鮎に鱧に鰻に鮪——。夏が一番華やかになる日本料理。そんな時季、ハレの日に行きたい、一流でありながらも1万円台でコースが楽しめる懐石料理店をご紹介。今回は特別に「ヒルズライフ」読者限定のサービスもあります!
TEXT BY TAKASHI TSUCHIDA
PHOTO BY HIDEHIRO YAMADA
EDIT BY TM EVOLUTION.INC
❶ 極めつけは、炭火焼きの鮎!日本人のDNAに刻まれた、芳しい夏の記憶を呼び覚ます
——日本料理「雲海」
「先付 氷室玉蜀黍」。読み方は、「ひむろとうもろこし」。葛菓子のように、トゥルンっと喉を通り越していく、トウモロコシの自然の甘みを湛えた一品。これがじゅんさいと合わないわけがない!
「御椀 鱧潮仕立て」。鱧のアタマと骨で丁寧に取った出汁に、鱧の身を浮かばせ、青梅を合わせている。鱧の淡白な味わいの裏側で、強烈な出汁の旨味が待ち構える。
「造り 季節の恵4種」。マグロは冷凍ではなく、生。時期によって一番いいものを取り寄せている。その他の魚介は、大分豊後水道の臼杵(うすき)をはじめ、産地から直接取り寄せる。写真は、マグロ、イサキ、カマスの酢〆、アオリイカだ。また料理長が探してきた、辛味の強い昔ながらの大根を蔵出し味噌でいただくのが、この日のツマ代わり。
「焼物 活け鮎炭火焼き」。鮎は焼き石にヒバを敷き詰め、テーブルに運ばれる。ゆえに、蓋を開けた瞬間に、薫香に包まれるという趣向だ。左下はツバメ生姜。ツバメの形をしていることから、昔からそう呼ばれてきたもの。お好みで、蓼酢を使う。
「水菓子」。コース最後は、大人気の氷菓子。季節ごとに変わっていくが、取材した7月はじめは「抹茶」(京都辻利製)と「長野パープル」(自家製ブドウソース)が提供されていた。抹茶は驚くほど濃厚であり、長野パープルは練乳を加えて甘酸っぱさを強調。『雲海』の格式をそのままかき氷に当てはめる様相で、あまりの美味しさに感動する人が絶えない。
お客様を歓迎する、金魚の行灯。玄関を入ってすぐのノスタルジックな設えが、非日常的感覚へと誘う。
『雲海』の夏は、鮎で始まる――。新鮮な活鮎は、焼く直前に厨房で処理。ロースターではなく、炭火焼きにこだわり、強火力で鮎の水分を一気に飛ばす。ロースターだと蒸発した水分が回り、蒸し焼きになってしまうからだ。そうではなく、鮎はカリっと香ばしく焼くと、香りが断然たってくる。その香りとは、燻された煙の芳しさだ。これが、実に心地よく鼻に抜けていく。日本の夏といえば、この香りだった! という、遠い先人の記憶を蘇らせる。
鮎の脂が炭火にしたたり、さらなる火力で身が燻されることで、鮎の香りは一段と色めき、香りの衣を纏っていく。この香ばしさは、是非ともアタマから頬張りたい。皮はカリっ、その身はフワリ。なるほど、常連客が、この鮎を求めて毎年、通うのも頷ける。
この鮎を「焼物」のクライマックスとして、『雲海』の夏のコースは構成されている。「会席のルールには則っていますが、あまり縛られすぎず、何より私自身が食べたいものだけをコースに並べているんです」と、吉安料理長。このホテルは外国からの宿泊客も多いが、和食の核心を知るのにうってつけだろう。
素材の味付けはシンプルに。しかし、出汁や仕込みに手間を惜しまず、丁寧極まる調理方法をいまなお実践。厨房には焼き場、揚場、板、煮方というように、ポジションごとに職人がいて、チームプレーで料理が用意される。ゆえに、テーブルごとの食の進みに合わせて、ベストなタイミングで次の皿が運ばれてくる。熱いものは熱いまま。冷たいものは冷たいまま。そうした抜群の進行も、チームプレーの為せる技。味よし、タイミングよし。その総合点が、この店はすこぶる高い。
意外なのは、草木を臨む窓外の景色。この店舗はビルの3階にあるのだが、この店だけの庭がある。緑を目にしながらいただく会席は、誠に涼しく、顔がほころぶ。
日本料理「雲海」住所=東京都港区赤坂1-12-33 ANAインターコンチネンタルホテル東京 3F 電話=03-3505-1185 営業時間=ランチ11:30〜15:30(L.O.13:30)/ディナー17:00〜21:00(L.O.19:00) 定休日=火曜、水曜 ※8月15日は営業 ※ランチ・ディナーのコース例「恵〜KEI〜」¥17,402(税・サ込)。ほかに¥11,187、¥21,131、¥31,075のコースも選べる ※各種クレジットカード利用可
