蕎麦を食べる前に、日本酒を嗜みながらゆったりと味わうおつまみ——それが、「蕎麦前」。江戸時代から続くそんな王道の流儀を、気兼ねなく、そして美味しく楽しめるヒルズの名店3店をご紹介します。
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❶ 蕎麦屋の定番に、イノベーティブ和食の“驚き・美味しさ”をプラス——蕎麦前 山都
蕎麦屋らしいおつまみ「そば味噌、板わさ、鴨わさ」(手前3品)に加え、『山都』ならではの「メンマ、ポテとマカ」(奥側2品)の全5品。やはり「定番蕎麦前盛」(¥1,800)は、ここに来たらはずせない。それぞれ単品注文も可。
和牛のイチボ部位を低温調理。蕎麦つゆに使う、かえし(出汁醤油)を効かせながら、品のある味わいを目指した。トッピングの山わさび(ホースラディッシュ)、そばの実、刻んだ青ネギを肉でくるりと巻き、そのまま食したい。「たっぷり山わさびと和牛ローストビーフ」中70グラム¥2,800、小40グラム¥1,680。
たらこのほんのりとしたピンクと、青海苔のカラーコントラストが鮮やか! 六本木ヒルズ店でお勧めメニューとして登場したものが、満を持してグランドメニュー化。塩気が程よく、熱燗との相性も抜群。「一本たらこの磯辺天ぷら」¥1,300。
『山都』イチオシ銘柄は、冷酒「伯楽星 純米吟醸」(180㎖ ¥1,200)。燗酒「菊姫にごり酒」(180㎖ ¥1,000)。ほかにも日本各地の厳選地酒が10種類以上ラインナップし、日本酒党を飽きさせない。四合瓶ボトルのオーダーも可。
『山都』のスペシャリテ「焙煎黒カレーつけそば」¥1,500。従来は「黒カレーつけそば」として人気を博してきたが、改めて製法を見直し、スパイスを焙煎することでオイル状として、サラリとした新食感を生み出した。このグレードアップした蕎麦を、是非お試しあれ!
「蕎麦前」でお酒を楽しむことを提案し続けて20年。『蕎麦前 山都』は、蕎麦屋ならではの“蕎麦つゆ”、“蕎麦の実”を起点としたレシピに加え、和食料理の洗練された技術とアイデアで、現代の「蕎麦前」を繰り広げている。中でも『山都』の蕎麦前は気品に溢れているところが、居酒屋メニューと異なるところ。ポテトサラダ、マカロニサラダといった家庭的な料理でも、味がキュッと引き締まっていて、背筋がスッと伸びる感覚だ。肩肘張る必要はないが、砕けすぎずにスマートにお酒を飲むのにぴったりである。そして独りでお酒と向き合うのにも最高な空間であることをお伝えしたい。
そんな『山都』で是非頼みたい日本酒が、宮城県の「伯楽星 純米吟醸」だ。このお酒は“究極の食中酒”との評判通り、お酒が「蕎麦前」に伴走するように寄り添い、なおかつしっかりとした味わいで魅了する。渡邊店長曰く、「どのタイミングでも最高に料理と合い、(お酒が進んできた)3杯目でも、(はじめて口にするような)美味しさを感じていただけるはず。お酒が負けることも、お酒だけが勝ってしまうこともないんです」と、ベタ褒めだ。そして冬の燗酒として提案しているが、石川県の「菊姫うすにごり」。にごり酒特有のボリューム感は、燗にすることで膨らみが増し、料理を優しく包み込んでくれる。
ほかにも日本各地から仕入れた特徴のある地酒が10種類以上。今をときめく手に入りづらい有名銘柄も取り揃えている。この店には、堅苦しいルールはなく、自由にお酒を楽しみ、締めの蕎麦で心とお腹を存分に満たしたい。
蕎麦前 山都住所=東京都港区麻布台1-3-1 麻布台ヒルズ タワープラザ 3F 電話=03-5544-9923 営業時間=11:30〜14:30(L.O.14:00)/17:30〜23:00(L.O.22:00) 定休日=月曜 ※各種電子マネー、交通系IC、各種クレジットカード利用可
TEXT BY TAKASHI TSUCHIDA
PHOTO BY KIPPEI MITSUYA
❷ 都会の夜景を望みながら、信州の美味と美酒に酔いしれる——信州そばきり みよ田
ニジマスとブラウントラウトを掛け合わせた、長野県水産試験場が約10年かけて開発した信州オリジナルのブランド「信州サーモン」の刺身¥1,000は、美しい紅色に、肉厚で繊細な味が特徴。 日本人好みの脂や臭みがなくさっぱりいただける。
