ボーネルンドは2022年から食と健康をサポートする明治とともに、子どもの健全な成長を応援する「もぐもぐ+あそぼプロジェクト」をスタートさせました。なぜ異業種の企業が手を取り合うことになったのか、そして今後の展望も含めて、ボーネルンドの中西みのり社長と明治 執行役員の大石昇吾さんに聞きました。
TEXT BY Mari Matsubara
Portrait by Manami Takahashi
「食べる」のプロと「あそび」のプロがタッグを組んだ
——「もぐもぐ+あそぼプロジェクト」は子育てを応援するプロジェクトだそうですね。その一環として、子どもの「あそび」と「食べる」に関わるセミナーや、子どもが楽しめるワークショップなどを2022年7月に開催し、今年の5月には2回目を大好評のうちに終えられました。なぜこのような協業がスタートしたのか、その経緯からお聞かせくださいますか?
大石 さかのぼれば10年ほど前に、粉ミルクなど乳幼児栄養部門を担当していた私の部下が、自分の子どもにどんなおもちゃを与えたら良いのか迷っていた頃にボーネルンドさんが輸入されている知育玩具に出会い、その素晴らしさに感動して、いつかボーネルンドさんとタイアップしたいと言っていたんです。明治は事業を通じて社会課題の解決に貢献していきたいという理念を持っています。明治の乳幼児商品部門では食品業界以外の企業と組むことによって、育児やこどもの成長に関する社会課題の解決に貢献していきたいという願いが高まり、その相手として頭に浮かんだのがボーネルンドさんだったのです。
中西 当時は私の母が社長を務めていましたが、大石さんが直接弊社に連絡をくださって、すぐに担当者同士の話し合いが始まりました。私は2回目のミーティングから参加し、明治さんと弊社の価値観がとても近いということがすぐにわかり、意気投合しましたね。分野は違えども、子どもの成長に真剣に向き合う姿勢や、子どもの未来がどうあればいいかというベースの考え方に共通するものを感じ、ぜひ何か一緒にしたいですね、と確認しあいました。
大石 子どもの成長に特に重要なのは「食べる」「あそぶ」「寝る」「排泄する」の4つだと思います。思いっきり遊んだ子どもはお腹が減るので食事をきちんととることができ、排泄もスムーズにできる。体を動かしてたっぷり遊べば、疲れて夜ぐっすりと眠れる。すべての要素は総合的に繋がっているのですが、「食べる」分野のプロである弊社と、「あそび」の分野で知見をお持ちのボーネルンドさんが一緒になって、子育てを支援するプロジェクトとしてスタートさせたのが「もぐもぐ+あそぼ」でした。
中西 昨年開催した第1回はまだコロナ禍の真っ只中で、出産後に一度もお子さんと外出したことがないお母さまもいらっしゃるほどで、みなさんが子育てに関する正しい情報や、人と対面して得られるリアルな体験を欲していらっしゃる必死さが伝わってきました。今年はそれに比べると、もう少しリラックスした雰囲気になったかと思います。去年よりもあそび環境面を充実させて、楽しく子どもを遊ばせながら大人は安心してセミナーを聞けるようにしました。
大石 弊社からは栄養士が参加して、お子さんの月齢に合わせた食べ物や栄養についてお話をさせていただきました。また今年はそれに加えて、採血なしで血中のヘモグロビン値を測定する「鉄チェック」をあそび場の脇のスペースで実施し、とても好評でしたね。
中西 そう、栄養士さんのお話は発見がたくさんありました。たとえば、乳児には母乳さえ与えていれば大丈夫と考える方も多いのですが、実際には母乳だけでは栄養が足りないということが科学的にもわかっているそうですね。産院でも母親学級でも教えてくれない知識を、このプログラムを通じて得られることは、参加したお母さま方にとって非常に貴重な体験だったと思います。
大石 意外と知られていないのですが、乳幼児に足りていない栄養素の代表格が「鉄」です。鉄は脳の形成に重要な役割を果たしていると言われ、欧米諸国では鉄強化の小麦を使ったパンを推奨するなど、国を挙げて子どもたちの鉄摂取に取り組んでいます。残念ながら、日本ではまだこういった動きはありません。
中西 それは知りませんでした。
大石 弊社では幼児期に大切な鉄をはじめ、亜鉛、カルシウム、ビタミンDを強化した栄養食「ミラフル」シリーズを出しておりますが、お子さんには特に鉄が足りていないということを、セミナーを通じて多くのお母さま方に伝えられたことは、良かったと思っています。
