1950 年代から現在まで、多岐にわたるメディアを用いて数々の作品を生み出してきた草間彌生。中でも展示のたびに長蛇の列を生み出す人気作品のひとつが「無限の鏡の間」シリーズです。その魅力の一端を森美術館のアソシエイト・キュレーター、德山拓一に聞きました。
comment by Hirokazu Tokuyama
連載STARS展:現代美術のスターたち—日本から世界へ
Curator's Eye
Installation view: STARS: Six Contemporary Artists from Japan to the World, Mori Art Museum, Tokyo, 2020 Photo: Takayama Kozo
comment by Hirokazu Tokuyama
——上の写真の作品は、「STARS展」で体験できる「無限の鏡の間」シリーズ《Infinity Mirrored Room -信濃の灯》(2001年)と同じものですか?
德山 「STARS展」に出展されている作品は、2002年に松本市美術館で開催された個展「草間彌生:魂のおきどころ」に合わせて制作されたものです。その原型が、1966年にニューヨークのリチャード・カステレーン・ギャラリーで開かれた個展「クサマズ・ピープ・ショー」(別名:エンドレス・ラブ・ショー)で発表された、6角形の鏡張りのボックスの作品です。右の写真はその時に撮られたものですね。
草間さんは、自己を映し出すものとして、ナルシズムへの関心から、鏡という素材を用いています。幾重にも反復し、映し出されるイメージは、自己陶酔、そして、草間さんの場合、その先には「自己消滅」というコンセプトに繋がります。究極の自己陶酔は、自己消滅と表裏一体であるという、草間作品を理解する上で重要なコンセプトが、本作で表現されています。このシリーズは、近年の展覧会に出展するたびに長蛇の列をつくるほどの人気作品なのですが、観客の多くが、鏡に映る自分の姿をスマホで撮りたいという欲求に駆られるのは、本作のコンセプトからも納得できます(※ちなみに本展では、残念ながら作品の構造上、撮影禁止となっていますのでご注意ください)
——写っているのは草間さんご本人ですか?
德山 そうですね。今回の「STARS展」では、アーカイブセクションに資料を展示するだけになりましたが、この作品が発表された1960年代の草間さんの重要な表現として、パフォーマンスやファッションショーなど、美術の枠組みを越えた活動がありました。主なものとして、1960年代中旬からは「ハプニング」と呼ばれるパフォーマンスを行っていました。ハプニングは、複数のパフォーマーを草間さんが指揮して、裸になったパフォーマーの体に草間さんが水玉模様を描くなどのパフォーマンスをするものです。これらの身体を用いたパフォーマンス作品には、ヴェトナム戦争への抗議など、政治的な意味が含まれていました。なかでも、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で行なったパフォーマンスは、「ニューヨーク・ポスト」の一面に取り上げられるなど、センセーショナルな表現として注目を集めました。美術館以外でも、セントラルパークやニューヨーク証券取引所などでも、積極的に行なっていました。
「2009年に始めた『わが永遠の魂』シリーズは1,000点を目指しています。2004年、森美術館での個展では100歳まで描き続けたいとおっしゃっていましたが、きっと実現しますね。時代や社会の変化にかかわらず、ただひたすら絵を描き続けることで、草間さん自身に『永遠の魂』がもたらされる。納得です」
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