1% better than yesterday

「できない」が口癖の子に、親がかけるべき言葉とは?——アレクシー・アンドレ(SONY CSLリサーチャー)の〈学び〉論

これまでも、そしてこれからも、ヒルズはつねにあたらしい東京をつくっていくための活動の場でありたいと考えています。そこで2019年のはじまりに、最前線で活躍する8人の方々に、〈東京を面白く変える才能〉として期待する次世代の担い手たちを紹介するとともに、3つの質問を寄せてもらいました。第1回は「LEARNING」をテーマに、義足エンジニアの遠藤 謙さんが「遊びの研究者として、〈学び〉を自由に開放してくれることに期待!」と推薦する、ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャーのアレクシー・アンドレさんに聞きました。

PHOTO BY Koichi Tanoue

アレクシー・アンドレ|Alexis Andre ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー。確立されたテクノロジーと最先端のテクノロジーを組み合わせ、単なる娯楽でない、人としての真の喜びとたのしさを提供する「未来の遊び」を研究。ISSEY MIYAKEなど異ジャンルとのコラボも多数手がけている。

遠藤 謙さんからの質問
Q1:フランスと日本の教育を比較して面白いところとは?

アンドレ 日本に留学して一番驚いたのは、授業中に寝ている学生が圧倒的に多いことでした。でもその後、日本の教育システムを調べる中で、教育機関にも課題があることがわかってきました。学生を一律平等に扱うのであれば、主体性が損なわれても叱ることはできないでしょう。

日本の教育システムでは、大事なのは学校に「いる」ことで、学校で「学ぶ」ことは期待されていないと思えてしまいます。塾が存在し、卒業の1年前に就職先が決まるのがその証拠です。就職すると「新人研修」がありますが、フランスでは卒業と同時に仕事ができないとそもそも雇われない。そのためインターンや研修などは当然学校のカリキュラムに入っています。

もうひとつの驚きは、日本の学生の「忙しさ」です。いつ誰に聞いても「忙しい、忙しい」と口にする。理由は「部活」でした。フランスでは、学校は授業の場であって、それ以外の活動は学校と無関係。スポーツや音楽や趣味などは学校の外でしかできません。その結果、学校と異なるコミュニティと触れ合って、いくつもの環境に慣れる必要がある。学校に居場所がなくても救いの道を外に見つければいいのです。

一方、日本では学校は「学ぶ場」ではなく「生活の場」のように見えます。さまざまな経験を共にすることで絆を深めていく。たとえば日本では学校の掃除を生徒がしますがフランスでは想像もできません。小さな時から、互いの居場所を理解し協力しあった方が生活の基礎を作りやすい、ということを学ぶのは素敵だと思います。

遠藤 謙さんからの質問
Q2:自分の子どもにはどんな教育をしていきたい?

アンドレ 一番大事にしているのは「自分でいること」です。フランス人と中国人のハーフとして日本で生まれ育つという複雑な環境にいるので、必ず「自分」とは何だろうと自問する時期がやってくる。そのため「他と違ってもいいし、合わせるのもあなたの自由」と、まずは自信をつけさせることから教育を始めています。

次に大事なのが、受動的にさせないこと。流れに乗ることに慣れてしまうと、いざ自分で決めなくてはならない瞬間に動けない。先を読んで、今やっていることの価値を評価しながら、次のステップをどんどん創造できるようになって欲しい。

私が好きなフレーズは「やってみないとわからない」。子どもには「失敗して当たり前」とずっと言い聞かせています。昨今はSNSなどの影響もあり、何をやってもスマートにこなすのが正しいかのように見える。6歳の息子も、他の子に見劣りしそうなことにはチャレンジせず、やってもいないのに「できない」とすぐ口にします。そんな時は「やってみないとわからないよ」と辛抱強く声をかけます。子どもにとって親は最強の存在なので、「できない」という思い込みが間違っていることもあるんだよ、と分からせる役目はとても大切だと思います。

遠藤 謙さんからの質問
Q3:小学校を作っていいと言われたらどんな学校にしたいですか?

アンドレ 基本ルールは、「昨日より今日の自分の方が1%よくなっていること」。必ず何かに挑戦することを日々のチャレンジとします。新しい字を学んだ、カレーの作り方を覚えた、〇年〇組の〇〇さんに話しかけたなど、少しでいいので変わることを習慣づける。その1%を大人になるまで続けていったらすごく面白い展開になるはずです。動き出さない限り答えは下りてきませんから。むしろ「今日失敗したこと」を自慢に思うような環境を作ってあげたい。

私は「遊び」を研究テーマにしていますが、ゲームというのは、無駄なルールの中で意味のないタスクをクリアしていくこと。制約が大好きな人ほど競うとハマるものです。その感覚を、身のまわりの問題解決にもあてはめてみて欲しい。ゲームは必ずクリアできるので、あらかじめ「無理」という概念から解放されている。日々の課題もゲームに見立てて、「無理」なんて存在しないと思って取り組んで欲しいですね。

刺激も増やしたいので、毎週いろいろな職種のゲスト講師を呼び、その人の経験を共有してもらう場も作りたい。それというのも私自身、大学に入るまで今自分がやっているような仕事が存在することなど想像もできませんでした。隣りのパン屋さんがどうやってパンを作るのか。病院の受付の仕事はなんのためにあるのか。そういうことを知ることで、今学校で学んでいることがどこでどう役に立つのか実感してもらいたい。

最後に、「質問はありますか?」という聞き方を先生に禁止します。その聞き方だと、質問をするかしないかの選択が出てきてしまうから。質問があるのは当然で、質問しない選択肢を作るのはおかしい。「どんな質問がありますか?」と聞く方が圧倒的に効果的です。さらに答えはすぐに口にせず、生徒に考えさせること。その質問をきっかけに、自分の力で正解を探っていくスキルやたのしみをつかんで欲しい。

profile

紹介してくれた人——
遠藤 謙|Ken Endo

義足エンジニア/Xiborg代表取締役/ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー。ロボット技術を用いた身体能力の拡張に関する研究に携わる。2014年義足の開発を進める「Xiborg」を設立。

※初出=プリント版2019年1月1日号

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