"ERROR" CHANGE THE WORLD

人間の“今”がある場所「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」へ行こう!

世界最大規模のメディアアートのフェスティバル「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」が、今年もオーストリアの都市・リンツで9月6日から10日まで開催される。今回のテーマは「ERROR - The Art of Imperfection(エラー 不完全性のアート)」だ。アルスエレクトロニカ・フェスティバルって何? から、行きたくなったらすぐに活用できる、ビギナーズガイドまでを紹介する。

TEXT BY AKIHICO MORI
PHOTO BY FLORIAN VOGGENEDER
©Ars Electronica

アーティストが知覚する「人間の“今”」

昨年は約10万人を動員した、世界最大級のメディアアートの祭典として知られるアルスエレクトロニカ・フェスティバルには、アーティスト、科学者、起業家、社会活動家が世界中から集まる。そこでは、最先端のサイエンスやテクノロジーの知見を結集したアート作品に触れることができる。その特性ゆえに、しばしアート系の「テック・カンファレンス」のようなものだと捉えられることも多い。しかしその本質は、アーティストの感性が知覚する「人間の“今”」に触れることができる場だ。

例えばトルコのアーティスト、レフィック・アナドル(Refik Anadol)によるインスタレーション作品「アーカイブ・ドリーミング」。トルコ・イスタンブールにある文化施設「SALT リサーチ」に所蔵されている1,700万点の資料に対し機械学習アルゴリズムを導入し、検索および資料間の関係性を整理するプロセスをビジュアライズした作品で、昨年のフェスティバル「Artificial Intelligence – The Other I」で展示された。上下左右の全壁面に投射される映像の中に“没入”し、コントロールデバイスを通して“データの海”の中にダイブできるような感覚を味わえる。

上の作品は、実際のライブラリーに所蔵されているデータをもとにつくられた作品だが、21世紀における新しい都市機能としてのライブラリー、ミュージアムの形を提示している。つまり、資料を貯蔵し市民が閲覧できる施設ではなく、高度なAIが、大量の資料の中から人類の知りえない知識を掘り起こすようなライブラリーやミュージアムの在り方だ。そんな未来、ライブラリー、ミュージアムはAIによって新しい知識を創造する場所になるかもしれない。人間は今、そんな未来を目前にしているということを、この作品は伝えている。

こうした、サイエンスやテクノロジーの知見、アートの感性が交差する表現によってこれからの人間社会に何が起き得るのか、何が問題となるのかを提示するのがアルスエレクトロニカ・フェスティバルの醍醐味だ。

期間中は広大な展示会場である「ポストシティ」における作品の展示はもちろん、アーティストと交流できるイベントや、世界各国の有識者を呼んで開催されるカンファレンスなど、開催されるイベントは500を超える。

不完全な人間と、完全な機械。「エラー」が共存の鍵に

今年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルが掲げるテーマは「エラー」。私たちは今、進化するテクノロジーとそれが引き起こすさまざまな社会問題に対し、漠然とした違和感や不安を感じながら生きていることは周知の事実だ。

ソーシャルメディアは世界を繋ぐネットワークになった。地球の裏側にいる友人の「今」を手のひらで共有できる。その一方で、先のアメリカ大統領選挙では、アメリカから何千キロも離れた国から発信された「フェイクニュース」がソーシャルメディア上でバイラルし、アメリカの世論に影響を与えたことが社会問題化した。

現在のAIは、特定の領域では人間の知能よりも優れた、非常に高度で知的なパフォーマンスを発揮することができる。都市の運営を最適化し、囲碁の世界チャンピオンを打ち負かし、画家・レンブラントの“新作”をも生み出すことができる。他方、社会実装が進む自動運転の死亡事故における責任の所在をめぐっては、未だに説得力のある答は出ていない。

アルスエレクトロニカのアーティスティック・ディレクター、ゲルフリート・ストッカーは、5月に開催された「Future Innovators Summit TOKYO」のために来日した際、今回のフェスティバルの意義に触れながら以下のように話している。

「人間と機械の違いは不完全性にあります。機械は常に完全性、すなわち最適化を志向し進歩してきました。一方で人間は、生命現象、その文化ですらも、数多くの不完全性、つまりエラーの上にこそ成り立っている。それは地球生命の35億年の歴史や、人間の20万年の歴史を振り返ってみれば明らかです」

メディアアーティストで、1995年からアルスエレクトロニカ総合芸術監督を務めるゲルフリート・ストッカー。PHOTO BY Tom Mesic

人間は、完全な機械の創造を夢見てきた。そうして進歩した機械は人間を幸せにするはずだった。しかし実際には、機械は人間をより幸せにもし、不幸にもする。今年のアルスエレクトロニカ・フェスティバルがどんなものになるのかは想像の域を出ないが、このパラドクスに対し、何らかの発想の転換を迫るものが提示されることを期待したい。それは、私たちの私生活から、産業の在り方までを考える上で、大きなヒントになるだろう。

アルスエレクトロニカセンター内にある、壁面と床面に16m x 9mの8K映像を投射できる「Deep Space 8K(ディープスペース8K)」。PHOTO BY Florian Voggeneder

アルスエレクトロニカ・ビギナーズガイド

リンツ市内、ボルガ川に次いでヨーロッパで2番目に長い河川「ドナウ川」のほとりにあるアルスエレクトロニカ・センター。PHOTO BY Robert Bauernhansl

