2024年6月1日、東京・麻布台ヒルズにBMWのブランド・ストア「FREUDE by BMW(フロイデ・バイ・ビーエムダブリュー)」がオープンした。BMWの世界観に合うアートやインテリアの展示からクラフトマン・シップを体感するアトリエ、日本とドイツの文化をつなぐカフェ・バーまで——一見自動車とは関係ないように思えるこの空間は、BMWブランドの「マルチバース」を立ち上げているようだ。
TEXT BY Shunta Ishigami
「ブランド」は変容しつづけている
もはや、企業やブランドがひとつのプロダクトやサービスだけを提供する時代は終わったのかもしれない。
たとえばAppleやNIKEといったグローバルブランドを考えてみよう。彼らは単なるテクノロジー製品やスポーツ用品を販売するだけでなく、ワークショップやイベント、あるいはユーザのライフスタイルへのアプローチなど、プロダクト以外の接点を数多く生み出している。あるいは、ラグジュアリーブランドについて考えてみてもいい。近年多くのブランドは食やアートの領域とのコラボレーションを強化しており、各界のクリエイターとともに新たな体験をつくろうとしている。
MaaS(Mobility as a Service)やSaaS(Software as a Service)など近年よく用いられるようになった「as a Service」という表現もまた、こうした状況を反映するものと言えるかもしれない。プロダクトを売ることをゴールとするのではなく、むしろプロダクトをスタート地点としてさまざまな体験を提供することは今後ますます重要になっていくだろう。
いわばブランドの役目はプロダクトやサービスをつくることではなく、その背後にある「世界」を広げ、人々との接点をつくることにあると言える。現代のブランドは、絶えず変容しながら広がっていくものなのだ。近年注目されている「ファンダム」のような概念もまた、こうしたブランドの変容とともに広がりゆくものだろう。
ファッションやアート、食……ジャンルを問わず、私たちの目の前にあるプロダクトやサービス、体験は「入口」なのだ。その先には広大で豊かなブランドの世界が広がっている。
アートから食まで、多様なブランド体験の場
6月1日に東京・麻布台ヒルズにオープンしたBMWのブランド・ストア「FREUDE by BMW」は、まさに多様化するブランド体験を提供する場となるだろう。「人生に、駆けぬける歓びを」をコンセプトとするこのストアは、洗練された空間の中でBMWの魅力をさまざまなかたちで体感することにより、ブランドをより身近に感じてもらうことを目的としたものだ。
ストア内で提供される体験は、じつにさまざま。BMWのラインナップのなかでも世界的に希少価値が高いモデルや最新モデルが展示されるほか、壁面には大型スクリーンが設置され、没入感のあるデジタル体験が提供される。さらに1階のリテールエリアでは日本初導入となるBMWライフスタイルコレクションのアイテムとして、ここでしか購入することができないジャケットやパンツ、バッグ、シューズなどが販売される予定だ(7月より販売開始予定)。
同じく1階に設置される「CAFÉ & BAR B」は、幅広い利用シーンに合わせてオリジナリティあるメニューを提供するカフェ&バーだ。「ドイツの伝統+日本の食材」を融合するフードやドリンクを提供し、ランチやカフェとしてはもちろんのこと、ディナータイムはバーへと姿が変わり。アルコールメニューも楽しめるようになっている。
さらにBMWのデザイン言語を具現化した全長約8メートルのアートピース「ポータル」が設置された螺旋階段から2階に上がると、よりBMWブランドらしいプレミアムな体験を得られるようになっている。「エクスクルーシブ・ラウンジ」と題されたエリアではBMWの世界観にあった上質なインテリアやアートが展示され、「アトリエ」ではBMWのクラフトマン・シップが体感できる「BMW Individual・オーダー・メイド・プログラム」としてカラー・サンプルやレザー・サンプルを実際に手に取りながら、スタッフによるラグジュアリーなサービスを体感できるという。
極めつけは、完全事前予約制の日本料理レストラン「無題」だろう。東京のミシュラン三ツ星店をはじめ、完全紹介制の有名店で研鑽を積んだ料理人による料理を8席限定のシェフズテーブルスタイルで愉しめるこのレストランでは、従来の日本料理の型に囚われすぎず奇を衒うわけでもない、何者にも染まらない唯一無二の日本料理を味わえる。技術と素材と空間が組み合わさることで生まれる食の場は、まさにBMWのブランド哲学を感じさせる体験へとつながっているだろう(7月オープン)。
ブランド・マルチバースをつないでいくコミュニティ
FREUDE by BMWのコンセプト「人生に、駆けぬける歓びを」は、この場での体験や発見、出会いが来訪者へ歓びをもたらすとともに、新しいチャレンジへ踏み出すことで今後の人生の活力となるきっかけを与えていくことを企図して構想されたものだという。BMWブランドにとっての「歓び(「FREUDE」とはドイツ語で歓びを意味する)」とは、人々の人生に新しい扉を開き、感性に刺激を与え、世界にこれまでにない豊かさを提供することだからだ。
このコンセプトを踏まえて店内のさまざまな体験を見返してみると、その内容やジャンルは異なれど、そのすべてが私たちの感性に刺激を与えてくれるものだということに気づくだろう。言うまでもなくBMWとは自動車メーカーだが、このコンセプトストアはBMWブランドの多様な可能性を示すものでもある。
アートやクラフト、食、デジタルテクノロジー……一見自動車とは関係のないと思われがちだった世界に、BMWのブランドが立ち上がると、どんな光景が広がっていくだろうか? いわば、FREUDE by BMWとは、BMWブランドの哲学をさまざまな形で体現する「マルチバース(多元宇宙)」なのだ。
さらにFREUDE by BMWは、これからこの場を通じてコミュニティを醸成していくことを目指しているという。カフェ&バーは人々が集まる場を生み出すものであり、店内で行われる展示やイベントもまた、人々をつないでいくものだろう。これまでBMWブランドに親しんでいた人にとっては自動車に限らず多様な領域の発見を得られる場であり、クラフトやアート、食に関心をもっていた人々がBMWブランドに接続される場にもなっていく。
この場から生まれたコミュニティはBMWのマルチバースをつないでいくとともに、新しい出会いや発見の終わりのない連鎖を生み出していくはずだ。それは、現代におけるブランドがもつ無限の可能性を示すものでもある。
人生に、駆けぬける歓びを──駆け抜ける場所は、どこだっていい。それはドライブの楽しさかもしれないし、アートに触れる感動かもしれない。美食を堪能する幸福感かもしれないし、誰かと交わす会話の心地よさかもしれない。FREUDE by BMWを訪れた私たちは、自身がまだ知らない歓びの入口に立っているのだ。
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