
東京の中心にありながら、緑あふれる環境の中に建つ麻布台ヒルズ。ここでしか味わえない、麻布エリアの花々から採れた蜂蜜があることをご存知だろうか? その名も「東京 麻布のはちみつ」は今年で3回目のリリースとなる。こうした都市養蜂の魅力と意義、そこから見えてくる街と自然の在り方を、実践者である蜂蜜専門店「L’ABEILLE(ラベイユ)」の代表取締役・白仁田雄二さんに聞いた。
PHOTO BY RYUICHI ADACHI
TEXT BY YOKO FUJIMORI
EDIT BY AI SAKAMOTO
大都会の豊かな森でスタートした蜂蜜づくり
毎年8月3日の“はちみつの日”を記念して登場する、麻布台ヒルズ限定の「東京 麻布のはちみつ」。販売するのはヒルズ内のガーデンプラザにショップを構える蜂蜜専門店「ラベイユ」。東京・荻窪の本店をはじめ全国に18店舗を展開し、単花蜜(ミツバチが一種類の花から集めた蜜のこと)だけで50種類以上という世界でも類を見ない品揃えを誇る蜂蜜のオーソリティーだ。

〈サントリーホール〉の屋上につくられた3段構成の庭園〈ルーフガーデン〉。桜坂通り側にハチの巣箱が置かれている。*植物・野鳥保護等のため、一般公開は春と秋のみ。
第一人者が惹かれた麻布台ヒルズとアークヒルズの魅力
「ラベイユ」は都市における人と自然、そして生き物の共生を目指し、日本各地の都市部で養蜂を行う「都市養蜂」を実践する第一人者としても知られる。東京・日本橋を皮切りに現在、全国7カ所の市街地に養蜂箱を設置しており、その活動を牽引するのが代表取締役の白仁田雄二さんだ。
白仁田さんは麻布台ヒルズの緑豊かな街づくりの構想を知ったときから、ここでの出店と都市養蜂に魅力を感じたという。ただ、麻布台ヒルズの植物はまだ植えられて間もなかったため、界隈の採蜜に最適な場所として選んだのが、麻布台ヒルズからほど近いアークヒルズの屋上庭園〈アークガーデン〉だった。

〈ルーフガーデン〉上段の花壇はビル屋上から見ても映えるよう、英国の国旗「ユニオンジャック」をモチーフにデザインされている。取材時の7月上旬、花壇にはフロックスやマリーゴールドなどが咲いていた。
距離にして麻布台ヒルズから徒歩10分ほど。「アークヒルズには、開業から約40年もの間、大切に育てられ大きく成長した木々があり、四季を通じて花が咲くようさまざまな植物が植えられています。そして何より、養蜂箱の設置場所のすぐ近くに桜の名所・さくら坂がある。これ以上理想的な環境はないと思ったんです」

〈ルーフガーデン〉に面する、約150本のソメイヨシノが植えられたさくら坂。春には薄桃色のトンネルをつくる都内有数の桜の名所だ。
歴史ある屋上緑化の空間が、養蜂に最適な森に
1986年、日本初の民間による大規模開発として誕生したアークヒルズは、都市における緑と人との関わりの必要性を唱え、「屋上緑化」に取り組んだ先がけでもある。当時はヒートアイランド現象の緩和を目的とした常緑樹と芝生のみの植栽だったが、10年後の1996年からは園芸家の杉井明美さんが造園を担当。〈アークガーデン〉と名付けられた敷地内の4つの庭には約40,000本の樹木と5,000株以上の草花が植えられ、多数の野鳥が生息する豊かな森となっている。その中の一つ、さくら坂に面した〈ルーフガーデン〉が巣箱の設置場所に選ばれた。
「桜の季節にこの巣箱の蜜をしぼると、ほんのり桜の香りがするんです。日本ならではの本当にえも言われぬいい香りで。蜂蜜を味わいながら、“これはどこで咲いている花の蜜だろう?”と身近に想像できるのも、都市養蜂の醍醐味です。花の存在を意識することで、お客様に“蜂蜜は花から採れている”という根源的なことを実感していただけますし、この自然が守られてこその産物なんだ、ということも伝えられるのではと思っています」

