2021年11月25日(木)にアカデミーヒルズで開催される「Innovative City Forum 2021(以下、ICF2021)」リアルセッション。エマニュエル・トッドのキーノートののち行なわれる「原点からの問題提起」をテーマとした分科会では、働く、学び、信用、都市、経済、観光の6分野で議論が行なわれる。HILLS LIFE DAILYでは、分科会でファシリテーターをつとめる5名の有識者に3つの問いを送付、ICF2021への意気込みを聞いた。第1回は「イノベーション」について。2020年代に求められる変化のあり方を尋ねてみた。
Edit by SHINYA YASHIRO
Q:いま求められているイノベーションとは? Innovative City Forumは、2013年に六本木ヒルズの10周年の節目にスタートしました。10年近い月日がたち、トランプ政権、コロナ禍などの大きな変化も経た現在は、破壊的イノベーションが求められる時代が終わりつつあるようにも感じます。どのようなイノベーションが、いま求められていると思いますか?
❶ 実装のために変えるべきは社会制度——川口大司
東京大学 公共政策大学院 / 大学院経済学研究科 教授 担当セッション● 働くの未来像 ~「働く」とは何か?リモートワークがもたらす社会の変容~
新しい技術を有効に活用できる社会制度のイノベーションが最も求められていると思います。在宅勤務を支える情報通信技術は以前より開発されていましたが、コロナ禍という大きなショックが到来してはじめて普及しました。新しい技術に労務管理の仕組みがついていっていなかったためです。
また、日々蓄積されるデジタルデータを用いれば、様々な基礎研究やビジネス応用が可能ですが、個人情報の保護を担保する社会的な仕組みが未成熟であるため、データ提供に対する信頼感が醸成できず、そのポテンシャルを十分に生かしきれていません。新しい技術を社会に実装するにあたっては、技術を取り巻くルール、慣習、人々の考え方など社会制度を意識的にイノベートしていく必要があります。
❷ 求められる『他者と違うこと』『多様性』『唯一無二』——小池藍
GO FUND, LLP 代表パートナー / 京都芸術大学 専任講師 担当セッション● 信用の未来像~アートと市場と共感の新たな関係~
今から求められるのは「物語を紡ぐ機能を持ったイノベーション」。これまでは効率化、簡略化がイノベーションの一番の目的だったと思うが、効率化がある程度達成され、人は今、「他者と違うこと」「多様性」「唯一無二」などを求めているように感じる。
それを実現するイノベーションとして、例えば「NFT(Non-Fungible Token・非代替性トークン)」などはホットなテーマだ。NFTは、コピー可能が当たり前のデジタルデータの世界で、唯一無二を担保するデジタル鑑定書の機能を果たす。デジタルデータであっても、その来歴などどういった経緯で存在しているのか、コピーとの違い、などを証明することができるのだ。用途は様々だが、デジタルの世界でのNFTの本丸の活用は、メタバース(仮想三次元空間)世界でも現実世界のように固有の資産を持ち、資本活動が可能となることではないかと思う。
❸ 人間社会は生命的なシステムの一部である——太刀川英輔
NOSIGNER代表 / デザインストラテジスト担当セッション● 学びの未来像~これからの社会に求められるクリエイティビティとは何か?~
21世紀の中頃によもや文明の危機が明確に示されている現在、この30年のマーケットを取るかどうかよりも、本当に人間社会が持続できるのかを考えるべきです。生命的なシステムの一部としての人間社会をとらえるイノベーションが様々な形で必要になるでしょう。
例えば都市の防災においても、今までのように壁を強くするようなロバストな仕組みだけではダメで、自然界のようなフィードバックシステムや柔軟性、回復性を持った仕組みの構造が必要になるはずです。
こうした生命的観点は具体も抽象も含めてすべての領域に関わるため、私たちの創造的な知を更新する必要があります。そのため僕は生物進化から創造性を学び直す進化思考を提唱しています。
❹ 近代社会が築いてしまったいびつなシステムを変える——塚田有那
編集者 / キュレーター担当セッション● 観光の未来像~体験価値と消費の新たな関係~
これからの「イノベーション」に求められるのは、経済的な発展への過度な期待をやめること。そして従来の近代社会が築いてしまったいびつなシステムを変えることが、真の意味での「イノベーション」だと思います。
地球温暖化をはじめとする環境問題は深刻化し、人種差別がはびこり、いまだにジェンダー指数120位から上がる気配すらない日本において、改革すべき余地は大いにあります。もっといえば、変革すべきは、自分たち自身の心の内側なのかもしれません。
❺ 持続的イノベーションだけでは、人類の未来は立ち行かない——葉村真樹
ボストン コンサルティング グループ(BCG)パートナー&アソシエイト・ディレクター担当セッション● 都市の未来像~距離と密度の価値の再定義~
「破壊的イノベーションが求められる時代が終わりつつある」どころか、むしろ「ますます求められる時代が来ている」と考えます。「破壊的イノベーション」を最初に提唱したクレイトン・クリステンセンの言に従うと、「既存の市場競争の秩序を根底から破壊し、既存企業のシェアが大幅に低下するほどの影響を与える革新的なイノベーション」です。そして、私たちの生活はそれによって多くの利便性を享受してきました。
もちろん、その「破壊」の過程で、「既存の市場競争」の構成員であった企業や人々は、「破壊される側」としての痛みを背負うことになります。しかし、それと同時に、現在直面している気候変動問題を含め、多くの課題に人類が対処する上では、今ある「既存のもの」を改善するだけの「持続的イノベーション」では、人類の未来は立ち行かなくなっているということもまた現実です。
そうした中、2021年以降求められるイノベーションとは、今では当たり前とみられている「過去からの延長線上にある既存のもの」を従来の役割から退場させる「破壊的イノベーション」はますます必要となるとともに、退場せざるを得ない「既存のもの」について新たな役割を与えるような価値転換によるイノベーション(例えば「灯りとしての蝋燭」から「アロマキャンドル」のような)が求められるでしょう。それを、ロベルト・ベルガンティは「意味のイノベーション」と呼んでいますが、まさにこのようなイノベーションもまた求められていると考えます」
● ICF2021ファシリテーター5名に聞く[全3回] → Q2:あなたが考える「オルタナティブ」を教えてください → Q3:学問がもつ「価値」とは?
#academyhills #Innovative City Forum #六本木ヒルズ
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