を受けました。

当時のSOHOのアートシーンにバスキアという人がいた。そのこと自体がすごいし面白いと思います。アメリカン・ドリームを感じますよね。

木製パネルにアクリル、オイルスティック、瓶の蓋でつくられた『自画像』(1985年)。瓶の蓋の銘柄をチェックする祐真さん。Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat.Licensed by Artestar, New York

同時代に生きたからこそ

──2019年のいま、六本木ヒルズで「バスキア展」が開催されたりと、祐真さんにとっては長い時間バスキアを観てきたと思うのですが、見方の変化などはありましたか?

祐真 当時のリアルタイムのときといまとでは、たしかに感じ方は変わりますよね。懐かしい気持ちもあるし、昔よりは客観的な視点で観ています。僕の息子はいま21才ですが、先日、この展示を友人と観に来たらしいんです。感想を聞いたら「え、落書きでしょ」と言われました(笑)。

その辺の温度差はバスキア以外でも、どんなものでも絶対にあることです。天才と騒がれ、彼と同時代に生きていて、その時代の風を受けていたからこそ感じるものがある。バスキアはクラブを徘徊して友だちとの約束を破ってメチャクチャしていたのだけど、それでも「彼の描く絵ってかっこいいんだよね」と、友だちではないのだけど、同時代に生きていたからこそ、面白いなと思えることがあります。

──スタイリストとしてバスキアはどんな存在ですか?

祐真 とにかくお洒落な存在。いろいろなブランドの服を、あたかもパジャマのように着てしまえるのは本当にかっこいい。バスキアはパリコレにモデルとして出たこともあるんですよ。スーツをビシッと着ていても裸足で歩いていたり。そういうのにすごく惹かれます。

そういうファッショナブルな人がアート界を揺るがしたのはインパクトがありました。いまはそういう人がいなくなりましたね。極端かもしれないけれど、どんなに絵がうまくても本人がお洒落ではないと僕は興味がわきません。そういう意味でも、バスキアに替わる人はいないでしょうね。

──これから観られる方におすすめしたい鑑賞ポイントはありますか?

祐真 80年代の天才の絵が、2019年にどういうかたちで評価されているのか、昔の映像も展示されていますから、少し歴史を辿りながら観てみると楽しいかもしれないですね。そしてバスキアの絵はもちろんですが、バスキアという人のファッション性なども観るポイントに入れると、より一層楽しくなると思います。

バスキア展 メイド・イン・ジャパン 会期 〜2019年11月17日(日) 会場 森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階) 開館時間 10:00~20:00(最終入館 19:30) 問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル) 巡回情報 巡回なし