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〈アクタス〉が扱う3つのプロダクトが「2024年度グッドデザイン賞」を受賞した。ドイツ〈TECTA〉社の「M21テーブル」、デンマーク〈ワーナー〉社の「シューメーカースツール」、〈アクタス〉オリジナルのフレグランス・ボディケア製品「KITOKIE」——これらの受賞作を通して見えてきた、〈アクタス〉が大事にする価値観とは?
TEXT BY Mari Matsubara
photo courtesy of ACTUS
そもそも「グッドデザイン賞」とは?
赤丸にGの文字が白抜きされたマークでおなじみの「グッドデザイン賞」は、1957年に創設された「グッドデザイン商品選定制度」を継承する、日本を代表するデザインの評価とプロモーションの活動だ。初代審査委員長は建築家の坂倉準三。以後60年以上にわたり、日本の「良いデザイン」を顕彰し、暮らしや社会をよりいいものにしていく活動を続けている。2024年度は審査委員長にクリエイティブディレクターの斎藤精一を迎え、副委員長にはプロダクトデザイナーの倉本仁、建築家の永山祐子が名前を連ねた。応募総数5,773件のうち受賞したのは1,579件。その栄えある賞を、〈アクタス〉が扱う輸入家具2点、オリジナルセルフケアライン1シリーズが受賞したのだ。なぜ評価されたのか、その理由を見ていこう。
TECTA「M21テーブル」
——30年以上愛され続ける高いデザイン性
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ジャン・プルーヴェが残した天板のデザイン画をもとに、ドイツの〈TECTA〉が1990年に製造した「M21テーブル」
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ダイニングやオフィスなどさまざまな空間になじむデザイン。
正円でも楕円でもない独特の形状の天板と、丸い穴の開いたレッグは唯一無二のデザイン。このテーブルを生み出したのは、ドイツ〈TECTA〉社を率いるアクセル・ブロッホイザー氏だ。バウハウスがかつてデザインした家具を製造するために〈TECTA〉を設立。ジャン・プルーヴェが描いた天板のスケッチを発見したことから、このテーブルの製品化を決意した。プルーヴェのほか、ステファン・ヴェヴェルカ、ピーター・スミッソンの協力を得て1990年に発表したのがこの「M21テーブル」だ。〈アクタス〉では発表直後から輸入販売している。
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独特の天板の形状が特徴の「M21テーブル」
複数の人がテーブルを囲んでも視線がぶつからないよう計算された天板の形。機能性と造形美を兼ね備えたレッグのデザイン。ダイニングやオフィスなど場所を問わず使える汎用性。そうした特徴が31カ国で30年以上愛用され続けている由縁であり、「グッドデザイン賞」選定において高く評価されるポイントとなった。
家具は年間に1万点以上の新作が登場し、その大半は数カ月、あるいはものの数年で生産中止となり消えていくという。製品化されるまでには繰り返しモックアップやプロトタイプが作られることを考えれば、家具製造とはサステナブルの真逆をいく世界と言えそうだ。だからこそ、家具には子や孫の代まで使い続けられる堅牢さと、時代の変遷にも色褪せない高いデザイン性が求められる。「M21テーブル」は、普通に使う分には捨てられることがない家具だ。「良いデザイン」とは表層的な美しさだけではなく、頑丈で長期使用に耐え、何十年経っても飽きのこないサステナブルな価値を象徴するものなのだ。
ワーナー「シューメーカースツール」
——500年以上アップデートされ続ける必然の形
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極めて根源的なデザインの「シューメーカースツール」
お尻のカーブに沿って削られたユニークな座面に3本脚が特徴の素朴なスツール。その原型はなんと15世紀にまでさかのぼる。デンマークの酪農家が牛の乳搾りの際に使っていた椅子で、凸凹した地面の上に置いた時に4本脚ではガタつくが、3本脚にすればしっかりと固定されることからこの形状が生まれた。のちに17世紀頃からは靴職人が使うようになり、座り心地を良くするためにそれまで平らだった座面をお尻の形に合わせて削った。これが「シューメーカースツール」の名前の由来となった。
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数百年前のヴィンテージのスツール。ほとんど現在とフォルムが変わらない。
このアノニマスなスツールの素のフォルムに魅せられたデンマーク人、スティーン・ワーナー氏が1970年代にこれを製品化し、一度は製造を中止したものの、その息子であるラース・ワーナー氏が1990年に復活させ、今もたったひとりでほぼ全ての工程を手作業で製造している。
