多様な生態系が子どもたちに与えるもの——センス・オブ・ワンダーを刺激するということ

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Family Green Atelier

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多様な生態系が子どもたちに与えるもの——センス・オブ・ワンダーを刺激するということ

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「Green&Wellness」をコンセプトに掲げる麻布台ヒルズでは、毎月1回、親子向けの無料プログラム「FAMILY GREEN アトリエ」を開催しています。世界で最も先端的な教育のひとつ、レッジョ・エミリア・アプローチを取り入れた屋外アトリエで、誰もが自由に、予約なしで参加できる場です。プログラムを伸びやかなものにしているのが、麻布台ヒルズの自然。「FAMILY GREEN アトリエ」の魅力に迫る今特集の第3回は、麻布台ヒルズの豊かな緑を子どもの目線で探索します。植栽計画に関わる人々にも、都市の自然に込めた思いを聞きました。

TEXT BY YUKA UCHIDA
PHOTO BY AYA ITO

都市で育つ320種余りの植物

中央広場に流れるせせらぎ。虫や鳥など、生き物たちの循環においても水場があることは重要。

小さな赤い花を咲かせるチェリーセージ。敷地にはローズマリーやレモンバームなどハーブ類も多い。

ひらりひらりと、新緑の間を飛び回っていたツマキチョウ。

麻布台ヒルズのランドスケープを手がけたひとりが、森ビル 設計部技術顧問の山口博喜さんだ。山口さんは1986年に誕生したアークヒルズ以降、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズのランドスケープにも深く関わってきた人物。麻布台ヒルズでは緑だけでなく、そこから生まれる「体験」もデザインし、特に“子どもの感性を育むこと”を強く意識したという。思いを重ねたのは、生物学者レイチェル・カーソンの遺作『センス・オブ・ワンダー』。レイチェルはこの本で、生命の不思議さや精妙さに目を見張る子どもたちの感性を「センス・オブ・ワンダー」と称して讃えており、山口さんも強く共感したという。

水辺や草むら、小道や原っぱ……。
麻布台ヒルズには、子どもたちが道草できるような場所をこっそりとつくりました。
目指したのは、遊びながら、冒険ができるような環境。
僕らの世代にとっては日常に当たり前にあった自然との出会いを、
都市に暮らす子どもたちにも届けたいと思ったのです。
      
——森ビル 山口博喜

その思いは「FAMILY GREEN アトリエ」に集う子どもたちにしっかりと届いており、芝生に寝転がって空を見上げたり、風に揺れる木々を見上げたり、会場のあちこちで自然との出会いが生まれている。

植えられた320種のうち、約7割がこの土地にもともと根付いていた在来種。土地の記憶を継承しながら、この環境に適した自然が育まれている。

自然との触れ合いは、「FAMILY GREEN アトリエ」のプログラムによっても深まっていく。例えば、葉や花を虫眼鏡やデジタル顕微鏡で観察するプログラムでは、葉脈の複雑さに驚いたり、花びらの鮮やかな色に夢中になったりしながら、多くのことを受け取っていく。植物の名を覚えたり、特徴を記憶したりするのとは異なる、より感覚的な関わり。それが山口さんの言う「冒険」であり、子どもたちの感性を輝かせていく。

会場には、ミクロな視点で自然の世界を覗くプログラムが用意されている。子どもたちは感じたことを絵にしたり、自分なりの言葉にしたりして、自然への関心を深めていく。

麻布台ヒルズにはハーブも多く植えられている。葉をすりつぶし、香りの違いを感じてみるプログラムでは、子どもたちの手にぴったりの小さなすり鉢が用意された。

果樹園に集まる虫や鳥たち

「FAMILY GREEN アトリエ」の主な会場である中央広場の近くには、リンゴやプラム、ブルーベリーなどが植えられた果樹園がある。果樹園は一般公開されていないエリアだが、生態系は確かに繋がっていて、実のなる木々に誘われた虫や鳥たちを麻布台ヒルズのあちこちで見かけることができる。

