RHIZOMATIKS ARCHITECTURE

ライゾマティクスの“原寸日本建築”を体験する!——「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」(〜9/17)

茶室やカプセル型実験住宅、避難所のパーティション。9月17日(月)まで六本木ヒルズ・森美術館で開催中の「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」では、さまざまな日本建築を原寸大で体験できる映像インスタレーションが人気だ。作者のライゾマティクス・アーキテクチャーの齋藤精一が考える「日本建築の遺伝子」とは?

TEXT BY NAOKO AONO
PHOTO BY KIICHI FUKUDA

連日多くの来場者が熱心に展示を見ている森美術館「建築の日本」展。およそ400を超える資料が並ぶ大型展の中でもひときわ人気なのがライゾマティクス・アーキテクチャーの《Powers of Scale》だ。壁2面にさまざまな建築の内外が原寸大で投影される。その前にワイヤーが縦横に配され、レーザー光線が走る。これらは映像の奥行きを補完する“補助線”だ。観客はワイヤーのあるエリアに入って自分の身体と建築のスケールを比べることもできる。このインスタレーションについてライゾマティクス創立メンバーの一人、齋藤精一に聞いた。

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——この建築展でスケールに着目したのはなぜですか?

齋藤 僕は建築学科出身なので、模型や図面からある程度大きさが推測できるけれど、そうでない人は写真でも実際のスケール感は想像しづらいと思います。せっかくだからリアルなスケール感を体験してほしいと思って作りました。実は最近の建築学科の学生もコンピュータで設計しているので、身体でスケールを感じることが少ないのでは、と危惧しています。僕が学生のころはペンで線をひいていましたし、「自分の手を広げた長さは22センチ」など“体のスケール”で空間を測っていました。そういう感覚ってやっぱり大事だと思うんです。

——映像は「ウィトルウィウス的身体」やル・コルビュジエの「モデュロール」などから始まります。

齋藤 そもそも建築を作るときは人間の体のサイズを元にしていました。ル・コルビュジエが提唱した「モデュロール」はレオナルド・ダ・ヴィンチが模写した「ウィトルウィウス的人体」などを参考にした、身長183センチの人の体を元にした寸法体系です。彼は《ユニテ・ダビタシオン》など実際の建築にこのモデュロールを応用しています。日本でもお盆は一尺、廊下は二尺といったときに使われる尺貫法は人間の体が元になっている。その原点に立ち戻ろうということです。

——このインスタレーションでは建物だけでなく、田園風景や都市など、建物の周囲にある環境も表現されています。

齋藤 空間のスケールによって、そこにいる人の気分も変わります。広大なところにいるのと、小さな部屋にいるのとでは違う気持ちになるでしょう。また建物や部屋そのものだけでなく、周囲の環境と建物、建物と開口(窓など)の関係性も重要です。スケール感には部屋そのものだけでなく、窓の大きさも関係すると思います。大きい窓と小さな窓とでは風景の切り取り方が変わりますから。

——登場する建築は齋藤さんのセレクトですか。

齋藤 そうですね。メタボリズムの代表的な建築である黒川紀章設計の〈中銀カプセルタワー〉は日本の近代建築の象徴として選びました。茶室は金閣寺の〈夕佳亭〉(せっかてい)などを参照していますが、特定のものの写しではなく、一般的な茶室を再現しています。日本建築は丸窓や雪見障子などからの借景など、外の景色の切り取り方も面白い。この茶室では丸窓の障子を少しだけ開けて、掛け軸のように景色を切りとる様子が楽しめます。茶室は日本の住居の原型のような建築だと思いますね。
「災害用段ボールパーティション」はテレビや新聞で見たことがあると思いますが、実際にはどのぐらいの高さなのか、そこに行かないとわからないと思います。僕は、長期間そこで暮らすにはちょっと低いのではないか、と感じました。そんなことも含めて、さまざまなシーンでのスケール感がわかると思います。

ライゾマティクス・アーキテクチャーの齋藤精一氏。

——実際に作ってみて、改めて発見したことはありますか。

齋藤 ここではごく小さなスケールの建築を扱っているわけですが、このぐらいのものが日本人にはあっているのかも、と思いました。海外の人からは狭苦しいと思われることもあるわけですが、なぜか日本には独特のスケールがある。どんな建築を美しい、心地いいと感じるかは育った環境が反映されています。一般的には広くて天井の高い空間がいい、とされていますが、一概にそうは言えないのではないか、と思い始めています。最近、環境や気候を配慮し、小さなスケールでもていねいに作られている建築がリスペクトされるようになってきたのはその現れではないでしょうか。

——そんなスケール感が実際の建築や街づくりに活かされていると思いますか。

齋藤 最近、オリンピックや震災などで建築への関心は高くなっていると思います。デザインだけでなく構造の強さなど、建築の性能にも目が向けられるようになってきました。でも得てして私たちは空から地面を見下ろす“鳥の目”で建築を考えがちです。とくに大きな建物や都市計画になるとその傾向が強くなる。そうではなくて、大きなものを作るときでも目線のレベルからデザインすべきだと思うんです。以前、大学で教えているときに「消防車を家の中に入れてみよう」という思考実験をしたことがありました。実際に入れるわけではありませんが、もしそうなったら、と想像してもらうのです。するとこのでっぱりにはコーヒーカップが置けるな、とか、ここはハンガーを掛けられる、とか、このホースはタオル掛けにちょうどいい、といったアイデアが出てくる。そういう人間の想像力が小さな空間であっても豊かなものにしているし、大きな建築を考える場合でも必要だと思うのです。今回の映像インスタレーションはヒューマンスケールを基本にした建築を扱っています。そこから考えていくことが大切だということがよりわかりやすくなっていると思います。

齋藤精一|SEIICHI SAITO 
1975年神奈川県生まれ。東京理科大学・コロンビア大学で建築を学び、2006年に理科大で知り合った真鍋大度と千葉秀憲とライゾマティクスを設立。現在「リサーチ」「アーキテクチャー」「デザイン」の3部門からなるライゾマティクスで立体、映像、ウェブ、インスタレーションなど多様な作品を制作している。

建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの 会期 〜9月17日(月)※会期中無休 会場 森美術館 開館時間 10:00〜22:00(火曜〜17:00) 入場 1,800円(一般)

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