親同士が集まれる「場」の提供こそ大事
中西 栄養学は人間が健康に生きるために欠かせない学問なのに、他の学問に比べるとややマイナーに捉えられがちですよね。心と身体が健康であるという本質的な豊かさにもっと価値を置きたいですし、そういう面でセミナーはとても好評をいただきました。
大石 学びがあることに加え、このプログラムを通じてお母さま同士が出会ったり、対面でレクチャーを受けたり、子ども同士が一緒に遊んだりできるリアルな「場」を提供したことが、何より大事なことだったのではないかと思っています。同じ不安や悩みを抱える母親・父親同士が直接おしゃべりしたり、ちょっとした疑問に答えてくれる専門家や相談相手がいたり、あそびのプロが子どもたちを楽しませたり。リアルなコミュニケーションの機会を創出したことこそが、このプログラムの重要な主眼だったのだと思います。
中西 全くその通りだと思います。お母さま方は初めての子育てに直面し、わからないことだらけで試行錯誤しています。言葉を喋れない赤ちゃんとどのようにコミュニケーションを取ればいいのかわからないという声もよく聞きます。インターネットや雑誌で情報を得ても、それが本当に正しいのか、不安を抱える方もたくさんいらっしゃいます。そうした数限りない心配ごとを発散し、解決の糸口が見つかり、「大丈夫」と思える場所、パパやママたちがゆるやかに繋がってコミュニティが生まれる場所になったのなら、本望です。
大石 そう、最近の親御さん方は自分の子どもが他の子どもより発達が遅れているのではないかと気にし過ぎなのではないかと思います。成長が基準に合致していないとすごく不安に思い、逆に基準をクリアしていれば、それだけで一気に安心しきってしまう傾向にあります。でも、本来はお子さんの特徴をもっとよく見て、それぞれに応じた対処を継続して行うことが大事だと思うのです。食の面では、今日お子さんに食べさせたものがすぐに劇的な効果を発揮するわけではありませんが、長期的に見れば、必ず体の成長に影響を及ぼしているのです。「あそび」の面でもきっと同じでしょう。クリエイティブにあそびを楽しんでいる子と、そうでない子では、すぐには差が見えないでしょうが、時間が経てば確実に違ってくるはずです。
中西 子育ては一生続くと言えるかもしれませんね。長く続くライフステージの一部なのだと捉えるべきなのでしょう。そういう意味でも、明治さんと弊社のコラボレーションは今後も継続していきたいと考えています。両社が同じ志を持って、楽しい子育てを応援することが親御さんたちの希望になり、豊かさにつながる。「子育てって楽しい、人生が豊かになる」と感じる人が増えればうれしいですね。
大石 私の思いも同じです。今後もリアルイベントを東京・大阪を中心に年に2回開催しながら、他の取り組みも考えていきたいですね。たとえば、弊社の幼児用食品を開発する際に、パッケージデザインやキャンペーンのビジュアルなど、ボーネルンドさんにアドバイスいただけたらと考えています。私自身、ボーネルンドさんの玩具を通して、形や色やデザインの重要性について多くを学ばせていただきましたから。また、商品開発の面でも協業していきたいです。ボーネルンドさんが展開しているあそび場に、弊社の「ミラフル」のアイコンである星型を模した大きなクッションを置いて子どもたちに遊んでもらうとか。単なる思いつきですが。
中西 とても素敵なアイデアですね。私たちも既存の屋内あそび場「キドキド」以外に、たとえば不登校の子どもたちのための場所を作ることも視野に入れています。そこにはあそび場だけでなく、飲食をする場所も必要になってきますので、その部分を明治さんに協力していただけないかと考えています。とにかく明治さんは科学的・栄養学的な見地から子どもの成長に何が必要なのかをわかっていらっしゃる企業なので、弊社にはない知識を補っていただけると確信しています。
大石 そう考えると協業できる範囲はとても広いと思います。子どもたちが自分らしく個性豊かに成長していく未来、そして親もまた前向きに楽しく育児ができる未来を、共に目指して活動していきましょう。将来的には「眠る」「排泄する」に関わる団体や企業も招いて、一緒に活動していきたいですね。
中西 ぜひ、長期的な視野で協業を続けていきましょう。
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