「柑橘類の葉はナミアゲハやクロアゲハの幼虫の大好物なんですよ」と教えてくれたのは、日々、麻布台ヒルズの植栽を手入れしている「グリーン・ワイズ」の寺澤萌さん。「アゲハチョウが卵を産み、やがて青虫に成長すれば、それを目当てにシジュウカラなどの小鳥たちも集まってきます」と、この場所で繰り広げられている生き物たちの循環を教えてくれた。

甘い香りを放つベニバナシャリンバイには、ミツバチたちが蜜を目当てに集まっていた。

植栽管理は細やかな心配りをもって行われている。例えば、生き物たちの住処を奪わないよう、草刈りの時期をエリア毎にずらしたり、化学農薬や肥料の使用を最小限に抑える工夫をしている。

寺澤さんもまた、子どもたちへ温かな眼差しを向けるひとりで、「直に自然に触れるという経験を幼い頃にたくさんしてほしい」と話す。

例えば、土に触ってみる。
すると、ここはザラザラしているけど、
あっちはしっとりしているな、などと気づくことがある。
落ちている枝を折ってみれば、
この細さはポキンと折れるけど、この太さは力を込めても折れないと分かる。
こうした何ともいえない身体感覚は自然と触れ合うことで培われていくもの。
自分だけの物差しを育みながら、世界を広げていってほしいと思っています。

——グリーン・ワイズ 寺澤 萌

プログラムには枝や葉といった自然素材が多用されている。子どもたちは太さや長さの違いを感じながら、思い思いの創作を楽しむ。

日本の暦が教えてくれること

「FAMILY GREEN アトリエ」には、「自然」だけでなく、「季節」を感じる工夫もある。日本の暦である歳時記や二十四節気から毎回のテーマを選び、プログラムに落とし込んでいるのだ。例えば、2025年春の開催は「穀雨(こくう)」がテーマ。「穀雨」とは二十四節気の6番目にあたる節気で、百穀を潤す恵みの雨が降る時期だということを伝えている。これにちなんで、会場では種まきのプログラムが開催された。

2026年のゴールデンウィークの開催は「立夏(りっか)」がテーマになっている。「立夏」は夏の始まりを告げる節気で、眩しい新緑や爽やかな風を感じられる時期。会場には風にたなびく5色の布による巨大な迷路が出現し、植物や野菜の色、香りを感じるプログラムや、光と影の不思議を楽しみながら、太陽の恵みを感じられるプログラムが用意されるという。

2025年の春に開催した「FAMILY GREEN アトリエ」第1回では、プログラムのひとつとして、麻布台ヒルズの果樹園エリアで種まきを実施。土の柔らかさや暖かさ、種の小ささや固さを指先で感じる子どもたち。真剣な眼差しが印象的だった。

風にはためく色とりどりの布も、季節にちなんだ色が選ばれている。オレンジに似た「牡丹鼠(ぼたんねず)」という色や、「緋色(あけいろ)」という深みのある赤。日本古来の色にも自然や季節を感じるヒントがある。

「FAMILY GREEN アトリエ」は親子の場だ。プログラムを楽しむ子どもの隣で、大人も新たな気づきを得たり、心からリラックしたりできる。

レイチェルは『センス・オブ・ワンダー』に、こう書き残している。

子どもといっしょに自然を探検するということは、まわりにあるすべてのものに対するあなた自身の感受性にみがきをかけるということです。それは、しばらくつかっていなかった感覚の回路をひらくこと、つまり、あなたの目、耳、鼻、指先のつかいかたをもう一度学び直すことなのです。

——レイチェル・カーソン

都市の真ん中で移りゆく季節を感じ、自然の美しさや不思議さと向き合う時間は、親子にとってのかけがえのない体験となるはずだ。

 
FAMILY GREEN アトリエ GW 特別編 ―緑が誘う、100のあそびと表現―
会期 2026年5月2日(土)〜6日(水・休) 時間 11:00〜17:00 場所 麻布台ヒルズ・中央広場など 参加料 無料 ※事前申込不要(子どもと共に保護者も参加、一部コンテンツは要予約)。開催時間中に自由に来場し、会場に準備されたさまざまなプログラムに参加できる。雨天中止。最新情報はこちらから。

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INSIDE THE CONCEPT

都市の緑が開く、子どもの創造性——子どもと一緒に世界と出会いなおす日