中田英寿さんがオーガナイザーとなって日本酒の魅力や日本文化を発信するプロジェクト「CRAFT SAKE WEEK」。その会場構成を担当する建築家の田根剛さんにコンセプトを聞きました。
TEXT BY MARI MATSUBARA
「CRAFT SAKE WEEK at ROPPONGI HILLS 2023」がいよいよ4月21日(金)から4月30日(日)までの10日間、東京・六本木ヒルズアリーナで開催される。2020年4月に開催を予定されていたこの催しはコロナ禍による緊急事態宣言を受けて直前に中止された。それが今年ようやく開催される運びとなったのだ。以前から日本酒の魅力を伝える活動を続け、400を超える酒蔵を訪問してきた中田英寿さんが代表を務めるJAPAN CRAFT SAKE COMPANY主催のイベントで、2016年以降、六本木ヒルズをはじめ博多や仙台でも実施されてきた。今回の会場構成の担い手として中田さんが白羽の矢を立てたのは、建築家の田根剛さんだった。田根さんは高校時代にジェフユナイテッド市原のユースチームに在籍した経験があり、サッカーという共通項が両者を引き合わせた面もあるという。
——中田さんから会場構成のオファーを受けて、どんなことを考えましたか?
田根 一時期プロを目指していた僕のようなサッカー少年にとってヒデさんは憧れの大スターでした。そんな大スターから依頼をいただき光栄に思い、喜んでお引き受けしました。ヒデさんが長年取り組まれている日本酒や伝統的な職人技の素晴らしさを伝える活動に、会場構成としてどうお手伝しようかと考えました。お酒の起源を研究するなかで、枡酒が思い浮かびました。あらたまった場で日本酒を飲む時に使われる器としての枡ですが、それだけではなく、昔から米や豆や液体の量を測る道具としても使われてきました。数値で示すよりも、ひと目でものの量が分かる道具です。シンプルな形ですが、正確な測量のためには非常に精緻な構造が求められます。寸分の狂いなくカットされたヒノキの板にホゾを切って糊で組み合わせることで、枡のシャープな四隅が生まれ、水一滴も漏れないジョイントになっています。そこには昔から受け継がれてきた日本の匠の技が生きているのです。
——枡の大きさはどのぐらいですか?
田根 一升枡なので、約1.8リットルの容量になります。外寸で約17㎝四方、高さは9㎝ぐらいあるので、実際に手にすると結構迫力ある大きさですよ。1.8リットルの液体はボトルに入れられた状態で目にすることが多いので、この枡の中に収まると思うと、ちょっと意外な気がします。ヒノキなので香りもいいですし、手触りも柔らかいです。これを3,000個使って壁面にしたり、ディスプレイ用の台やテーブルを作ったりします。大きな枡がこれだけの数集まるので、来場する方に新鮮な驚きを与えられるのではないかと思っています。
——枡もまた、日本が誇る工芸品であり日用品ですね。
田根 今回使わせていただいた枡は、岐阜県の〈大橋量器〉というメーカーに協力していただきました。角の仕上げの正確さ、水を入れても膨張することのない容器としての完成度は、まさに職人技です。ヒノキの木を裁断して枡を作ることも、お米を育てて酒を作ることも、工程の一部が機械化されたとはいえ、やはり人の手の経験値が肝心であるという共通点があると思います。何百年も前から脈々と受け継がれてきた職人技や人の営みは、ともすると見過ごされがちですが、「CRAFT SAKE WEEK」というイベントを通じて、日本人はもちろん外国の方々にも、日本酒と枡というクラフトの魅力に注目していただければ嬉しいです。
中田英寿|Hidetoshi Nakata
元サッカー日本代表。引退後100以上の国や地域を旅し、2009年からは全国47都道府県を巡って、これまで400以上の酒蔵を訪問。15年「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。日本酒に関するコンサルティング他、幅広く日本文化について発信中。日本酒アプリ「Sakenomy」、日本酒トレーサビリティシステム「Sake Blockchain」の開発にも参画している。
田根剛|Tsuyoshi Tane
1979年生まれ。Atelier Tsuyoshi Tane Architectsを設立、フランス・パリを拠点に活動する。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに世界で活躍中。主な作品に「エストニア国立博物館」「とらやパリ店」「弘前れんが倉庫美術館」他。帝国ホテル新本館(2036年完成予定)のデザインアーキテクトに就任。2021年フランス国外建築賞グランプリ、2022年第67回毎日デザイン賞2021など受賞多数。
SHARE