2021年11月25日(木)にアカデミーヒルズで開催される「Innovative City Forum 2021(以下、ICF2021)」リアルセッション。エマニュエル・トッドのキーノートののち行なわれる「原点からの問題提起」をテーマとした分科会では、働く、学び、信用、都市、経済、観光の6分野で議論が行なわれる。HILLS LIFE DAILYでは、分科会でファシリテーターをつとめる5名の有識者に3つの問いを送付、ICF2021への意気込みを聞いた。第2回は「オルタナティブ」について。それぞれの「新しさ」を尋ねてみた。
Edit by SHINYA YASHIRO
Q:あなたが考える「オルタナティブ」を教えてください 本年度のICFのテーマは「Alternative Visions〜今、考える新しい未来〜」、それぞれのセッションで、原点に戻り未来像を議論します。経済、環境における様々な課題が浮き彫りになるなかで、過去の延長線では対応しきれないことは明確です。ただし、例えば環境問題における「グリーンウォッシング」に象徴されるように、新しい姿勢が主流化し、本質を見失ってしまうことも多いにあります。そこで質問です。あなたが「オルタナティブ」だと思うものと、その理由を教えてください。人物でも、作品でも、都市でも、ジャンルは問いません。
❶ 蓄積されたデジタルログ——川口大司
東京大学 公共政策大学院 / 大学院経済学研究科 教授 担当セッション● 働くの未来像 ~「働く」とは何か?リモートワークがもたらす社会の変容~
伝統的に社会の動きを測定するための手段として政府や民間企業はサーベイ調査を行ってきました。情報を集めるために調査を行ってきたのです。一方で、社会にデジタル技術が普及し日常的な業務のデジタルログが爆発的な勢いで蓄積されるようになっています。これらの情報を上手に集約することで社会経済の動きをより高精度かつ高頻度でとらえることができるようになるはずです。いわゆるオルタナティブデータと呼ばれるものですが、これが主流化していくためには、データがとられた状況を正確に理解しデータが社会のどの側面を切り取ったものであるかを認識する必要があります。様々な角度からとらえた情報を統合し社会経済の動きを精確に測定するという本質的な目標を見失わないことが重要です。
❷ 問いとしての「お金」——小池藍
GO FUND, LLP 代表パートナー / 京都芸術大学 専任講師 担当セッション● 信用の未来像~アートと市場と共感の新たな関係~
私自身、投資家という職業柄かもしれないが、何度もその存在意義を考えては何周も答えが行ったり来たりしているものがある。それは「お金」だ。そして、オルタナティブなものとして「お金」を敢えて挙げたいと思う。種類が増え続ける仮想通貨や、そもそも信用、そういったものが注目される世の中で、また、富が増え格差が開き続ける一方の状況下で、お金の存在は一体いつまで続くだろう、という問いがある。
早々にでも取って代わられるのではと思ったが、NFTやメタバースなどの登場で、生きる世界が変わっても尚、人間が主体である以上、通貨そのものは消えないのではという方向に最近また傾いている。世界中の人が共通して使用している最も普及しているものだからこそ、お金の行く末は一大事であるし、やはり答えはとても難しい。
❸ 自然を他者として扱う試み——太刀川英輔
NOSIGNER代表 / デザインストラテジスト担当セッション● 学びの未来像~これからの社会に求められるクリエイティビティとは何か?~
僕自身はグリーンウォッシング自体が問題だとは思いません。するつもりのない人が必要性を認識しただけのことですし、あらゆる角度で更新が必要な中で、わずかな意識の変化でも積み重なれば大きくなる可能性を信じるからです。変化にブレーキをかける力はそれ自身がリスクです。しかしソーシャルインパクトのないものを肥大化して見せる事は問題を先送りするだけなので、インパクト評価の仕組みの方が問われるでしょう。
共生社会を実現する様々なトライアルが必要になりますが、最も重要な変化は私たち自身の常識の更新です。
その意味で僕は自然を他者として扱う試みに注目しています。例えば2017年にニュージーランド政府がアワ・トゥプアという「川に人権を認めた」法律の制定や、2019年にベルギーで始まった樹木の健康をセンサーでネットワーク的に可視化する「インターネット・オブ・トゥリーズ」は、コンセプトこそ違えど、私たちと自然の間に新たな関係性をもたらすためのオルタナティブな仕掛けだと感じます。
❹ 不条理な世界観が示すもの——塚田有那
編集者 / キュレーター担当セッション● 観光の未来像~体験価値と消費の新たな関係~
古代の神話。世界各地にある土着の神話は、いまの人間と環境世界との関係を捉え直すうえで、とても示唆に飛んだオルタナティブなメッセージを与えてくれるものだと思います。たとえば世界各国に存在する「ハイヌウェレ型神話」では、女の体や排泄物から五穀などの食の恵みがもたらされるといった構造が度々登場します。生き物の排泄物が循環し、食のタネが生み出される。こんな当たり前のことを忘れている現代の私たちにとって、神話のもたらす一見不条理な世界観は、オルタナティブな未来像を示してくれるのではないでしょうか。
❺ 世界を変えることを目指す——葉村真樹
ボストン コンサルティング グループ(BCG)パートナー&アソシエイト・ディレクター担当セッション● 都市の未来像~距離と密度の価値の再定義~
オルタナティブは破壊的イノベーションのメインストリームの中に存在する、と私は考えます。例えば、過去の延長線上にはいないサービスやプロダクトを提供している企業です。検索エンジンを提供して世界中のあらゆる情報を入手できるようにした企業、電動自動車の市場を先導することで世の中のエネルギーに対する考えを大きく変えるきっかけをつくった企業、地方のへき地でもモノを売ったり買ったりをすることを可能にしたEコマースの企業。
これらの企業の多くは四半世紀前には存在しなかった企業ですが、最初に手掛けた事業の「持続的なイノベーション」は脈々と続けながらも、さらに次々と「破壊的イノベーション」に投資を行い、より良い未来を作ろうとしています。
持続可能な世界の実現、というときに、「飛行機は二酸化炭素排出量が多いからヨットで移動する」のようなback in the good old days的な営みが称賛される傾向がありますが、それもまた「グリーンウォッシング」であると私は考えます。なんとなく「環境に良いことやっている」という自己満足を満たしてくれるだけの代物に過ぎないように思います。
世の中を変えて、新しい未来を作るには「スケールさせること」がマストです。だから、今は小さくともスケールさせることで世界を変えることを目指しているのであれば、それはオルタナティブであると私は考えます。民泊をはじめた企業や、プラントベースミートを開発する企業……これらの破壊的イノベーションのメインストリームに躍り出てきた企業たちもまた、オルタナティブであると考えます。
● ICF2021ファシリテーター5名に聞く[全3回] → Q1:いま求められているイノベーションとは? → Q3:学問がもつ「価値」とは?
#academyhills #Innovative City Forum #六本木ヒルズ
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