では続いて、ビギナーズガイドとして、最初のアルスエレクトロニカ・フェスティバルの楽しみ方を紹介しよう。

1. 宿泊先の確保と服装

まず重要なのは宿の確保だ。10万人を動員するフェスティバルの期間中、小さな都市であるリンツの宿泊施設はあっという間に予約で満室になる。宿の確保は早めに行うことを強くオススメする。「エア・ビー・アンド・ビー(Airbnb)」には安価な宿泊先が多数あり、活用すると良いだろう。

理想としての宿泊場所は、主要な展示会場であるポストシティと、常設展などがあるアルスエレクトロニカ・センター両方へアクセスしやすいエリアだ。地図で確認しながら宿泊先探しをしてみよう。

また、現地での服装だが、期間中のリンツの気候は日本の晩秋に近い。昼間は半袖で十分な日も多いが、夜は冷え込むことも多いため、ジャケットなどのアウターも準備したい。

2. チケットとガイドツアーの手配

次に旅程に合わせてチケットを手配しよう。アルスエレクトロニカ・フェスティバルのオフィシャルサイトにはさまざまな種類のチケットがあるので事前に最適なものを手配しよう。複数ある展示会場は1日ではとても回りきれないため、ゆっくり楽しむためには最低でも2〜3日程度は確保しておきたい。また、ポストシティ1階の一般展示エリア、および「u19 CREATE YOUR WORLD」は無料で入ることができる。

はじめての人にはガイドツアーである「WE GUIDE YOU tours」がオススメだ。別途チケットが必要になるため、期間中に現地で手配しよう。

3. ナイトライフ、フード・ドリンクの調達

期間中は連日、コンサートや音楽パフォーマンスがあり、ナイトライフも楽しめる。「アルスエレクトロニカ・ナイトライン(Ars Electronica Nightline)」、デジタルミュージックとサウンドアートの「ソニック・サタデー(Sonic Saturday)」、オーケストラによる「ビッグコンサート・ナイト(Big Concert Night)」などをスケジュールに合わせて楽しみたい。別途チケットが必要な場合があるため、事前にオフィシャルサイトでチェックしてほしい。

フードやドリンクについては会場内でも調達可能だが、割高な上に長蛇の列に悩まされることが多いと覚えておこう。ペットボトルの水などの必需飲料水については会場に入る前にキオスクなどで調達するのがベター。また、リンツ市内の飲食店情報は「Yelp!」などのアプリを使うのがオススメだ。

期間中はビッグコンサート・ナイトなど、さまざまなイベントが開催される。PHOTO BY Tom Mesic

4. 日本からの空路はウィーン経由がお得

東京からリンツ空港へのフライトが展示会場へのアクセスもしやすいが、費用面を考えると、同じオーストリアにあるウィーン国際空港から鉄道を使ってリンツへ移動する方がお得だ。

フライトは「スカイスキャナー(Sky Scanner)」などのアプリを、鉄道は「ÖBB」のウェブサイト使って調べよう。とくに鉄道のチケットは「ÖBB」を使って調達した方が、少々扱いにくいインターフェイスを除いては利便性が高い。国内外から大量の列車が発着する主要駅でモニターを見ながら慣れない券売機を操作するのは非常に面倒だからだ。車内で「切符を拝見」と訪れる車掌にはスマートフォンの画面を見せるだけでいい。

5. ウィーン観光

旅費が浮いて、回り道をするのだから、ウィーンの観光も旅程に組み込んではどうだろう? かつてハプスブルク王朝の帝都でもあったウィーンには非常に多くの美術館や博物館がある。ヨーロッパ有数の美術館「ウィーン美術史博物館」はルーベンスやブリューゲルなどの画家の巨匠たちの豊富なコレクションを展示する。ちょうど対面にある「ウィーン自然史博物館」も、貴重な恐竜の骸骨や鉱石などが展示されており、見応えがある。

よりコンテンポラリーなアートに触れたければ、「オーストリア応用美術館(MAK Vienna)」などを訪れると良いだろう。ちょうどフェスティバルの期間中はオーストリアの建築家オットー・ワグナーの展示「POST-OTTO WAGNER:」展が開催されている。

また、画家・建築家として知られるフンデルトヴァッサーの設計による美術館「クンストハウス・ウィーン」もウィーンに初めて行くならば訪れたいところだ。日本ではなかなか見ることの出来ないフンデルトヴァッサーの建築、そして作品の常設展のほか、随時開催される企画展もチェックしたい。

また、ウィーンはジュリー・デルピーとイーサン・ホークが主演する名作映画『ビフォア・サンライズ』のロケ地として知られる。同作をすでに見たことがある人は、映画のシーンを街のいたるところに感じることができるだろう。

アルスエレクトロニカ・フェスティバルの期間中は気候も穏やかで過ごしやすい。期間の前後に隣国のスイスやイタリアへのショートトリップを楽しむのも良いだろう。

※ 参考資料
FIS TOKYO report #1 Opening_ 東京が「未来のラボ」になる日
Error – The Art of Imperfection


森 旭彦|Akihico Mori
サイエンス、テクノロジー、アートに関する記事をWIRED日本版、Forbes Japan、MIT Technology Review、boundbawほか、さまざまなメディアに寄稿している。最先端のサイエンスやテクノロジーと現代のコンテクストを、インタビューを通し伝える記事を多数執筆している。近年はメディアアートへの関心から、オーストリア・リンツにあるアートセンター「アルスエレクトロニカ」に関する記事を執筆している。AETI(Ars Electronica Tokyo Initiative)の活動にも関わっている。