クリエイティブな人たちは、得てして時間の使い方がうまい。なかでも、1日や2日という短期間で、驚くほど効率的に旅をする人は、セルフマネージメントの達人と言えるだろう。そうした賢人たちの行動例から、週末小旅行のアイデアを学ぶシリーズ。第3回目のゲストは、アーティストの長谷川 愛さん。
TEXT BY ARINA TSUKADA
———長谷川さんはこれまで、ロンドンの美大ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)や、ボストンのMITメディアラボなどに在籍していらっしゃいました。そのころは、どんなショートトリップをされていましたか?
長谷川 ロンドン時代は、友人たちと行くロードバイクの日帰り旅にハマっていましたね。ロンドン市街地から小一時間程度、電車に自転車を乗せて車の交通量の少ない自然豊かな郊外まで出向くのがお気に入りでした。特にロードバイク愛好者が集う巨大公園のリッチモンドパークでは、数キロメートルの道を何周もしたり、毎回心が折れるきつい坂道をのぼったりしていました。
ちなみにこの公園には600頭もの鹿が放牧されていて、ロンドン市内と思えない旅気分を味わうことができます。
ボストン時代は、キャンパスの敷地に沿って流れているゆるやかな川でセイリングを楽しんでいました。このセイリング、学生はなんと無料なんです。ちなみにMITには、射撃、水泳、セイリング、アーチェリー、フェンシングといった体育の授業の単位を取得すると、「海賊証明書(PIRATE CERTIFICATE)」がもらえるというユニークなプログラムがあるのですが、大学院生の私でも取得できたことを後から知って悔やんでいます。
——なかなかアクティブですね! 日本に帰国されてからはいかがですか?
長谷川 踊ることが好きなので、野外フェスや日本の祭りに行きます。祭りのイチ押しは、3日3晩夜通し踊ることで有名な「郡上八幡踊り」。あれは日本の伝統的レイヴパーティと言えます。
野外フェスに行く際のオススメは、BANANAが提供する移動とテント設備がセットになったバスツアー。キャンプ用品がなくても、車が運転できなくても気軽に参加できるので、重宝しています。このツアーはばったり友達と遭遇することもしばしばあるんです。
先日は伊豆のフェスに1泊2日で参加しましたが、朝から夜まで踊った後、バックパックを背負って、タクシー、電車、新幹線を乗り次いでなんとか帰宅。翌朝にはシェアハウスの友人たちと電車に揺られて千葉の稲毛海浜公園まで向かい、ウィンドサーフィンに挑戦するという強行ツアーに出ました(笑)。
その日のスケジュールはこの通り。
09:00 出発、東京駅→京葉線・稲毛浜海岸駅にて下車(所要時間 35分程度)。バス or タクシーで数分程度のビーチへ。
10:00 トリトンウインドサーフィンスクールさんのご指導のもと、サーフィン開始!
12:30頃 お昼休憩、お弁当は各自で持参。
15:00 進行方向を変えたり、ターンができるようになったりと、ようやくコツをつかんでくる。この頃、すでにヘトヘトに。
持ち物 お弁当、水着、タオル、ビーチサンダル、長袖シャツ(日焼け対策)、1日体験スクール代5,000円(要予約)
———ショートトリップへ出るのは、どんな気分のときですか?
長谷川 実は私、20代のころは結構な引きこもりだったんです。でも、30歳になって自分の幸福度や自己肯定感を上げる必要性に直面したとき、「できることが増える」ということが自信につながると気がつき、旅やスポーツを通して経験の種類を増やすことに興味が出てきました。
つまりゲームのように、スキルを自分の体にインストールするのです。セイリング、乗馬、ボルダリング、テニス、ウィンドサーフィン、ロードバイク、キックボクシング、スキューバダイビング……いろいろと試しましたが、それぞれのスポーツに哲学があり、また初めて使う道具や体の使い方に慣れるところから始まるので、世界がどんどん広がっていきます。
アーティスト兼研究者という自分の仕事は、どんな知識がいつどこで役に立つのかわからないので、そのための備えをしているとも言えますね。
——もしいま3日間の余裕があるとしたら、どこへ行ってみたいですか
長谷川 海ですね。スキューバダイビングが一番好きなスポーツなので、今度はアドバンスのライセンスを取りに行きたいんです。それと、私のテーマのひとつに「野性を取り戻す」という感覚があるので、素潜りで魚突きをしてみたい。サーフィン、カイトサーフィンもまだ経験がないので挑戦してみたいです。
——そんな愛さんが、ショートトリップから得られるものとは?
長谷川 達成感、充実感、そして筋肉です(笑)
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長谷川 愛|Ai Hasegawa
アーティスト、デザイナー。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(通称 IAMAS)にてメディアアートとアニメーションを勉強した後ロンドンへ。数年間Haque Design + Researchで公共スペースでのインタラクティブアート等の研究開発に関わる。2012年英国Royal College of Art, Design Interactionsにて修士取得。2014年からはMIT Media Lab,Design Fiction Groupの研究員として活動を続ける。「(Im)possible Baby, Case 01: Asako & Moriga」が第19回文化庁メディア芸術祭アート部門にて優秀賞受賞。
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