ルーフガーデンに立つ白仁田雄二さん。奥にアークヒルズの高層ビル群が見える。「アークガーデンを初めて見学した時、この豊かな自然環境にワクワクしました」(白仁田さん)
ミツバチの存在の大切さを伝える
白仁田さんは、先代から事業を引き継いだことを機に、フランスの養蜂協会会長だった故ガブリエル・ペルノー氏とイタリアの養蜂業界の重鎮であり、蜂蜜ソムリエのカルミネ・アルヴィノ氏という2人の師から高品質な蜂蜜の基準やそれを可能とする養蜂を学んだ。2001年に「ラベイユ」をスタートし、以来24年、「ワインと同じように酵母が生きているのだから、温度管理をして採れたままの美味しさをお客様に届けなさい」という師の教えを守り続けている。
そして、蜂蜜の買いつけにフランスやギリシャ、オーストラリアのタスマニア島など世界を飛び回り、息をのむほどに美しい花畑や森に出合ううち、「この風景を見た者は、その自然を守らなければならない。そしてその素晴らしさをお客さまに知っていただかなくてはならない」という使命感を強く抱くようになったという。
「世界の食糧の9割を占める上位100種の作物のうち7割以上、つまり人類の食糧の約2/3がミツバチによる花粉媒介によってできているわけですから、自然やミツバチ、そして養蜂家の存在の大切さをきちんと伝えていきたい。都市養蜂はこうしたポリネーション(植物の受粉媒介のこと)に気づく大きなきっかけになりますし、この麻布台ヒルズとアークヒルズでのプロジェクトでは、ミツバチの営みと自然のサイクルが学べ、間近で見て、体験して、味わえることができる意義ある活動だと思います」
都会はミツバチにやさしい仕事場!?
白仁田さんのお話でとても興味深かったのは、都市養蜂での蜂蜜の採蜜量だ。大都会はミツバチにとってストレスフルな環境なのでは?なんて考えも浮かんでしまうが、実はその逆の場合もある。採蜜量は、自然豊かなカントリーサイドを上回ることもあるのだとか。
「ミツバチの天敵はスズメバチと農薬です。都市部よりも農業の生産地の方が、その両者の存在が大きいんです。3万匹が暮らす巣箱1箱がスズメバチ数匹で全滅してしまいますから、その脅威がないだけで、ミツバチはのびのびと蜜を集めることができる。また都心の場合、蜜を集めてくる2~3㎞圏内には皇居や浜離宮、上野公園といった公園が多く、自然環境への配慮から農薬も可能な限り抑えられています。公園や皇居など、花が途切れないよう計画的に植えられていることも養蜂家にとってポジティブな要因の一つですね。収穫できる蜜の量は巣箱1箱で平均24kgほどですが、場所によってはその2倍以上採れることもあるんですよ」
ワークショップで蜜しぼりを体験
こうしてミツバチが都会で集めた蜂蜜を子どもたちに体験してもらうため、アークヒルズや麻布台ヒルズでは定期的にワークショップを行なっている。今年5月・6月にはアークガーデンの豊かな自然をフィールドに活動する「アークヒルズ キッズコミュニティ」主催の「GREEN WORKSHOP」に、特別ゲストとして「ラベイユ」チームが参加。ガーデンにミツバチが喜ぶ植物を植えたり、蜜をしぼったりと、食の循環を学べる内容が好評を博した。8月にはキッズ向けに「みつろうキャンドル作り」も開催予定だ。
「麻布のはちみつ」コラボレーションメニューが登場!
さらに今夏は、8月2日の「東京 麻布のはちみつ」の発売を記念し、麻布台ヒルズのカフェやドリンクスタンド5店舗とコラボレーションした特別メニューが登場。白仁田さんが「中には桜の花の風味を感じられるものもあり、麻布の蜂蜜はおいしいですよ!」と語る自慢の新蜜を、スイーツとともにぜひ味わってみてほしい。

「Balcony by 6th(バルコニー バイ シックス)」のシグネチャー「6thパンケーキ」に、「東京 麻布のはちみつ」を使ったスペシャルメニューが誕生、2,500円。8月2日より、同店のほか「ペリカンカフェ」「麻布台ヒルズカフェ」「キオスクLANTERN」「キオスクSTAND」で展開される。

2025年の新蜜、「東京 麻布のはちみつ」は8月2日から販売スタート! 香りよくフルーティーで、とろりとした質感をぜひ味わって。写真は36g 1,728円、ほかに125g 5,400円も。
最後に、全国で手がける都市養蜂の中でも格別の思い入れがあるという麻布台ヒルズとアークヒルズについて、今後の展望を聞いたところ、キラキラと瞳を輝かせた白仁田さんからこんな答えが返ってきた。
「今後、植物が育って麻布台ヒルズに巣箱を置ける日が来たら、一つの街区の中に桜をはじめ豊富な蜜源植物があり、そこからミツバチが蜜を採り、できあがった蜂蜜を味わう場所(店)がある。さらに柑橘類の樹をミツバチが花粉媒介して実をつければ、その果実と蜂蜜を使ったメニューをつくることもできる。こうしたミツバチと自然のサイクルを、一街区で体験できるのは世界的に見てもほぼ例がありません。こうした麻布台ヒルズ、そしてアークヒルズの例は、世界に先がけた都市養蜂のモデルケースになり得ると思っています」
都心に設けられた豊かな自然環境とともに広がっていく、都市養蜂の可能性。果樹や植物たちの成長が、今後の「麻布のはちみつ」にどんな味わいをもたらすのか、楽しみだ。

白仁田雄二|Yuji Shironita
大学卒業後、東京YMCA職員を経て、1994年、田頭養蜂場に入社。2000年、代表取締役に就任。01年に蜂蜜専門店「ラベイユ」を立ち上げ、東京・荻窪に1号店をオープン。SDGsの観点から百貨店などの屋上を活用した都市養蜂や、蜂蜜の食文化の普及を精力的に行っている。
※ 2025年8月現在の情報となります。
※ 表示価格は全て税込価格です。
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