『みよ田』名物「自家製そば味噌焼き」¥500。そば屋の定番「そば味噌」も、こちらでは信州味噌の白味噌と赤味噌をブレンドし、炒ったそばの実を合わせ焼いた逸品に。しゃもじは香り高い「木曽ひのき」。信州の味や香りが凝縮されている。
信州松本・塩尻発祥のご当地グルメ「山賊焼き」¥1,500。鶏肉を開いてニンニクの効いたたれに漬け込み、片栗粉をまぶして揚げたもの。名前の由来は「鶏揚げる」(取り上げる)→盗り上げる=「山賊」という説もあるそう。
日本酒も全て信州の地酒。常時18種類あり、今回はお薦めから3種類をセレクト。左から純米主流のトレンドからあえて本醸造で勝負する「木曽路」、濃厚なフルーティーさが特徴の純米吟醸「御湖鶴」、軽井沢近くの蔵で「長野D酵母」で醸された純米吟醸「佐久乃花」。ワイングラス(120ml)各 ¥950、一合 ¥1,300。
締めはざるそば(平日ランチ)¥900、(土・日・祝、平日夜)¥1,000を。信州の人は、あまり温かい蕎麦は食べないそう。二八蕎麦で、つゆは松本の本店より、東京の人向けに若干、塩味を抑えてまろやかにしているそう。この日は、八ヶ岳で収穫した蕎麦粉を使用。
店の前には、「本日のそば粉は八ヶ岳」の立て看板が置いてある。安曇野、木曽などその時々でベストな蕎麦粉を使用するという。地名を聞いただけでその場所の風景を想起し、「そこで採れた蕎麦なのか」と食す前からその美味しさに妙に納得してしまう。ここは、本格的な信州蕎麦と、信州の郷土料理、そして信州の地酒と、まさに信州尽くしの『信州そばきり みよ田』。長野・松本の名店が「虎ノ門ヒルズ」を選び、2020年東京に初出店した。蕎麦は、その香りがしっかり感じられる上、喉越しを考えた二八蕎麦。蕎麦粉だけではなく、信州の清澄な清水や空気を連想させる柔らかい水、「醤油の神様」と称される地元 松本の大久保醸造の濃口醤油、こだわりの鰹節などを使ったこだわりのつゆの深い味わいは、東京ではほかに味わうことができないと、小意気な通のファンも少なくない。
ディナータイムは信州地酒と郷土料理の「蕎麦前」で大人の嗜みを楽しみたい。蕎麦前は、人気の「馬刺し」¥1,200や、信州が誇るブランド「信州サーモンの刺身」、一枚鶏を揚げた野趣溢れる「山賊焼」など豊富。決して派手さはないが、清らかな素材の味が沁みるような、滋味溢れる肴の数々に癒される。“海無し県”のサーモンは、濃厚な味ながら生臭ささは全くなく、すっきりした後味。どれも酒に良く合い、食べ疲れしない。その懐かしい郷土の味にすっかりはまってしまい、足繁く通う常連のお客様も多いのだとか。
日本酒ももちろん信州の地酒。3種紹介したうちの2種は世界最大規模のワイン品評会「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」の“SAKE部門”でグランプリの栄誉に輝いたもの。どちらもフルーティーな味わいで、世界に認められた日本酒だ。蕎麦の実と味噌を和えて、香り高い木曽ひのきのしゃもじに付けて焼いた「そば味噌焼」¥500や特産の「野沢菜漬」¥600と共にいただけば、至極の時と幸せの余韻を実感できるはずだ。また、リーズナブルなコース「おすすめプラン」¥2,800もいい。信州のおつまみ3種、馬刺し、鴨鍋、天ぷら盛り合わせ、蕎麦(ざる又はかけ)というまるで高級旅館の夕食のような信州の美味が盛りだくさん。ビールやサワー、そしてほぼ全種類の地酒が選べる飲み放題プランをつけても ¥5,000だという。都会の喧騒の中、落ち着いた雰囲気とほっこりする料理と美酒——そんな信濃の国の優しさにじんわりと心温まる時を過ごしてみたい。
信州そばきり みよ田住所=東京都港区虎ノ門1-23-3 虎ノ門ヒルズ 森タワー 3F 電話=03-6273-3433 営業時間=平日 11:00~15:00(L.O.14:30)/17:00~23:00(L.O.21:30)、土・日・祝 11:00~15:00(L.O.14:30)/17:00~22:00(L.O.21:00) 定休日=無休 ※各種電子マネー、交通系IC、各種クレジットカード利用可
TEXT BY AKIRA TANAKA
PHOTO BY HIDEHIRO YAMADA
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