〈アクタス〉では1991年から現在に至るまで30年以上にわたってこのスツールを販売してきた。デザインの原型が生まれた500年以上前から、ほとんどフォルムを変えることなく作られ続け、生活様式が変化してもなお愛用されているということ自体、長い年月をくぐり抜けてきたデザインの堅牢さを思い知らされる。まさに「グッドデザイン」と呼ぶにふさわしいものだと言えよう。今回の受賞では時代を超越したデザインの強さの他に、ハンドメイドで作り、伝え続ける姿勢も評価された。
特に選定委員の一人である建築家の柳原照弘は「私の選んだ一品」にこの「シューメーカースツール」を挙げた。その理由として「デザイナーがデザインした形状ではなく、15世紀から使い手によるアップデートの繰り返しの中で生まれてきた形を作り続けていることに物語としての美しさを感じる」と語っている。
アクタスオリジナル「KITOKIE」
——自然保護と地域復興に結びつくものづくり
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〈アクタス〉のオリジナル・セルフケアシリーズ「KITOKIE(キトキエ)」
「KITOKIE」は〈アクタス〉が手がけたオリジナルのフレグランス・ボディケア製品だ。伊勢神宮に奉納される御神木の産地として知られる岐阜県中津川の「加子母(かしも)ヒノキ」の精油をベースに作られている。ヒノキ本来の香りが際立つ[雨音]、ヒノキと柑橘をブレンドした[風音]、ヒノキ、マツ、オークモスが香る[樹音]の3種類の香りで展開している。
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加子母ヒノキの間伐材から作られる精油をベースとしたディフューザー。他にハンドソープ、バスソルト、エッセンシャルオイルなどもラインアップ。
「KITOKIE」は日本の伝統的なものづくりを支援する〈キャライノベイト〉と〈加子母森林組合〉、そして〈アクタス〉が協業して生まれたブランドだ。美しく健やかな森林を保全していくためには定期的な間伐が必要であり、その間伐材から作られたヒノキ枝葉精油から「KITOKIE」の製品は作られている。加子母ヒノキそのものや精油を原料としたプロダクトが流通することが、継続的な森林保護活動に役立っているのだ。
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伊勢神宮に奉納される加子母(かしも)のヒノキ。美しい森の保全には、木の根元まで太陽光が届くよう定期的な間伐が欠かせない。その間伐材を有効利用したのが「KITOKIE」だ。
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ディフューザー[風音]と[雨音]。パッケージはヒノキの枝葉を抽象化したデザイン。
今の時代に求められる「良いデザイン」とは?
実は〈アクタス〉が「グッドデザイン賞」を受賞するのは初めてではない。これまでも2019年にはデンマークのデザイナー、セシリエ・マンツと共に開発したオリジナルの食器・カトラリーライン「HIBITO」が、2021年には破棄される家具を引き取り循環させるアクタス独自のシステム「エコループ」が、2022年にはコンパクト家具のライン「good eighty%」とホームオフィスを意識して作られたワーキングチェア「FOUR」が受賞している。
Gマークの普及で一般にも広く認知されるようになった「グッドデザイン賞」だが、創設から60年、時代の変遷とともに「良いデザイン」が指し示す概念も変化してきた。現在の審査基準の中では、「持続可能な社会の実現」や「新たな価値と継続性」といった視点がプレゼンスを増してきている。そうした状況で〈アクタス〉が2024年度に3つのプロダクトで受賞したことは意義深い。長く愛される家具を提供し、その価値観を現代のライフスタイルに届けること。ロングライフなものづくりをする作り手を応援すること。〈アクタス〉が提供するグッドデザインなプロダクトや取り組みが、豊かで持続可能な社会に貢献している。
〈バウハウス〉と〈TECTA〉の名作家具が勢揃い!バウハウスとテクタの名作家具展1919年〜1933年、わずか14年間ながら現在の建築・工業デザインの礎を築き、今もなお影響を与えるドイツの芸術学校〈バウハウス〉。バウハウスデザインに魅了され、その思想を受け継ぐドイツのファニチャーメーカー〈TECTA〉。ヴァルター・グロピウス、ミース・ファン・デル・ローエ、マルセル・ブロイヤーなど名作コレクションのほか、〈TECTA〉のオリジナルコレクションも揃う貴重な展覧会をアクタス・丸の内で開催。もちろん「M21テーブル」も展示される。期間=2月22日(土)〜4月20日(日)場所=アクタス・丸の内時間=11:00〜21:00(日・祝〜22:00)入場無料
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