❷ 隠れ家のカウンターで音や香り、味わいの“ライブ”を楽しむ
——霞町三〇一ノ一
西麻布の隠れ家的名店『霞町三〇一ノ一』で、夏の旬の食材を少しずつ、いろいろ楽しみたいのなら「季節のおまかせスペシャル特選コース」¥17,600(別途サービス料10%)がおすすめ。全11品がコース仕立てで提供される。こちらはその中の一品、お造里(つくり)の「産直鮮魚盛合せ」。魚は徳島と愛媛の漁港から仕入れている。
オーナーのお父様が秋田県出身ということで、夏には秋田から仕入れるジュンサイを使った料理を提供している。コースで出される「白海老とジュンサイの掻揚げ」は、ジュンサイのぷるぷる、つるりとした食感を、衣のカリカリ感と共に味わえる。
コースの強肴(しいざかな)「和牛のロースト 夏野菜」。常陸牛をローストしたものと夏野菜をちり酢でさっぱりといただく。
カウンター越しに間近で見られる料理長・川西敦史さんの包丁さばき。女将の竹原和子さん曰く、川西さんは「包丁マニア」。「包丁の話題を振っていただけると喜びますよ(笑)」とのこと。
コースの締めには夏のご飯として、土鍋で炊き上げる「玉蜀黍(とうもろこし)とアスパラの炊き込み」が出される。隠し味としてベーコンを細かく刻んで炒めたものが使われている。鮮やかな色合いが食欲をそそる。
オーナーは唎酒師でもあり、各地の蔵元を巡って銘酒を揃えている。「リニューアルオープン1周年! 蔵元応援スペシャルコース~希少な地酒のペアリング付き~」¥19,800(別途サービス料10%)では、選び抜かれた日本酒の数々が料理のペアリングとして提供される。7月17日までの期間限定コースだが、ヒルズライフ読者に限り、7月末まで受け付けてくれる。ご予約の際、「ヒルズライフを見た」とお伝えください。
西麻布交差点から青山霊園方面へ、裏路地を少し進んだ先のビルの3階に『霞町三〇一ノ一』はある。店の佇まいは大人の隠れ家だ。エレベーターを降り、暗証番号を押して扉を開けると、日本酒がずらりと並ぶセラーが目に飛び込んでくる。オーナーは唎酒師であり、料理研究家、フリーアナウンサーでもある渡辺ひと美さん。2006年に紹介制の和食店としてオープンし、昨年、「極上つまみ割烹」という新しいコンセプトでリニューアルオープンした。
四季折々の旨い料理、旨い酒をたくさん楽しんでもらいたいと、コースでは旬を活かした料理を少しずつ、工夫を凝らしてバラエティ豊かに提供する。例えば、夏を迎えた今なら「白海老とジュンサイの掻揚げ」。秋田から仕入れるジュンサイをふんだんに使い、白海老と合わせてからりと揚げる。水草の一種であり透明なぬめりをまとったジュンサイの天ぷらは、ほかではなかなか味わえないものだ。
『霞町三〇一ノ一』の楽しさは、磨き上げられた木のカウンターのすぐ正面に調理台や焼き場があることだ。料理人の包丁が発するトントンと小気味よいリズム、天ぷらを揚げるチリチリという音、肉を焼く備長炭が小さく爆ぜる音などが聞こえてくる。焼いたり揚げたりすることで香りが変化していくことも感じられる。それぞれの料理がいかに繊細に盛り付けられているかも見てとれる。
洗い場は客席から見えない店の奥に設けられているが、調理スペースはカウンター前だけだそうだ。和食の手法で、旬の食材が美味しいひと皿に生まれ変わっていく様を見ることができる。それはまさに料理人による“ライブ”。もちろん個室も用意されているが、王道の日本料理を楽しみたいのなら、カウンターは特等席になるはずだ。
霞町三〇一ノ一住所=東京都港区西麻布2-12-5 MISTY西麻布 3F 電話=03-6805-3227 営業時間=17:00〜23:00(L.O.フード22:30、ドリンク22:45) 定休日=日 ※要予約(電話またはオンライン予約にてご予約ください。ヒルズライフを見たとお伝えください) ※各種クレジットカード利用可
※2023年7月現在の情報となります。
※表示価格は全て税込価格です。
#日本料理
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